Nebel: Opus Magnum 1

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過去に2〜3年に1枚のペースでバッハピアノ編曲のCDをリリースしてきた、Angelika Nebelの最新作、『Opus Magnum 1』の紹介です。
(2010年:Bach-Transkriptionen、2013年:Bach Metamorphosis、2015年:Bach Illuminationes
ライナーノーツに書かれた解説によると、今回のCDは予定された2枚のうち1枚目とのこと、全24曲・長短全24調による多様なピアノ編曲をネーベルなりの方法でまとめたそうで、その半分が収録されています。そのまとめ方は、原曲の編成、曲調、編曲家の出身国など様々な属性について多様化を目指しているようです。続編も楽しみです。収録曲は以下の通り。
1. ハ長調 管弦楽組曲 第1番 ハ長調 BWV1066 より 「序曲」 (シュミット編)
2. ハ短調 ただ愛する神の摂理にまかす者 BWV647 (フェインベルグ編)
3. 嬰ハ長調 ジョヴァンニのアリア『あなたの心を私にくれるなら』 BWV518 (ネーベル編)
4. 嬰ト短調 カンタータ第40番 より コラール『イエスよ、あなたの四肢である私たちと』 (ネーベル編)
5. 嬰ヘ短調 マニフィカト BWV243 より 『主は権力あるものを地位からおろし』 (プラド編)
6. ト長調 最愛のイエス、われらここにあり BWV731 (コーエン編)
7. ヘ短調 前奏曲とフーガ ヘ短調 BWV534 (ダルベール編)
8. 変ロ長調 われ汝に別れを告げん BWV735 (フェインベルグ編)
9. イ長調 管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068 より「ガヴォット」 (フレーディング編)
10. 嬰ハ短調 チェンバロ協奏曲 第2番 ホ長調 BWV1053 より「シチリアーノ」 (フィッシャー編)
11. ヘ長調 カンタータ第36番『喜びて舞いあがれ』 BWV36より「アリア」 (バウアー編)
12. 変ロ短調 カンタータ第127番『主イエス・キリスト、真の人にして神』 BWV127~アリア『魂は主の御手のうちに』 (バウアー編)
音源はHMV、Amazonそれぞれ以下で入手可能です。
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バッハ=ストラダルのナナサコフCD

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バッハのブランデンブルク協奏曲、ストラダルによるピアノソロ編曲版について、ナナサコフによる録音が12月にリリースされます。(Amazonへの商品リンク
およそ6年前に、ストラダル編曲のブランデンブルク協奏曲集の楽譜校訂と解説執筆のお仕事をさせてもらった流れで(関係者は別ですが)、今回は楽譜提供とこのCDのブックレットの解説文を担当させていただきました。
傑作であるブランデンブルク協奏曲全6曲を中心に据えながら、ヴィヴァルディ等先輩の協奏曲を編曲したオルガン協奏曲、自身の旧作を編曲したチェンバロ協奏曲、つまりバッハの音楽人生と協奏曲との関わりを追った名曲群が、全てピアノ・ソロ用の編曲として収録されています。
ミヒャエル・ナナサコフは、Wikipediaにもある通りMIDI打ち込みと自動ピアノを組み合わせて楽曲演奏を行うヴァーチャルピアニストです。カツァリスやアムランにも難し過ぎると言わしめたこれらの編曲、まさにナナサコフの出番です。
音源化してくれたことに感謝です。収録曲は以下の通り。
[Disk 1]
(1) ブランデンブルク協奏曲 第1番 ヘ長調
(2) ブランデンブルク協奏曲 第2番 ヘ長調
(3) ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調
(4) ブランデンブルク協奏曲 第4番 ト長調
(5) ブランデンブルク協奏曲 第5番 ニ長調
[Disk 2]
(1) ブランデンブルク協奏曲 第6番 変ロ長調
(2) チェンバロ協奏曲 第1番 ニ短調
(3) チェンバロ協奏曲 第5番 ヘ短調
(4) オルガン協奏曲 第2番 イ短調
(5) オルガン協奏曲 第4番 ハ長調
(6) オルガン協奏曲 第5番 ニ短調

