レオポルド・マネス編曲のバッハ

コダック社でレオポルド・ゴドフスキー Jr.と共にカラーフィルムを発明した一人として著名な、レオポルド・マネス(Leopold Mannes, 1899-1964)編曲のバッハの楽譜を入手したので紹介します。
mannes_prelude_e.jpg
原曲は無伴奏ヴァイオリンパルティータ ホ長調のプレリュードです。この曲は複数の音楽家が編曲していますが、ラフマニノフによる編曲が最も有名でしょう。ラフマニノフ以外の編曲は、右手でヴァイオリンの原曲を奏でて左手でベースを補強する程度の編曲がほとんど。それに対してマネスの編曲は、まるでゴドフスキーの編曲のように音の隙間を対旋律や増幅された和音で埋め尽くしている編曲です。冒頭の譜面は以下のようになっています。
Bach=Mannes/ Prelude in E major
マネスは、歴史上では前述のように発明家としてより広く認知されていますが、音楽の才能もかなりありピアニスト・作曲家・音楽教師としても活躍しました。ゴドフスキーと編曲書法が似ていることや、ゴドフスキーJr.がヴァイオリニストでもあったことなどがこの編曲誕生のエピソードとして隠れていないかどうか勘ぐってしまいます(妄想です)。

メルジャーノフ編曲のバッハ

ヴィクトル・メルジャーノフ(Victor Merzhanov, 1919-2012)は、ロシアのピアニスト・音楽教師。長い間モスクワ音楽院の重鎮として君臨していました。ショパンやリスト、スクリャービン、ラフマニノフなどの作品を演奏しレコードやCDをいくつか残しており、CDは Vista Vera などからリリースされています。また、サムイル・フェインベルグの高弟で、フェインベルグの作品やバッハ編曲の録音なども残しています。そんなメルジャーノフが、自身で編曲したバッハのピアノ編曲楽譜を入手しました。
merzhanov_transcription.jpg
収録曲は以下2曲。
* コラール前奏曲「最愛のイエス、われらここにあり」 BWV 731
* コラール「ただ神の摂理にまかすもの」と3つの前奏曲 BWV 690&691&642
コラール前奏曲「最愛のイエス、われらここにあり」 は比較的有名な、美しいコラール前奏曲。コーエン編などが有名ですが、比較すると重厚感のある編曲です。
Bach=Merzhanov/ Chrale Prelude BWV 731
コラール「ただ神の摂理にまかすもの」と3つの前奏曲は、まずはコラールを提示した後に、同コラールを元にしたバッハのコラール編曲3曲をコラール変奏曲のように3曲ならべています。第1番は BWV 690第2番は BWV 691第3番は BWV 642です。
どの編曲も、広い音域を無理なく使うように、バスを低音で奏でた後に左手を交差させて高音部にメロディーを補完するといったような、師であるフェインベルグを彷彿させる編曲テクニックが随所に見られます。
Bach=Merzhanov/ Chrale Prelude BWV 731

カンタータ第106番からの2つの編曲

イギリス・ウェールズの作曲家、メイリオン・ウィリアムズ(Meirion Williams, 1901-1976)編曲の楽譜が届きました。
カンタータ第106番から、1曲目の「ソナティナ」と、4曲目のコラール「誉れ、賛美、尊崇、栄光を」の、2つの編曲が収録されています。
Bach-Williams/ Two Transcriptions from Cantata No. 106
このカンタータ第106番の「ソナティナ」は、非常に美しく好きな曲でしたが、7年前くらいはピアノ編曲が存在していることを確認できておらず、無いなら自分で作ろうと編曲していましたが、その後色々な音楽家による編曲が見つかり、このウィリアムズ編を含め今では5種類も集まりました。
世の中にはまだまだ埋もれているのでしょうね。
そしてウィリアムズの編曲は、1曲目だけでなく終楽章のコラール合唱(ただし序奏部分のみで、後半の合唱フーガ部分は無し)まで編曲されています。
Bach-Williams/ Two Transcriptions from Cantata No. 106
原曲の音をなぞっただけでなく、ピアノで程良い響きとなる編曲です。これらの美しい編曲も、このまま埋もれて忘れ去られてしまわぬよう、ぜひ弾かれるようになって欲しいものです。

