無伴奏チェロ組曲 第1番。伴奏を伴わない、チェロのソロで奏でられるこの有名な曲、特に感動的な大きなうねりが表出されるプレリュードは広く世間から評価されているすばらしい曲です。チェロだからこそ表現できる渋い低音、弦楽器特有の倍音、ピアノ弾きには到底表現できない憧れの音楽です。ではこの曲をピアノで弾いたらどうなるか??チェロ譜にある音符の通り弾いてみることは可能ですが、無伴奏チェロでの演奏とは全く比較になりません。

さて、先日紹介したシロティの編曲集の中に、「無伴奏チェロ組曲による子供のための練習曲」という4つの楽章があります。その中に無伴奏チェロ組曲 第1番からプレリュードとクーラントが収録されています。これらの編曲はまさにチェロ譜にある音符を左右の手で振り分けて弾くだけのものです。タイトルに「子供のための練習曲」とある通り、あくまでも題材としてチェロ組曲の音楽を使った練習曲であり、ピアノで再現する芸術作品と呼ぶにはやや物足りないものです。
Bach=Siloti/ Prelude from Four Etudes for the Young
(Bach=Siloti/ Prelude from Four Etudes for the Young)

もう一つ紹介するのは、ヨアヒム・ラフ(Joachim Raff, 1822-1882)が同組曲の全楽章をピアノソロに編曲したものです。
この楽譜を見てわかるとおり、左手でチェロ原曲のうねりを演奏し、右手に新たな旋律を加えています。本来のすばらしい分散和音が、新たに付け加えられた旋律の伴奏になってしまったのです。これは、平均律 第1巻 第1番のプレリュードを元に作られたグノーの「アヴェ・マリア」と同じアイデアです。
Bach=Raff/ Prelude from Suite for Unaccompanied Cello No.1 in G major BWV 1007
(Bach=Raff/ Prelude from Suite for Unaccompanied Cello No.1 in G major BWV 1007)

この編曲をどのように感じますか?この編曲を聴く(弾く)には、原曲の無伴奏チェロによる演奏を忘れ去る必要があると思います。あまりにも原曲の偉大さがゆえに、いかなる編曲も受け入れられないのではないでしょうか。
しかし実際には、プレリュード、アルマンド、クーラント、サラバンド、メヌエット、ジーグまで通して非常によく編曲され、あたかもバッハのオリジナルのクラヴィーア組曲のように均整の取れたピアノ曲集になっていると思います。できる限り先入観を捨てる努力をしてこの組曲全体の編曲を聴いてみてはいかがでしょう。「無伴奏チェロ組曲第1番のピアノ編」ではなく、「組曲 ト長調」として。

CDは、Amazonでは見つかりませんでしたが、レーベル等の情報はこちらの音盤紹介ページをご参照ください。