この冬、私は初めて楽譜校正・解説執筆という、楽譜出版のお手伝いをさせていただきました。その楽譜がようやく発売されましたので紹介したいと思います。J.S.バッハ/ストラダル ブランデンブルク協奏曲(ピアノソロ版)です。ブランデンブルク協奏曲の編曲ということで、「アレンジによる抜粋・ハイライト版、または簡易版か?」というお問い合わせを何件かいただきましたが、全6曲省略等は一切無い完全版です。
ところでストラダル (以前は「ストラーダル」とも表記していましたが、「ストラダル」に統一しました)については、このページ内でも何度も紹介してきました。曲目データベースを見てわかる通り、たくさんのバッハのピアノ編曲を残しています。過去の文献(ストラダルの妻による伝記)には出版社・曲名・プレート番号のみが曲目リストに掲載されており、見ただけでは同じ調の楽曲の区別がつきませんでした。そこで、今回出版した楽譜の解説ページには、ストラダルが出版した楽譜(未出版の手稿譜含む)の一覧をBWV番号と紐付けて掲載しました。
そしてリプリントといっても、全てデジタル浄書し直したもので、読譜しやすくなっています。Schuberth社から出版されていたオリジナルの楽譜上いくつもの誤植と思われる箇所についても、原曲と比較して修正を加えました。
何にせよ、ブランデンブルク協奏曲は私がバッハの曲の中で最も好きな曲集なので、その出版に携わることができて幸せです。
最後になりましたが、校正や独語文献和訳のお手伝いをして下さったHさん、Yさん、Mさん、ありがとうございました。
月: 2010年3月
2台ピアノ編のパッサカリア BWV 582
ここ三ヶ月くらい楽譜出版のお手伝いをしていたことでなかなか更新ができず、二ヶ月ぶりになってしまいました。今回は、今週末の演奏会で演奏する予定の、二台ピアノ編のパッサカリアを紹介したいと思います。
J. S. Bach = G. Tagliapietra
Passacaglia in C minor BWV 582 (free transcription for two pianos)
バッハ=ターリアピエトラ パッサカリア ハ短調 BWV 582 (二台ピアノの為の自由な編曲)
バッハはパッサカリアと題した曲を1曲だけ残しました。原曲はオルガン曲で、8小節の低音主題をもとに20の変奏を繰り広げ、その後124小節に及ぶフーガが続きます。そのため、「パッサカリアとフーガ」という曲名もよく使われます。
さて編曲者ターリアピエトラ(Gino Tagliapietra, 1887-1955) は、イタリア生まれの作曲家兼ピアニストであり、ブゾーニの弟子でした。バッハのピアノソロ用編曲もいくつか残しています。この編曲の楽譜は、昨年国立音大の図書館で見つけることができました。ピアノソロのための編曲は他にも多く残されていますが、ブゾーニは残念ながらパッサカリア全曲の編曲を残しませんでした。ターリアピエトラのこの編曲はブゾーニの編曲技法をよく継承しており、音域を拡大しながら音の厚みを増やし、原曲の持つ壮大な響きを果敢にピアノ二台で再現した、充実した音楽になっています。
二台ピアノのために編曲されたパッサカリアは、他にはフィリップ編、ケラー編があります。三者三様ですが、ピアノの広い音域を活用し二人の奏者にうまく割り振っている点など、ターリアピエトラ編が最も優れた編曲ではないかと私は思っています。
残念ながら、この編曲の演奏録音は残されていないと思われます。
プロの演奏家にももっと取り上げて欲しい作品です。
(2016/10/31追記)
CD/DVDでリリースされました。
記事:ブゾーニ関連の2台ピアノ作品CD/DVD参照