Rockzaemon編曲のブランデンブルク協奏曲第5番

露久左庵音楽出版(Rockza Music Edition)から出版された、石田十兄(Isida Kazue Rockzaemon)編曲のブランデンブルク協奏曲第5番を紹介します。
rockza_cover.jpg
以前からIMSLPで頒布されていたので少し知っていましたが、今春改訂されて印刷譜で入手できるようになったとのことで、真っ先に購入しました。(→商品へのリンク)編曲者自身によるオンデマンド受注印刷のもので、丁寧に対応していただきました。
ブランデンブルク協奏曲のピアノソロ編曲といえば、ストラダル編曲の全集が金字塔ですが、原曲の音を出来る限りたくさん拾おうとしており、音が多く演奏するのが困難な編曲です。それに対し、十兄氏の編曲はピアノでの弾きやすさがよく考えられた編曲と言えるでしょう。冒頭部分の譜例で紹介しましょう。上がストラダル編、下が十兄編です。
J. S. Bach=Stradal/ Brandenburg Concerto No. 5 BWV 1050
(Bach=Stradal/ Brandenburg Concerto No. 5 BWV 1050)
弾きやすさの違いがわかるでしょうか。例えば冒頭のメロディはトレモロ音形に変更され、ピアノでの弾きやすさと共に、ピアノならではの音の鳴らし方ができるようになっています。
また、原曲は種々の楽器での合奏ですから、原曲にある全部の音を拾ってピアノで弾いたらどうしても鈍重または雑然とした音楽になってしまいます(ストラダル編曲はその傾向あり)。
この編曲では、曲中で原曲の音を思い切って省略している部分も数多くあり、その取捨選択も見事です。
J. S. Bach=Rockzaemon/ Brandenburg Concerto No. 5 BWV 1050
(Bach=Rockzaemon/ Brandenburg Concerto No. 5 BWV 1050)
十兄氏は現在、主に二台ピアノ用の編曲やトイピアノ用の楽曲などを創作しているそうです。バッハでは、他には協奏曲ニ短調 BWV1052などをピアノソロ用に編曲しているとのこと。今後また出版されるのを楽しみにしています。

バッハ・オルガン作品のピアノ編曲集(ロシア版)


ロシアで出版されているバッハ・オルガン作品のピアノ編曲集を紹介します。Ruslania というロシアの書籍を扱うフィンランドのオンラインショップで入手できます。ブゾーニ以外はロシアの音楽家による編曲が収録されており、ほとんどがコラール前奏曲のピアノ編曲ですが、ブゾーニと同様にピアノの響きをよく考慮にいれた改変が多く、「とても良いピアノ編曲」が集まっていると思います。
中でもゲディケ(Alexander Goedicke, 1877-1957)の「6つのコラール前奏曲集」は、自身がピアニストでありながらオルガニストでもあり、オルガンとピアノの両方を熟知した上での編曲ということで興味深い存在です。なおゲディケは、コラール前奏曲集以外にも、いくつかの「オルガン前奏曲とフーガ」の編曲も残しており、その見事な編曲はCD「Bach Piano Transcriptions – 5」として聴くことができます。
また、シロティ(ジロティ)編曲のコラールパルティータ BWV 770は、カール・フィッシャーから出ている「The Alexander Siloti Collection」にも含まれていなかった曲です。パルティータの中でテーマ(変奏1)、変奏3、変奏5、変奏7の抜粋であるものの、ピアノで演奏して自然な音楽となるように編曲されています。
その他、フェインベルグ編曲が素晴らしいのは今までに何度も書いてきたことですが、その中でなぜBWV 647の1曲だけがこの曲集で採用されたかは謎です。ネメロフスキー編曲のトッカータとフーガ ニ短調 ニ短調 BWV 565は、それほど特筆すべき特徴は見いだせませんでした。
全体として、私にとっては出版譜として初めて入手できた編曲が多かったので、非常に満足した一冊でした。
<収録曲(目次順ではありません)>
ゲディケ編
コラール前奏曲 人皆死すべきもの BWV 643 ト長調
コラール前奏曲 わが心の切なる願い ロ短調 BWV 727
コラール前奏曲 古き年は過ぎ去り イ短調 BWV 614
コラール前奏曲 我が魂は主をあがめ ニ短調 BWV 648
コラール前奏曲 我らの救い主、イエス・キリスト イ短調 BWV 626
コラール前奏曲 主なるイエス・キリストよ、我ら汝に感謝す ト長調 BWV 623
フェインベルグ編
コラール前奏曲 尊き御神の統べしらすままにまつろい ハ短調 BWV 647
シロティ編
コラールパルティータ ああ罪人なる我、何をなすべきか ホ短調 BWV 770
ブゾーニ編
コラール前奏曲 目覚めよ、と我らに呼ばわる物見らの声 変ホ長調 BWV 645
コラール前奏曲 いざ来れ、異教徒の救い主よ ト短調 BWV 659
ネメロフスキー編
トッカータとフーガ ニ短調 ニ短調 BWV 565

