テオドール・サーントの編曲による幻想曲とフーガ ト短調 BWV 542。 海外の音楽愛好家からいただきました。オルガンの原曲はバッハの全作品中でも最も有名な10曲に入るでしょう。 以前からずっと探していたもので、手にしたときには大変感動しました。 サーントはあのブゾーニの弟子の一人で、他にもパッサカリアの編曲がありますが、 その優れた編曲からト短調の幻想曲もきっと素晴らしい編曲なのだろうと期待していました。 1年半前くらいに、カツァリスのバッハ編曲集のCDこのサーント編曲 (さらにカツァリスが編曲)が入っているのを聴いて、ますます見てみたくなったのをよく覚えています。 以下の譜例は冒頭部分ですが、なんと分厚い編曲でしょう。途中では親指で同時に3つの音(黒鍵)を鳴らすなど、 常に大量の音が同時に鳴っているような編曲です。

Bach=Szanto/ Fantasia and Fugue in G minor BWV 542

一方で、この曲のピアノ編としてはかなり有名なリストの編曲があります。サーント編と比べてみましょう。 リスト編の後期改訂版の譜面は以下のようになっています。少なくとも幻想曲では、音の分厚さはないものの、 音色の多様さとしてはリスト編も負けていないと思います。特に左手のOssia、この対位句にはすばらしい効果があります。 前述のカツァリス編曲は、サーントの分厚い編曲にこのリストの対位句を伴わせたものでしょう。 その気持ち、よくわかります。

Bach=Liszt/ Fantasia and Fugue in G minor BWV 542


しかし幻想曲が終わってフーガに入ると、リスト編の霊感に満ちた編曲は失速します。 立体感に欠けるのっぺりとした音の扱い。フーガにも改訂を加えOssiaを付けて欲しかったものです。 それに比べサーント編はフーガでも強靱さを失いません。 高音域の活用、そして1音間隔でオクターブにして響きを増強した旋律。以下の譜例はまさにそのいい例です。

Bach=Szanto/ Fantasia and Fugue in G minor BWV 542

カツァリスの、サーントとリストの「いいとこ取り編曲」は、ある意味必然的な解答なのかも知れません。