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ブゾーニ関連の2台ピアノ作品CD/DVD

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2016年はブゾーニ生誕150年の年であり、そのアニバーサリー企画のCD(DVD)「Early Twentieth Century: in search of roots… Vol.1: Works For 2 Pianos」がリリースされました。
このCD/DVDのメインは、ブゾーニの対位法的幻想曲・2台ピアノ版と、ブゾーニの弟子だったイタリアの作曲家兼ピアニスト、ターリアピエトラ(Gino Tagliapietra, 1887-1955) 編曲のパッサカリアの2台ピアノ編。
六年前に、2台ピアノ編のパッサカリアという記事でこのターリアピエトラ編のパッサカリアについて書きましたが、当時は録音が無かったものが、CD・DVDとして聴けるようになりました。
他の収録曲も他に録音が少ないものであり、録音だけでなく映像としても収録されているため、貴重なリリースです。
<収録曲>
バッハ=ターリアピエトラ: パッサカリア ハ短調 BWV 582
ブゾーニ:対位法的幻想曲
・ブゾーニ:バッハのコラール「幸なるかな」による即興曲
・モーツアルト=ブゾーニ:自動オルガンのための幻想曲
・モーツァルト=ブゾーニ:協奏的小二重奏曲(ピアノ協奏曲第19番のフィナーレによる)
このブゾーニ・アニバーサリー企画のCD/DVDは、限定500枚(通番つき)とのことで、しばらくすると入手困難になることが予想されます。
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カバレフスキー編曲のトッカータとフーガ「ドリア調」BWV538

カバレフスキー編曲のトッカータとフーガ「ドリア調」BWV538
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2000年頃にNAXOSから出たCD、J.S.バッハの作品のピアノ用編曲に収録されて以来、この編曲の楽譜がどうやったら手に入るかと色々な方から問い合わせを受けました。私もコピーのコピーとしてしか持っておらず、自信を持って回答できずもどかしい思いをしてきました。
その後もhyperionからもロシア音楽家による編曲集有森氏によるカバレフスキー集、などにも取り上げられ、音楽愛好家の中ではバッハのピアノ編曲の傑作の一つとみなされてきた感があります。
そんなこの編曲、ようやく出版譜を入手することができました。輸入楽譜のカマクラムジカさんのメルマガでさらっと取り上げられていたのを見つけ、取り寄せてもらい購入しました。
今回はじめて知りましたが、Chant du Mondeというパリの出版社から、1994年に出版されていたようです。楽譜の注文は、カマクラムジカのブログ記事を確認してください。
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ブランデンブルク協奏曲のピアノ編曲版CD(全曲)

