バッハをピアノで、という分野で大変興味深いCDが発売されました。タイトルは「 『B-A-C-H 変貌するバッハ、ピアノ・トランスクリプションズ』 菊地裕介」、有名なブゾーニ、ラフマニノフ、ケンプ、ヘス等の編曲に加え、菊地氏自身の編曲も併せて収録されています。
ブゾーニのシャコンヌは、無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番の終曲。本来は、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグ、そしてシャコンヌと5曲からなる組曲です。
この無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番の全曲(シャコンヌ以外)は、有名な音楽家によるピアノ編曲は未だ無いと思われます(チェンバロでは、レオンハルトが自編を演奏してますが)。菊地氏の編曲は、オリジナルの旋律に自然な対旋律を付け、見事なピアノ曲に仕上げています。アルマンドとクーラントはあたかもこういうクラヴィーア曲があるかのようなおとなしい編曲ですが、サラバンドから、低音や音量幅を拡大し、ブゾーニ編のシャコンヌへの橋渡しを彷彿させます。続くジーグもさらに活発に、高音域を使用しピアニスティックな編曲。CDの解説にも書いてありましたが、アルマンドからシャコンヌに向けて次第に自由度を増した編曲になっています。
このCDには菊地氏編曲の手書き譜のうち、サラバンドが付録で入っていました。この菊地氏の編曲は、全音から出版される予定とのこと。非常に楽しみです。絶対に買います。
収録曲は以下の通りです。
・無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第3番 ホ長調より(ラフマニノフ編)
・主よ、人の望みの喜びよ(ヘス編)
・無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第2番 ニ短調(菊池編、およびブゾーニ編)
・シチリアーノ(ケンプ編)
・音楽の捧げもの より 6声のリチェルカーレ
・B-A-C-Hの主題による幻想曲とフーガ(リスト)
(6/14追記)
全音から出版された楽譜も購入しました。
月: 2009年4月
楽譜を出版してもらいました
このたび、私が編曲した作品の一部を、Music Bells (ミュージック・ベルズ)から出版してもらうことになりました。楽譜を出版するというのは、利益を得る云々ではなく、世の中に自分の足跡を残すという意味で、いつか実現したいと考えていたことなのですが、比較的手軽な方法で出版する機会を提供しているMusic Bells (ミュージック・ベルズ)に感謝したいと思います。
このMusic Bells (ミュージック・ベルズ)では、電子データ楽譜(PDFファイル)と、紙に印刷された楽譜との、どちらかを選んで購入することができます。今回は以下リンクの3曲を出版してもらいました。
ブランデンブルク協奏曲 第1番(テューリン編)
昨年末、とある演奏会で取り上げた、ブランデンブルク協奏曲 第1番のピアノ編曲を紹介します。
(Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 1st. mov.)
このブランデンブルク協奏曲 第1番の楽譜(全楽章がピアノソロに編曲されています)は、モスクワのムジカ社から1961年に出版されていたもので、プラハの音楽学校の図書館に眠っていました。編曲者テューリン(Juri Tulin, 1893-1978)については、ロシアの音楽家ということ以外は詳しいことはまだ判明していませんが、この編曲は見事です。原曲が比較的大きな規模の楽器編成ということもあって、ピアノソロで弾けてしまうこと自体が驚きです。
音が密集している中で音域の交換や思い切ったパートの省略(フォッフォッフォッ フォッフォッフォッ フォ- という特徴的なホルンの合図を無視しています)をうまく活用し、ピアノ1台で生み出せる最大限の効果を出せていると思います。下の譜例のように、ピアノの高音域を随所に織り交ぜていることから、ピアノならではの輝かしい響きを出しています。また、同じパッセージを異なる楽器で掛け合う部分についても、3度、6度、音域、とそれぞれ変化をつける工夫をしていることも見てとれます。
(Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 1st. mov.)
とはいえ、シャコンヌなどの編曲とは違ってピアノに適した楽想ではなく、純粋なピアノ曲としては鈍重な感は否めません。バッハの音楽をピアノの音色で楽しむということに割り切ることです。(実際に私がこの曲を演奏した後、数名の方から「わざわざピアノで弾かなくても・・・」と評判は概ねマイナスでした。。。)
ところで、ブランデンブルク協奏曲は、バッハの全楽曲の中でも私が最も好きな曲集です。全6曲、全てが異なる楽器編成で、この第1番はコルノ・ダ・カッチャ(ホルン)、オーボエ、ファゴット、ヴィオリーノ・ピッコロが独奏楽器群、ヴァイオリン、ヴィオラ、ヴィオローネ、通奏低音が合奏楽器群ということで、曲集の中でも大規模な編成です。それぞれの独奏楽器群が緊密に掛け合う論理的・幾何学的な構成がこの曲の魅力です。
ブランデンブルク協奏曲集の全6曲について、ピアノソロ用の編曲をようやく全て揃えることができました。原曲の方が素晴らしいのは当り前の話ですが、楽団を率いることができるわけではないので、このピアノソロ編曲をいつか全曲制覇したいものです。
以下第2~4楽章までの譜例です。演奏者に無理を要求するような編曲ではありません。
◎第2楽章の譜例
(Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 2nd. mov.)
◎第3楽章の譜例
(Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 3rd. mov.)
◎第4楽章の譜例
(Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 4th. mov.)
フルートとピアノ(チェンバロ)のためのソナタ
バッハのフルート・ソナタというと、フルートとチェンバロ・オブリガートによるもの(BWV 1030~1032)と、フルートと通奏低音によるもの(BWV 1033~1035)がそれぞれ3曲ずつあります。
これがまた名曲揃いなわけですが、とりわけ傑作の誉れ高いロ短調のソナタ、BWV 1030をフルートの友人と挑戦することにしました。
現代のフルートとピアノで演奏することになるわけですが、私は実はフルートとチェンバロの組み合わせよりピアノとの組み合わせの方がよりいい響きになる、と感じています。ところが、ヴィオラ・ダ・ガンバのソナタや、ヴァイオリンのソナタではピアノとの組み合わせで録音がいくつかあるのですが、フルートのソナタの方でピアノと組み合わせた録音はあまり見かけません。何故でしょう?
そんな中、唯一私が知っているピアノとの組み合わせでの録音、これが大変お気に入りなものなのでぜひ紹介したいと思います。hänsslerから出ている「Chamber Music For Flute: Gerard(Fl)」(BachPodにも入っています)で、無伴奏フルートパルティータ BWV1013 なども含めた2枚組です。
Amazonでは見つけられませんでしたが、NaxosのNMLで聴くこともできます。
http://ml.naxos.jp/album/CD92.121
なおこのCDの中には、リュート組曲 ハ短調 BWV997のフルートとピアノのための編曲が収録されており、それもまたとても心地よい音楽です。
好みは分かれるかもしれませんが、私は是非ともおすすめしたいCDです。