メンドリとカッコウの鳴き声を模した主題によるフーガ(BWV963より)

2012年11月10日(土)、鳥に関連する曲目を集めた演奏会「五線譜に舞い降りた鳥たち」に出演してきました。楽譜の風景の不破さん主催のもので、バロックから現代曲まで、「鳥」関係の様々な曲が演奏されました。その中で私はバッハのソナタ ニ長調 BWV 963から、終楽章のフーガ「メンドリとカッコウの鳴き声を模した主題によるフーガ」を演奏しました。

2012年11月10日 かつしかシンフォニーヒルズ アイリスホールでの演奏。


曲についての説明は、プログラム原稿から抜粋して紹介します。
BWV 963が付与されたこのソナタ ニ長調は、バッハの初期の作品で、1704年ごろの作品とされています。ソナタと題されていますが、古典派以降の所謂ソナタ形式とは異なり、複数の楽想をもつ部分から組み合わせた楽曲の総称のような意味で使われています。5つの楽想から構成されており、3曲目と5曲目に対照的な性格のフーガが置かれています。終曲・5曲目のフーガには、”Thema all’Imitatio Gallina Cuccu” というタイトルがつけられており、同音反復するメンドリの鳴き声を模した主題(コッコココッコッコッコッ)と、応答するカッコウの鳴き声を模した対主題(カッコー、カッコー)を組み合わせた4声のフーガとなっています。

ニコラーエワの初出ライブ録音

オリジナルのバッハの曲の話題です。最近発売された、久しぶりのニコラーエワの初出ライブ録音、「Bach: Goldberg Variations」が良かったので紹介します。
1986年11月10日、ロンドンでのライブ録音で、音質も良いです。メインはゴルトベルク変奏曲です。ニコラーエワのゴルトベルクはほかにもいくつか出てますが、これが一番迫力と熱気に溢れている録音です。(後半はミスも多くもたつくところもありますが)
アンコールでパルティータ5番のプレアンブルムと主よ人の望みの喜びよが演奏されています。このパルティータ5番のプレアンブルムがびっくり、速い。興奮気味ながら、力強く突き進み、決して崩壊することなく弾ききっています。すごい演奏だと思います、何度も聴いてしまいました。
そういえばニコラーエワのパルティータの録音は、CDになっているのはまだ4番だけです。メロディアのディスコグラフィーによると、パルティータの全曲を録音しているはずなのですが、なぜ出てこないのでしょうか。
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グールドのイタリアン・バッハ

今回もバッハオリジナルの曲の紹介です。前回バッハが編曲した協奏曲についての話題を書きましたが、かの有名なグールドのCD「未完のイタリアン・アルバム」にもマルチェッロのオーボエ協奏曲の編曲、協奏曲 ニ短調 BWV 974が収録されています。さてこのCD、定番のイタリア協奏曲も素晴らしいですが、中でも最も優れた演奏と感じるのはアルビノーニの主題によるフーガ・ロ短調。グールドならではの完璧なまでに独立した声部の歌い回しには、曲の良さと共鳴し、あらためて感動させられます。跳躍と半音階下降のある、興味をそそられるテーマが重ねられていきます。
Bach/ Fugue on a theme by Albinoni h-moll  BWV 951
(Bach/ Fugue on a theme by Albinoni h-moll BWV 951)
その他の曲としては、レチタティーヴォを大胆な解釈で演奏していく半音階的幻想曲も、グールド本人曰く好きなタイプの曲ではないとのことですが、惹きつけられる魅力を持っています。続くフーガの録音が残されなかったことが残念でなりません。

—-収録曲—-

  • バッハ: マルチェルロの主題による協奏曲 BWV 974
  • バッハ: アルビノーニの主題によるフーガ BWV 951
  • バッハ: アルビノーニの主題によるフーガ BWV 950
  • スカルラッティ: ソナタ ニ長調 K.430
  • スカルラッティ: ソナタ ニ短調 K.9
  • スカルラッティ: ソナタ ニ長調 K.13
  • C.P.E.バッハ: ヴュルテンブルク・ソナタ第1番イ短調
  • バッハ: イタリア風のアリアと変奏 BWV 989
  • バッハ: イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV 971
  • バッハ: 半音階的幻想曲 ニ短調 BWV 903/1
  • バッハ: 幻想曲 ト短調 BWV 917
  • バッハ: 幻想曲 BWV 919
  • バッハ: 幻想曲とフーガハ短調 BWV 906

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バッハが編曲した協奏曲(ソロ用)をピアノで

今回は、バッハがチェンバロソロ用に編曲した曲の、ピアノでの演奏を紹介します。バッハが既に編曲済みなので、カテゴリとしては、「ピアノ編曲」ではなく「オリジナル曲」ということになります。
編曲という作業は、バッハの得意技でもありました。編曲を通してバッハの作曲技法が確立されたとも言えます。バッハは、ヴィヴァルディやテレマン、マルチェッロ等の先輩音楽家の協奏曲を、鍵盤楽器ソロ用に編曲しました。そのうちチェンバロ用の曲が16曲と、オルガン用の曲が6曲現存します。色々なバッハ文献に必ず書いてある「イタリア体験」、バッハはこれらの編曲を通じてイタリア形式を学習したとされています。
さて、チェンバロソロで演奏できるということは、ピアノソロでも演奏できるわけですが、残念ながらその数はほとんどありません。私が持っている、実際にピアノで演奏されているCDをいくつか紹介したいと思います。
この分野で最近発売されたのが、ヒールホルツァー(Babette Hierholzer)のCD「Bach: Concerto Transcriptions」です。Amazonにはジャケット画像も曲目も載っていなかったので、ここに載せておきます。