Kolly-Brandenburg-CD
数々のバッハ関連の録音を世に出してきている、カール=アンドレアス・コリー(Karl-Andreas Kolly, 1965-)の新譜紹介です。いよいよ面白くなってきました。
およそ1年半前に管弦楽組曲のピアノ編曲版CD(全曲)を驚きとともに紹介しましたが、今度は何とブランデンブルク協奏曲の全曲。
第6番はヴェデルニコフ編曲と記載がありますが、それ以外はコリー自身の編曲とのこと。早速聴いてみたところ、素晴らしい!硬いピアノの音色で新しい魅力が聴けます。接近した複数声部の弾き分けも見事です。
しかしながら、第6番以外全て「楽譜が存在しないコリー編」とすることに違和感が・・・
まず第3番と第4番は、ストラダル編を下敷きにしていると思われます。原曲の全部の音を拾うことは不可能なのでどこかで取捨選択する必要がありますが、その取捨選択の方法がストラダルと同じなのである程度特定可能です。ストラダル編で絶対弾けないと思われる箇所を、コリーはうまく割愛しながら再構築していました。おそらくストラダル編と記載するにはそのように改変した箇所が多いため、コリー編としたのでしょう。
(あと、現時点でIMSLPにアップされてあるストラダル編曲のブランデンブルク協奏曲は第3番と第4番だけ、ということも関連するかどうか・・・)
一方で第1番、第2番、第5番はストラダル編とは大きく異なりますが、、、第1番はテューリン編が下敷きでしょう。私も演奏したことがあるのでよくわかります、第1楽章はほぼ同じ。後半一部が高音部記号の適用をしていない部分がある程度の違いです。
第2番はBrailsford編がベースと思われます。そして第5番は、Rockzaemon編と声部の取捨選択が同じことに気づきました。もちろんこれらはそのままではなく、コリーなりにこうした方が良いと考えた(と思われる)ところをいくつか改変して演奏しています。
断定はできませんが、これら第1番から第5番まで、すべてIMSLPに以上のピアノ編が掲載されていることは無関係ではなさそうです。ライナーノーツには『コリーは、正式なピアノ譜など作成しておらず、録音の際は、オーケストラスコアを見ながら演奏したと伝えられている』と書いてありますが、それは脚色しすぎではないでしょうか。「既存のピアノ編曲をベースに、コリーなりの解釈と改良を加えて演奏している」ということなのではないかと想像します。もしそうだとすると、IMSLPに掲載されているとはいえパブリックドメインではないBrailsford編Rockzaemon編は、クリエイティブコモンズの規範に従う必要があるのではないかと懸念します。(もしすでに著作権者と合意済みならその限りではありませんが)
唯一編曲者名が明記された、ヴェデルニコフ編曲の第6番は、おそらく譜面として入手したのではないでしょうか。この曲でも接近した複数の声部がその難しさを押し上げていますが、その弾き分け技術は流石です。
Bach=Vedernikov/Brandenburg Concerto No.6 BWV 1051
若干否定的な内容も書いてしまいましたが、バッハの傑作・ブランデンブルク協奏曲全曲をピアノソロで演奏した音源を残したことは快挙であり、その演奏も素晴らしいものでした。その他、フリギア終止の二和音だけが記譜された第3番の2楽章、イギリス組曲第5番のサラバンド前半が使われていて(ライナーノーツにはコリー作曲と書いてありましたが、、、)、ここにこの曲を配置するのもなかなか良いと思いました。
私がストラダル編の楽譜の解説で書いたように、ストラダルが記譜した全ての音を弾くのではなく演奏者による取捨選択によって良い音楽となることを具現化してくれていると言えるでしょう。

(2016/8/10追記)
コリー本人にメールでコンタクトを取り、上記について確認してみました。
要約すると、ベースとなった編曲が存在すること、それが私の推測と同じ編曲であること、コリー自身の判断で多くの改変を加えたこと、などが確認できました。

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<収録曲>
ブランデンブルク協奏曲 第1番 ヘ長調 BWV 1046(テューリン編?)
ブランデンブルク協奏曲 第2番 ヘ長調 BWV 1047(Brailsford編?)
ブランデンブルク協奏曲 第3番 ト長調 BWV 1048(ストラダル編?)
ブランデンブルク協奏曲 第4番 ト長調 BWV 1049(ストラダル編?)
ブランデンブルク協奏曲 第5番 二長調 BWV 1050(Rockzaemon編?)
ブランデンブルク協奏曲 第6番 変ロ長調 BWV 1051(ヴェデルニコフ編曲)
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カバレフスキー編曲のバッハと有森氏のCD

ピアニスト・有森博 氏がリリースしてきた一連のCDで、カバレフスキー(Dimtri Kabalevsky,1904~1987)編曲のバッハがすべて揃いました。
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写真は氏のCDと、カバレフスキー編曲の楽譜で、オルガン前奏曲とフーガ ハ短調と、8つの小前奏曲とフーガ集。最初に取り上げたのは約6年前の記事、カバレフスキー編曲のバッハ・オルガン曲。もちろんカバレフスキーのピアノ曲の全曲録音がメインテーマかとは思いますが、第2集、第4集、そして2015年にリリースされた第5集には、それぞれバッハのピアノ編曲が数曲ずつ同時収録されてきました。各集の収録曲は以下の通りです。
カバレフスキー 2
8つの小前奏曲とフーガ 第1番 ハ長調 BWV 553
Bach=Kabalevsky/Eight Short Prelude and Fugue No.1 BWV 553
トッカータとフーガ ニ短調 (ドリア調) BWV 538
Bach=Kabalevsky/Toccata and Fugue in D minor BWV 538
カバレフスキー 4
前奏曲とフーガ ハ短調 BWV 549
Bach=Kabalevsky/Prelude and Fugue in C minor BWV 549
8つの小前奏曲とフーガ 第3番 ホ短調 BWV 555
8つの小前奏曲とフーガ 第4番 ヘ長調 BWV 556
8つの小前奏曲とフーガ 第5番 ト長調 BWV 557
8つの小前奏曲とフーガ 第6番 ト短調 BWV 558
8つの小前奏曲とフーガ 第7番 イ短調 BWV 559
8つの小前奏曲とフーガ 第8番 変ロ長調 BWV 560
カバレフスキー 5
8つの小前奏曲とフーガ 第2番 ニ短調 BWV 554
トリオ・ソナタ 第2番 ハ短調 BWV 526
Bach=Kabalevsky/Trio Sonata No.2 BWV 526
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スタンチッチのバッハ編曲