フィオレンティーノ編曲のバッハ

イタリアのピアニスト、セルジオ・フィオレンティーノ(Sergio Fiorentino, 1927-1998)のバッハピアノ編曲を紹介します。私は2000年前後にまとまってAPRからリリースされたフィオレンティーノの録音の数々を聴いてすっかり虜になりました。スクリャービンやリストも素晴らしいのですが、バッハも、バッハのピアノ編曲もまた素晴らしいのです。その中で、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ ト短調 BWV1001全曲の編曲と、「主よ、人の望みの喜びよ」の編曲が、楽譜集『Sergio Fiorentin: Transcrizioni da concerto per pianoforte』(出版社:Editzioni Curci)に収録されました。無伴奏ヴァイオリン・ソナタ BWV1001全曲の編曲は大変な力作で、ピアノで演奏するために多くの旋律や和音を加えながらも、オリジナルの端正な佇まいを良く伝えてくれます。下の写真は第1楽章・アダージョ、第2楽章・フーガの冒頭です。
fiorentino_transcriptions.jpg
バッハのほかにも、ブラームスの『愛の歌』の数々や、フォーレの『夢のあとに』など美しい編曲が60ページ以上にわたり収録されています。カマクラムジカディアレッツォなどで注文可能です。
これらの編曲が収録されたCD、今でも全く手に入らないほど入手困難ではないので紹介します。ヴァイオリン・ソナタの編曲はこちらのCDに、『主よ、人の望みの喜びよ』はこちらのCDに収録されています。もちろん10CDのコレクション版にも含まれています。
<楽譜の収録曲>
バッハ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ ト短調 BWV 1001
バッハ/コラール「主よ、人の望みの喜びよ」 BWV 147
・パガニーニ/カプリース ホ長調 Op.1-9
・シューマン/献呈 Op.25-1
・シューマン/蓮の歌 Op.25-7
・ブラームス/愛の歌 より Op.25-1, 2, 3, 6
・チャイコフスキー/ワルツ 変イ長調 Op.40-8
・フォーレ/夢のあとに
・マーラー/恋人の婚礼のとき

Product Cover look inside Trascrizioni da concerto Composed by Sergio Fiorentino, Riccardo Risaliti. Published by Edizioni Curci (CU.EC11724).


—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-

黒田編:左手のためのサラバンド(BWV 1012 より)

去る 2013/9/16、ワンハンド・ピアノフェスタ!に参加してきました。片手のためのピアノ音楽を扱ったピアノの集まりで、発表会、公開レッスン、懇親会などが行われました。
私は編曲家として主催者側の立場でもあったのですが、台風がちょうど日本を縦断するという生憎の悪天候、無事に開催できるかどうか前日からずっと気を揉んでいました。残念ながら交通機関の問題で参加できなかった方もいらしたのですが、駆けつけてくださった方々とは新しい出会いもあり、大変刺激的な一日を過ごすことが出来ました。
今回は新しい出会いの一つ、黒田貴史さんとその編曲作品の紹介をします。
ピアノとギターを嗜む黒田さんは、今年右手を怪我されたことをきっかけに左手のためのピアノ曲に出会ったそうです。左手曲とギター曲の共通点を見出し、四月にご自身で左手用に編曲した、バッハのサラバンド(無伴奏チェロ組曲第6番より)を演奏されました。さらにこの曲を題材に、左手のピアニストによる公開レッスンにも臨まれました。心を打つ素晴らしい編曲であり、手書きの譜面だったため、お願いをし私の方で浄書させてもらいました。以下はその冒頭部分です。
J. S. Bach/ Sarabande from Cello Suite No. 6 BWV 1012 , arranged for left hand only by Takashi Kuroda.
無伴奏チェロ組曲の楽譜は、オリジナルのままでも多くの部分が左手だけで演奏できますが、左手だけで演奏しやすいように音価をばらしたり、響きを補うための音の追加が適度に施されています。なお演奏にあたり、音域の広い和音は分散させて弾くことになりますが、最高音などはあわてずにゆったりと弾くことでよりよく響くと、左手のピアニストからアドバイスがありました。
ご本人からも公開の許可をいただいてますので、弾いてみたい方がいらっしゃればご連絡ください。

