バッハのピアノ編曲・音盤紹介
Transcendental Bach
Transcendental Bach
  • Piano: Thomas Labé
  • Label: Dorian (February 1, 1994)

 私は、このCDによってバッハのピアノ編曲版の魅力を初めて味わい、以来様々なピアノ編曲版バッハを探すようになりました。 つまり私にとってはもっとも重要なCDの一つなのです。 さてこのCD、すべてバッハの無伴奏弦楽器曲のピアノ編曲が収録されています。このCDを聴く前には、 まず原曲の無伴奏曲のイメージは頭から捨て去る必要があります。原曲の(精神的に素晴らしい曲だという)先入観があると、 せっかく名編曲によって全く新しいピアノ曲として生まれ変わっているのにもかかわらず「こんな曲のはずがない」 というマイナスイメージを抱いてしまう可能性があるためです。
 無伴奏ヴァイオリン曲のピアノ版として最も有名なブゾーニ編「シャコンヌ」。 恐ろしいスピードで走り抜けるこの演奏にまず驚かされます。 原曲に愛着を持つ方だけでなく、ブゾーニ編を普段聴いている方の中でも、この解釈には賛成できないかもしれませんし、 本来この曲が持つ魅力とは違うと思いますが、聴いていて爽快さを感じる演奏であることは確かです。 ラフマニノフ編の「ホ長調パルティータからの3楽章」 もシャコンヌと同様に快速で軽妙な演奏を聴かせてくれます。曲調からすると、こちらの曲は合っているように思います。
 他では録音が少ないゴドフスキー編の「無伴奏チェロ組曲」、これが非常に素晴らしい演奏を聴くことができます。 荘厳な「組曲第5番の前奏曲とフーガ」。 楽譜を見ると、原曲の持続音の部分はほとんど対旋律で埋め尽くされ、執拗なまでのオクターブの低音の連続があっても決して重くなりすぎず、 原曲の持つ魅力とは全く別の新たな命が吹き込まれています。 「ニ短調の組曲第2番」もまた優れた演奏です。嵐のように激しいクーラントなど、 もはや原曲の舞曲名は消して「アレグロ・コン・フォーコ」と呼んだ方が良いように思われます。
 ゴドフスキーやブゾーニによるこれらの編曲は音を洪水のように溢れさせた編曲であるため、全ての音をゆっくりくっきりと演奏すると 場合によってはもたついてしまい「余計な音が多い」と聴き手に感じさせてしまうおそれがありますが、このCDで聴ける演奏ではそれを 微塵とも感じさせません。全体的にすっきりと弾いていることから、大量の音の連続の中からくっきりとバッハの音楽が汲み取れるわけです。 「超絶技巧バッハ」というCDのタイトル通り、超絶技巧をもってして初めて達成し得るバッハのピアノ音楽がここにあります。 ゴドフスキー編の無伴奏ヴァイオリンソナタの方もぜひ録音を残して欲しいものです。




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