スヴェティスラフ・スタンチッチ(Svetislav Stančić, 1895-1970)、クロアチアのピアニスト、作曲家、そして音楽教育者です。去年、黒岩悠氏のCD「Inspire To/From J.S.Bach」で初めて知った音楽家でした。興味深いバッハのピアノ編曲を残していたため、その後この音楽家について調べ、楽譜を探していました。
英語圏の情報を探してもなかなか見つけられず、YouTubeで見つけたスタンチッチを弾くピアニストにメールで頼み込み、楽譜をコピーしてもらいました。感謝です。
スタンチッチは、1920年から1922年にかけて、ブゾーニの元で作曲を学びました。そのワークショップの中で1922年に創られた編曲が、今回紹介する『カンタータによる4つの前奏曲』(Vier Kantaten – Vorspiele)で、ブゾーニに捧げられたようです(an Feruccio Busoni, Berlin 1922. と書いてありました)。収録曲は以下の4曲、それぞれカンタータの冒頭楽章をピアノ・ソロ用に編曲しています。さすがブゾーニの弟子、分厚い音で豊かな響きを出すことに成功しています。また、この4曲を続けて演奏すると、緩-急-緩-急、長-短-短-長、バランスの良い4楽章の楽曲として演奏可能です。以下、譜例とともに紹介します。
1. Prelude from Cantata BWV 106 “Actus tragicus”
Bach=Stancic/Prelude from Cantata BWV 106 'Actus tragicus'
2. Prelude from Cantata BWV 18 “Sinphonia”
Bach=Stancic/Prelude from Cantata BWV 18 'Gleich wie der Regen und Schnee vom Himmel fällt'
3. Prelude from Cantata BWV 12 “Weinen, Klegen, Sorgen, Sagen”
Bach=Stancic/Prelude from Cantata BWV 12 'Weinen, Klegen, Sorgen, Sagen'
4. Prelude from Cantata BWV 31 “Am ersten Osterfesttage”
Bach=Stancic/Prelude from Cantata BWV 31 'Am ersten Osterfesttage'
録音は、前述した黒岩氏のCD(1曲目)の他、いくつかはYouTubeで聴くことができます。
こちらはKadri-Ann Sumera による3曲目の演奏。YouTubeには2曲目の演奏もアップされています。

こちらは全曲を通した、スタンチッチの弟子であるRanko Filjak の録音。

手の込んだ素晴らしい編曲であるため、もっと世に広まってもらいたいものです。
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ブゾーニ編曲の「聖アン」初版

