幻想曲、または Pièce d’orgue(オルガン曲)と名付けられた幻想曲 ト長調 BWV572 は、急-緩-急の3部に分かれており、バッハの曲ではめずらしく、フランス語による楽語がつけられていることも興味深いところです。
1. Très vitement
2. Gravement
3. Lentement
さてこの曲、特に第1部と第3部のトッカータ調の曲想は、かねてよりピアノでの演奏で新しい魅力が得られる曲として注目していました。第2部はオルガン的な荘重な音楽で、既にバックスによる良い編曲がA Bach Book for Harriet Cohenに収録されていました。一方で華麗な第1部や第3部を含めた、全楽章の編曲としてはヘルシャーやストラダルのものくらいで、良いピアノ用編曲と言うにはやや物足りないものでした。特に冒頭楽章はオリジナルの音だけだと単調な音楽になりがちです。3部分を通すことで、動機的統一もありバランスの良い曲となるだけに、充実したピアノ編曲は作れないものかと自分で編曲することも視野に入れて考えていました。
そんな中、現役の若手ピアニスト、グリャズノフ(Vyacheslav Gryaznov, 1982-)が自分の編曲によるこの 幻想曲 ト長調 BWV572 を弾いている動画を観て、あらためてこの曲をピアノで弾くことによる魅力を感じました。たとえば冒頭楽章ではバスに新しい走句が程よく付け加えられており、とても充実した音楽になっています。
演奏動画はこちらです。
なお、この曲の楽譜は彼の公式ホームページ(http://gryaznoff.com/en/)でダウンロードすることができます。
彼の編曲作品は近年出版されていますが、この曲は何故か出版楽譜には収録されなかったようです。グリャズノフ本人以外にも、より多くの人の目にふれてピアノで演奏されると良いなと強く思います。