A Bach Book for Harriet Cohen

A Bach Book for Harriet Cohen
1932年に、Oxford University Pressから出版された「A Bach Book for Harriet Cohen」というバッハ編曲集が、この春に再版されました。3年前に hyperion からもhyperionバッハ編曲集 第9弾として音源がリリースされましたし、これで容易に楽譜と音源にアクセスできるようになったということになります。
この曲集には以下の12名の英国音楽家による12編曲が収録されています。どれも比較的取り組みやすい、穏やかで美しい小品ばかりであり、バッハのピアノ編曲の入門にも良いでしょう。
私の独断で数曲ピックアップするならば、美しい叙情的な編曲は、ハウエルズの「おお人よ、汝の大いなる罪に泣け」グーセンスの「アンダンテ(ブランデンブルク協奏曲第2番)」が挙げられます。演奏会向けの華やかな編曲は、バーナーズの「甘き喜びのうちに」や、バックスの「幻想曲」などが挙げられるでしょう。
<収録曲>
※初版と収録順が異なりますが、再版では以下の順番に収録されています。
ARTHUR BLISS (1891-1975)
 – Chorale Prelude ‘Das alte Jahr vergangen ist’ BWV614
GRANVILLE BANTOCK (1868-1946)
 – Chorale Prelude ‘Wachet auf, ruft uns die Stimme’ BWV140
ARNOLD BAX (1883-1953)
Fantasia, BWV572
FRANK BRIDGE (1879-1941)
Aria ‘Komm, süsser Tod’ BWV478
JOHN IRELAND (1879-1962)
Chorale Prelude ‘Meine Seele erhebt den Herren’ BWV648
LORD BERNERS (1883-1950)
In dulci jubilo, BWV729
HERBERT HOWELLS (1892-1983)
Chorale Prelude ‘O Mensch, bewein dein Sünde groß’ BWV622
CONSTANT LAMBERT (1905-1951)
Chorale Prelude ‘Der Tag, der ist so freudenreich’ BWV605
EUGENE GOOSSENS (1893-1962)
Brandenburg Concerto No. 2 in F major, BWV1047: II. Andante
RALPH VAUGHAN WILLIAMS (1872-1958)
Chorale Prelude ‘Ach, bleib bei uns, Herr Jesu Christ’ BWV649
WILLIAM GILLIES WHITTAKER (1876-1944)
Chorale Prelude ‘Wir glauben all’ in einem Gott, Vater’ BWV740
WILLIAM WALTON (1902-1983)
Chorale Prelude ‘Herzlich tut mich verlangen’ BWV727

Product Cover look inside A Bach Book for Harriet Cohen Transcriptions for pianoforte from the works of J. S. Bach. Composed by Johann Sebastian Bach (1685-1750). Edited by David Owen Norris. Piano (Solo). Pieces & Studies. Score. 40 pages. Oxford University Press #9780193392229. Published by Oxford University Press (OU.9780193392229).