ブゾーニ(Ferruccio Busoni, 1866-1924)編曲の、オルガン前奏曲とフーガ、変ホ長調 BWV552。通称は「聖アン」。そのフーガは私が最も好きなフーガであり、今まで何度か挑戦し弾いたことがあります。バッハのピアノ編曲の中では比較的有名な部類に入りますが、世の中に出回っている楽譜は改訂されたものであり、ほとんど知られていない初版があります。存在は知りつつも、なかなか入手できずにいたこの初版、ようやく入手しました。
Bach-Busoni BWV 552 (first edition, 1889)
さてこの初版は1889年にRahter社から出版されました。改訂版は、細かい点でいくつか改良されているのですが、その際に大きくカットされてしまった部分があります。それが、前奏曲とフーガの間に任意で挿入されるカデンツァ。前奏曲の最後の和音を偽終止とするOssiaが付き、11小節にわたるカデンツァが二種類用意されています。
この初版をカデンツァ付きで演奏した録音は、私が知る限り二つあります。
まずは、hyperionのバッハ編曲集CDの第1弾、ニコライ・デミジェンコの演奏。こちらでは一つ目のカデンツァを演奏しています。
Bach=Busoni/ Cadenza I of Prelude and Fugue in E flat Major, BWV 552
昔この演奏を聴いた時には、楽譜が存在することは知らずに、奏者のアドリブで弾いていると思い込んでいました。前奏曲の中でも度々登場するジグザグ音形をオクターブ重音、トレモロで演奏させるカデンツァです。
もう一つは、以前にも紹介した ホルガー・グロショップのブゾーニ編曲作品集 に含まれたもの。こちらは二つ目のカデンツァを演奏しており、このCDのライナーノートを見て、この初版の存在とカデンツァが二つ存在することを知りました。こちらは、一つ目と同じ音形を単音で弾きつつ模倣的書法で重ねていく形で頂点を築いています。
Bach=Busoni/ Cadenza II of Prelude and Fugue in E flat Major, BWV 552
初版と改訂版の一番大きな違いはこのカデンツァの有無ですが、それ以外にも細かい違いがいくつかあります。まずは前奏曲の冒頭、初版では下降音形をトレモロにしていますが、改訂版では3オクターブで弾かせます。前奏曲の終結部では、改訂版ではトリルをより長く聞かせる編曲上の工夫を加えています。全般的に初版には第三のペダル(ソステヌート・ペダル)の明確な指示があるのに対して、改訂版にはその指示は見られません。最後にコーダは、初版では高音域でのトレモロなのに対し、改訂版では中音域でかつアラルガンドを表現するために1小節追加しています。多くは改良されたと見做せますが、カデンツァやソステヌート・ペダルの指示が初版にしかない部分などには疑問も残ります。何にせよ、貴重な資料となりました。
来年2016年はブゾーニの生誕150年となります。いい機会なので、この初版を使ってカデンツァも含め、再度演奏してみたいと考えています。

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Walter Rummel – J. S. Bach Adaptations

今回は ワルター・ルンメル(Walter Rummel, 1887-1953)によるバッハのピアノ編曲の紹介です。
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以前から楽譜や音源が揃っていたにもかかわらず、結構な量の編曲があり未整理のままになっていました。今回数点のルンメル編の古い楽譜を入手したので、改めて整理してみました。
ルンメルはドイツ出身の作曲家兼ピアニスト。1922年から1938年にかけて、J & W Chester社から全25曲ものバッハのピアノ編曲を出版しました。「Adaptations」という言葉を選んで表記しています。ルンメル編曲の特徴は、カンタータなどの声楽曲(またはその序曲などの器楽曲)からの編曲がほとんどであることで、瞑想的な曲から愛らしい曲、激しい曲まで非常にバラエティに富んでいます。そしてデュナーミクやアゴーギクの指示も多く、とても自由な編曲です。いくつか例を挙げてみましょう。
Bach=Rummel/ Sinfonia from Cantata BWV 12
これはカンタータ第12番「泣き、嘆き、憂い、おののき」の第1曲、シンフォニア。譜面面からは一見してバッハの曲とは見えないのではないでしょうか。幻想的な雰囲気の曲になっています。
Bach=Rummel/ Aria 'Zu Tanze, zu Sprunge' from Cantata BWV 201
これは世俗カンタータ「フェーブスとパンの争い」から、パンの踊り「踊れ、跳ねよ」の編曲。打って変わって、軽快で愛らしい踊りの音楽です。
Bach=Rummel/ Aria 'Esurientes implevit bonis' from Magnificat BWV 243
この曲はマニフィカトからのアリア「エスリエンテス」。高い音域が好んで使われ、牧歌的かつ神々しい音楽が流れます。
Bach=Rummel/ Orchestral Overture from Cantata BWV 146
そして最後に紹介するこの曲はカンタータ 第146番 より「われらは多くの患難を経て」。のちにクラヴィーア協奏曲 ニ短調 BWV 1056の1楽章に転用される音楽ですが、壮大で劇的な内容になっています。上の譜例だけではわからないですが、この後ピア二スティックな書法がふんだんに使われています。
さて楽譜は、当時1曲ごとのピースになっていたものをまとめてIMSLPで入手することができますが、現在入手可能な出版譜としては2008年にChester Music社から12曲を抜粋し収録されたものがあります(上写真で赤色表紙のもの)。収録曲は以下の通りです。