・協奏曲 ニ短調 BWV 974 (原曲:A.マルチェッロ)
・協奏曲 ニ長調 BWV 1054 (原曲:バッハのヴァイオリン協奏曲)
・協奏曲 ト短調 BWV 975 (原曲:ヴィヴァルディ)
・協奏曲 ト短調 BWV 985 (原曲:テレマン)
・協奏曲 ハ長調 BWV 977 (原曲不明)
・協奏曲 ヘ長調 BWV 978 (原曲:ヴィヴァルディ)
・イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV 971 (オリジナル)
このCDは、各先輩作曲家ごとに偏りなく抜粋し取り上げてありますが、異色なのがバッハのヴァイオリン協奏曲 ホ長調 BWV 1042のバッハ自身による編曲版、クラヴィーア協奏曲 ニ長調 BWV 1054をピアノソロで演奏していることです。ヴァイオリンソロをチェンバロソロに編曲する際に、バッハはメロディーを装飾したり細かい音に分けたりしていますが、それを生かし、ソロパートとオケパートを両方ピアノで弾いたというものです。それ以外の曲も、全体的に大人しい演奏ではありますが、クセがなくじっくりと楽しむことができます。
この他には、アレクサンドル・タローのCD「Concertos italiens」や、シプリアン・カツァリスのCD「Italy In Bach 」があります。特にカツァリスのCDは、ヴィヴァルディ=バッハの協奏曲のピアノでの演奏のパイオニアでした。(以前にBach’s Italian Journey, Vol. 1というタイトルで発売されていたものの再発売だと思います)
なお、上に挙げたどのCDにも、編曲ではないにもかかわらず、イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV 971が収録されています。バッハの協奏曲様式の集大成として書き上げた曲ですし、CD企画としても当然のことなのでしょう。
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トリオソナタ 第4番 BWV 528 第2楽章 「アンダンテ」

先日の記事「Transcriptions by Ira Levin」で紹介したCDに収録されている、トリオソナタ 第4番 BWV 528 第2楽章 「アンダンテ」。この曲、とても渋い音楽ですが聴くうちに好きになってきました。以下の譜面はアンダンテの冒頭、オリジナルのオルガン譜です。ロ短調で、物憂げな4度進行の主題。そして次第に装飾されていきます。
Bach/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528
この曲、ピアノで弾いてもよく響きます。ストラーダルによるピアノ編曲の譜面があるので、見てみましょう。以下の楽譜は、ストラーダル編の中間部。ゆったり歩む低音の上に、二つの装飾された下降メロディが美しく絡み合います。何と切ないメロディなことでしょう。
Bach=Stradal/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528
(Bach=Stradal/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528)
ストラーダルの他の編曲は非常に音の数が多く、弾きこなすのは容易ではないですが、このアンダンテはとても弾きやすく、美しいのでお勧めです。
この曲のピアノでの演奏は、以下のリンクのCDで聴けます。

Andrea Padova plays Bach

最近は編曲モノばかりを取り上げてましたが、今日はオリジナルのクラヴィーア曲のピアノ演奏を取り上げます。前回の記事F.Busoni nach Bach Piano Worksでも紹介した、パドヴァ(Andrea Padova)のCDです。私が持っているもので、以下3点を紹介します。

彼のバッハの演奏は自由なものですが、音は独立しており比較的聞きやすい演奏で、私の好きな部類です。演奏内容も合格点ですが、それ以外に価値があるのは、どのCDも通常のピアニストが録音しないような、稀少なレパートリーが収録されていることです。「Bach: Complete Fantasias」では、「幻想曲」と名づけられた様々な曲が収録されていますが、BWV904、906、903のような有名曲だけでなく、「二つの主題による幻想曲 BWV917」、「ロンドによる幻想曲 BWV918」など、ピアノでの録音はまず見かけないような曲が入っています。その他にも、比較的有名なBWV921や、とても有名なBWV903にしても、即興的に展開されるアルペジオが新鮮です。
次に、「Bach: Keyboard Suites, Vol.1」では、初期の組曲が収録されています。「第3旋法による前奏曲とパルティータ BWV 833」や「序曲 BWV 820」、「序曲 BWV822」なども、このCDで初めて認識しました。
最後に「Bach: Piano Concertos」ですが、これはピアノ協奏曲集です。ホ長調 BWV 1053、ヘ短調 BWV 1056、ト短調 BWV 1058、とここまでは一般的な曲目ですが、最後に「BWV 1059」が収録されています。バッハ好きの方でも、あまり見かけない番号ではないでしょうか。それもそのはず、ニ短調の協奏曲BWV 1059は、現存するのは冒頭の9小節の断片のみです。ただ、この曲はカンタータ第35番の冒頭のシンフォニア(オルガン協奏曲)と同じ音楽であるため、そこから復元して演奏されることがあるようです。このCDには、パドヴァによってピアノ協奏曲として復元されたBWV 1059の第1楽章が収録されているのです。
いかがでしょうか。普段聴き慣れない、バッハの知られざる佳作を楽しんでみるのも一興かと思います。
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