シフラの弾くバッハ(初出含む)

超絶技巧で知られるジョルジュ・シフラ(Georges Cziffra, 1921-1994)。スタジオ、ライブともにたくさんの録音が残されていますが、バッハの録音はほとんど無く、編曲もので数曲あるのみです。その中でもブゾーニ編曲の前奏曲とフーガ 二長調 BWV 532はお気に入りだったようで、ライブ録音、スタジオ録音、また映像でも残されています。
ジョルジュ・シフラ/スタジオ録音全集1956-1986(40CD)icon
ところで最近、シフラの没後15年記念企画として
ジョルジュ・シフラ/スタジオ録音全集1956-1986iconというCD40枚組のボックスが発売されましたが、その中に今まで未公開だった曲がいくつか入っていたので、つい買ってしまいました。それがかの有名なトッカータとフーガ ニ短調 BWV 565のプライベート録音で、これがまた面白い編曲。彼のスタジオ録音特有の淡々とした演奏。ブゾーニ編曲と書いてありますが、明らかに多くの音をいじっており、シフラ編曲と言っても良いでしょう。この曲は以前blog記事で書いた通りたくさんの編曲を見てきましたが、他のどれとも異なります。高音や低音に付け加えられた派手な飾り付け、半音階進行の対旋律の追加など、オルガン効果をピアノで出そうという編曲というよりも見世物的な要素が強いと思います。シフラはなぜこの曲の録音を公開しなかったのか、真相はわかりませんが、シフラ編曲版を作る実験段階だったのかも知れません。何にせよ、このような面白い編曲も聴けたので、40枚組を買った意義を十分感じることができました。
—-(ご参考)シフラのバッハ編曲物レパートリーは以下の通りです。
前奏曲とフーガ ニ長調 BWV 532 (1962年Live、1968年、1981年)
コラール『目覚めよ、と呼ぶ声あり』 BWV 645 (1968年)
コラール『汝のうちに喜びあり』BWV 615 (1968年)
コラール『今ぞ喜べ、愛するキリスト者の仲間たち』BWV 734 (1968年)
トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565 (1965年, Collection G. Cziffra)
※なお、CDの曲目にも、ディスコグラフィにも、BWV 629とありますが、BWV 734の間違いです。
—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-

ファジル・サイのコンサート

今日は、すみだトリフォニーホールでファジル・サイのピアノリサイタルに行ってきました。
サイの演奏会は、何日かあるリサイタルシリーズの中で大抵1日はバッハかバッハの編曲物が含まれているので、今までも何度か足を運んできました。今回も前半はオールバッハ(の予定でしたが、曲目変更でパッサカリアからヤナーチェクのソナタになってました)。中でも私が最も楽しみにしていた曲目が、初めて聴くことになるサイ編曲の幻想曲 ト短調 BWV 542。オルガン曲の中でも特に有名なこの曲、サイは一体どのように編曲して魅せてくれるのか。曲目に「幻想曲」とだけ書いてあって、続くフーガは弾いてくれるのか、など心配しつつ、幻想曲部分が始まりました。出だしは非常にシンプル、改訂前のリスト編曲と同じような始まり方でした。幻想曲について言えば、私の予想は完全に裏切られ(悪い意味ではなく)、オルガンの響きを思わせる迫力のある音使いはほとんどありませんでした。リスト編などでは多くのピアニストが盛り上げる部分を、全体的に速いテンポで微妙なニュアンス(弱め)の音使いをしていて、新鮮な趣でした。その効果はフーガに入ってようやく気づかされました。フーガはかなりの迫力をもった編曲で、サイ得意の大音量の低音を鳴らしていました。きっとこの曲もそのうち楽譜として出版されることでしょう。
サイの弾くバッハは、シャコンヌにしても、オリジナルのフランス組曲にしても、強弱・緩急が激しく、実を言うと私好みの解釈ではありませんが、演奏会で弾く姿とともに入ってくる音楽としては惹きこまれていく感覚があり、不思議です。独特のリズム感があるのでしょうか。
終演後のサイン会で、サイ編曲のパッサカリアの楽譜にサインしてもらいました。当初プログラムに予定されていたサイ編のパッサカリアがなくなってしまったのは残念でしたが、なかなか楽しめた演奏会でした。今回のプログラムは以下の通り。
ファジル・サイ・プロジェクト in Tokyo 2008
2008/12/4(木) 第1夜:ピアノ・ソロ
バッハ=ブゾーニ/シャコンヌ
バッハ=サイ/幻想曲 ト短調 BWV542
バッハ/フランス組曲第6番 ホ長調 BWV817
ヤナーチェク/ソナタ 1.X.1905
(休憩)
スカルラッティ/ソナタ へ長調 K.378、ニ短調 K.1、ハ長調 K.159
ラヴェル/ソナチネ
プロコフィエフ/ソナタ第7番 「戦争ソナタ」
(アンコール)
ムソルグスキー/展覧会の絵(途中から)
サイ/黒い大地
ベートーヴェン/ソナタ「テレーゼ」