カンタータ「いとも尊きレーオポルト殿下よ」 より「御名が太陽のように、星のように輝かんことを」
カンタータ 第22番 より「汝の善行により我らを浄めたまえ」
カンタータ 第26番 より「ああ、いかに儚き、ああ、いかに空しき、人の人生よ」
最愛のイエス、われらここにあり
天にいます我らの父よ
カンタータ 第99番 より「神のみわざはよきかな」
カンタータ 第126番 より「打ち倒せよ」
マニフィカト ニ長調 より「飢えている者を良いもので飽かせ(エスリエンテス)」
クリスマスオラトリオ より コラール「われらは汝に向かいて歌いまつらん」
カンタータ 第78番 より 二重唱アリア「われらは急ぐ,弱けれど弛みなき足どりもて」
カンタータ 第92番 より アリア「荒き風吹き来たるは」
カンタータ 第146番 より「われらは多くの患難を経て」
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音源としては、hyperionから出ているバッハ・ピアノ編曲シリーズの第6弾、 Bach Piano Transcriptions Vol. 6 に全曲収録されています。容易に入手することができるので是非聴いてみてください。様々なタイプの曲があるので、きっと好みの曲が見つかることでしょう。

Product Cover look inside J.S.Bach/Walter Rummel: Mortify Us By Thy Grace Composed by Johann Sebastian Bach (1685-1750). Arranged by Walter Rummel. Music Sales America. Classical. Book [Softcover]. Composed 2002. Chester Music #CH02168. Published by Chester Music (HL.14003124).

Bach Illuminationes

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バッハのピアノ編曲として注目の新譜CD『Bach Illuminationes』の紹介です。ピアニストはアンゲリカ・ネーベル(Angelika Nebel)、以前も「Bach Metamorphosis」や「Bach Transcriptions for Piano」といったバッハのピアノ編曲について意欲的な内容のCDをリリースしており、このサイトでも紹介してきました。今回も、有名どころの編曲はリスト編とペトリ編くらい、他はこのCDでしか聴くことが出来ない編曲ばかりが収録されています。HMVのキャッチコピーで「バッハ編曲ファン狂喜、聴きたかった曲が理想的ドイツ・ピアニズムで再現」 とありますが、まさにその通りです。ライナーノーツにも触れられてましたが、バッハは生涯ドイツ国外に出ることがなかった作曲家だったことに対して、編曲者はオーストリア、ハンガリー、イギリス、ロシア、ブラジル、と国際的な多様性を意図したプログラミング。なお今回も編曲者に名を並べている、ブラジル出身の若い音楽家プラド(Wagner Stefani d’Aragona Malheiro Prado, 1982-)はネーベルの弟子です。プラド編は前回のCD「Bach Metamorphosis」に収録されていた「6声のリチェルカーレ」が素晴らしかったのですが、今回のCDにある有名な 管弦楽組曲第3番の『アリア』も負けじと、音が厚く豊かな響きを持ったとても良い編曲です。なおこのアリアの編曲は10年以上前から別のピアニストの録音『Bach for Christmas』で知っていました。1999年に作られた編曲で、ブラジルでは有名な編曲なのかもしれません。
収録曲は以下のとおりです。
1. 前奏曲とフーガ ハ長調 BWV 545(リスト編)
2. ヴァイオリン・ソナタ BWV 1017より『シチリアーノ』(クールストロム編)
3. 管弦楽組曲第3番 BWV 1068より『アリア』(プラド編)
4. 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 BWV 1004より『ジーグ』(ツァーベル編)
5. 目覚めよと呼ぶ声あり BWV 645(シュタルク編)
6. 無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番 BWV 1006より『ロンド風ガヴォット』(パウエル編)
7. 深き淵よりわれは呼ぶ BWV 745(サーント編)
8. パストラーレ BWV 590(ウィッテカー編)
9. 主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ BWV 639(ネーベル編)
10. 汝イエスよ、今天より降りたもうや BWV 650(ネーベル編)
11. 小前奏曲とフーガ 第6番ト短調 BWV 558(カバレフスキー編)
12. 甘き喜びのうちに BWV 729(マードック編)
13. トッカータ ハ長調 より 『アダージョ』 BWV 564(ネーベル編)
14. 羊は安らかに草を食む BWV 208(ペトリ編)
15. いざ来たれ、異教徒の救い主よ BWV 62(プラド編)