HMVはこちら
—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-

ドーヴァー版:ブゾーニ編バッハ編曲楽譜集 第2弾

Goldberg Variations and Other Bach Transcriptions for Solo Piano (Dover Music for Keyboard and Piano Four Hands)
ドーヴァーから、ブゾーニのバッハ編曲集楽譜の第二弾が出版されました。編者は、過去の記事:ブゾーニ版バッハ集のCD 第1弾のピアニスト、サラ・デイヴィス・ビュークナー(Sara Davis Buechner)。収録曲は以下の通りです。
ゴルトベルク変奏曲 BWV 988
半音階的幻想曲とフーガ BWV 903
対位法的幻想曲(BWV 1080に基づく)
ピアノ協奏曲 ニ短調 BWV 1052
この楽譜には、ブゾーニ版バッハ全集の冒頭に掲載されていたものの、今まで初版以来転載されることのなかった「献呈(Widmung)」が付録でついています。以前このページでも何度かWantedとして書いてきたもので、自分で耳コピ譜を起こしたくらいです。今回長年探していた楽譜を見ることができて、とても嬉しいです。さてこの曲、平均律第1巻の第1番のフーガの主題と、フーガの技法(の未完の3重フーガの3つ目、B-A-C-H)の主題を組み合わせた、1ページの手書き譜でした。
10年ほど前に耳コピ採譜した楽譜がこちら。
Busoni/ Widmung (realized by H. Tanaka)
今回ドーヴァー版に掲載された手書き譜がこちら。
Busoni/ Widmung (manuscript)
ゴルトベルク変奏曲ピアノ協奏曲 ニ短調については、Breitkopf版のリプリントのようです。過去に何度かCDの紹介を書いているので、その記事をご参照下さい。
過去の記事:ブゾーニ版バッハ集のCD 第1弾(2008/10/5)
過去の記事:ブゾーニ編のピアノ協奏曲 二短調 BWV 1052(2009/3/26)
半音階的幻想曲とフーガのブゾーニ編は、特に幻想曲において多くの改変が加えられています。オリジナルのアルペジオ表記部分、およびレシタティーヴォ部分は低音和音が増強され重厚な響きになっています。フーガも部分的にバスのテーマ時にオクターブを重ねるところがあります。10年以上前に私が挑戦したことがあり映像が残っているので紹介します。(今聞き直してみるとだいぶ音が間違っていたりするのですが聞き流して下さい)


対位法的幻想曲は、細かい記載は無かったのですが、1912年の最終稿です。
その他にも、 An Experiment in New Organic Music Notation として、半音階的幻想曲を独自の記譜法 Klavier Noten Schrift で掲載されています。
以上、収録内容を取り上げました。ドーヴァー版として廉価で入手しやすくなったことは歓迎されるべきことですね。

無伴奏チェロ組曲 第1番 BWV1007のピアノ編曲 (2)

無伴奏チェロ組曲 第1番の前奏曲は、おそらく誰でも知っているような有名なバッハの器楽曲ではないでしょうか。
無伴奏チェロ組曲のピアノ編として、以前シロティやラフの編曲を紹介しましたが、今回は日本人作曲家による編曲、これがまた大変素晴らしいので紹介します。
一つは、昨年11月に全音ピアノ・ピースとして出版された、後藤丹氏編曲のものです。以前紹介したラフの編曲は、原曲の分散和音を伴奏にメロディーをつけるような編曲で、拒絶反応を示す人が多いだろうと想像しますが、後藤編は決して奇を衒う編曲ではなく、シンプルかつ適度にピアノらしい響きを表現できる編曲だと思います。冒頭の楽譜を見てみると、かなり低い音域で始まることがわかります。このあと徐々に高音域を使って展開されていきます。
Bach=Goto/ Prelude from Cello Suite BWV 1007
終結部は若干音も厚くなり音域が広く、ピアノの特性を生かした華麗さを兼ね備えていることが見て取れるかと思います。
Bach=Goto/ Prelude from Cello Suite BWV 1007
容易に入手できる全音ピアノ・ピースですので、ぜひ多くの人に弾いてもらいたいです。
さてもう一つは、松谷卓氏編曲のもので、「ぷりんと楽譜」で出版されています。こちらはずっと自由な編曲であり、パラフレーズと呼ぶべきかもしれません。23小節に及ぶ前奏。そして楽譜上にはコードネームが付記されていますが、すでに原曲に無い音が(小さい音符で)追加されています。主旋律の残響音の効果を狙っているものでしょうか。
Matsutani/ Prelude from Bach's Cello Suite BWV 1007
また、カデンツァについては半拍ずらしたオクターブのカノンにしていて、これもまたとても効果的。
Matsutani/ Prelude from Bach's Cello Suite BWV 1007
私の知る限り、無伴奏チェロ組曲第1番前奏曲のピアノ編曲の中では、最もピアノでよく響く編曲だと思います。素晴らしい作品です。
—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-