左手のためのバッハ編曲。先日は、私が自分で編曲した左手のためのサラバンドについて書きましたが、今回は名のある音楽家が残した左手のためのバッハの編曲を紹介しようと思います。結構数があるようで、曲目データベースの方でも、左手のための曲目が網羅できていなかったので、この機会に整理してみました。
もっとも有名なものとしては、ブラームス編曲のシャコンヌでしょう。記録によれば、1879年に書かれたようです。
次に有名どころとして、ラヴェルから左手のための協奏曲を献呈された左手ピアニスト、ヴィットゲンシュタイン(Paul Wittgenstein,1887-1961) の残した「左手のための練習曲集」(Schule für die linke Hand)の中にも、バッハの編曲がいくつか含まれています。
→ヴィットゲンシュタインによる編曲リスト
ところで、おそらく左手だけのピアニストとしてはもっとも古いと思われる、ゲザ・ジチー(Géza Zichy, 1849-1924) も、1883年に左手用のシャコンヌを残しています。この編曲はブラームスによるものよりもずっと難しく、結尾部には独自のカデンツを付け加えていたりと、非常にピアニスティックな編曲になっています。ブラームス編と並べて見てみるとその凄まじさがよくわかります。冒頭部分はそれほど変わりませんが、音域は1オクターブ高く設定しています。
まだまだあります。大量のバッハの編曲を残している、イシドール・フィリップ(Isidor Philipp, 1863-1958) は、「バッハによる、左手のための4つの練習曲」という曲集を残しています。この曲集には、無伴奏ヴァイオリン曲の中から、ホ長調の前奏曲、ロ短調のブーレ、ト短調のプレスト、そしてシャコンヌ(下図)が含まれています。
さらに、現役のピアニスト、ラウル・ソーザが編曲した半音階的幻想曲とフーガは驚異的な編曲です。1999年に来日したときに実際に聴きましたが、独自の創造を織り交ぜながら、 メロディーの音型や音域を変えつつ音楽の持つ精神そのものを見事に表現しています。これはCDでも聴けるのでぜひ聞いてみて下さい。
→「Amazon: An Anthology for the Left Hand」
ソーザの他の左手用編曲としては、3声のインヴェンション(シンフォニア) 第14番 変ロ長調もあります。
その他、ジョセフィー(Rafael Joseffy, 1852-1915)は、無伴奏ヴァイオリンパルティータのガヴォットを左手用に編曲しています。これも見事な編曲だと思います。
最後に紹介するのは、楽譜は見たことが無いですが、トレインという人が編曲した、無伴奏チェロ組曲第1番プレリュードの左手版の映像はYouTubeで見ることができます。
以上、私が知る左手のためのバッハ編曲を網羅したつもりです。他にご存じの方がいらっしゃれば、ぜひご教示下さい。