バッハの音楽は、おそらく他のどの作曲家の音楽よりもピアノ編曲されている数が多いと思いますが、それでは一体誰が最初にバッハの音楽をピアノ編曲し始めたのでしょうか。一般的には、フランツ・リスト(Franz Liszt, 1811-1886)が始めで、その後リストの弟子たち、サンサーンス、ブゾーニ、ラフマニノフ、などなど名編曲が生まれていったというのが定説ですが、色々と調べているうちに、ほぼ同年代ながらもう少し早い時期からバッハのピアノ編曲を行っていたかもしれない音楽家の名前が浮上してきました。チェルリッツキー(Ivan Karlovitsch Tscherlitzky, 1799-1865)、カタカナの読み方が良いかどうか不明ですが、何と18世紀生まれ。リストの6つのオルガン前奏曲とフーガ集が出版されたのが1850年ですが、このTscherlitzkyが編曲したものの一部が1844年に出版されていたという記録が見つかりました。Tscherlitzkyの編曲作品リストを見ると、バッハのオルガン曲のほぼすべての主要曲が含まれており、その数は50種類を超えています。残念ながらまだTscherlitzkyの編曲はあまり集まっていないのですが、ペテルブルクのどこかの図書館に埋もれているのでしょうか。リストが残したバッハのオルガン前奏曲とフーガ集はすべて網羅しているようですので、ぜひ一度リスト編とTscherlitzky編を見比べてみたいと思います。
さて、最近になってこのTscherlitzkyの経歴についてようやく少し知ることができました。ペテルブルクのオルガニストであり、ピアニストでもあり、作曲家でもあり、音楽教授でもあったそうです。今までGoogleで検索してもほとんど出てこなかったのですが、最近になってYouTubeの動画が検索結果に出てくるようになりました。下のムービーが、Tscherlitzky編曲のオルガン前奏曲とフーガ ロ短調 BWV 544です。なんと演奏者はThomas Labé。私がバッハのピアノ編曲にはまるきっかけを与えてくれたピアニストで、CD紹介やblog記事など過去も何度か取り上げました。このムービーの中でも、Tscherlitzkyは初めてバッハのオルガン曲をピアノソロに編曲した人だと紹介されています。
Organ Prelude and Fugue in B Minor, BWV 544
Part I: Prelude
Transcribed for solo piano by Ivan Karlovitsch Tscherlitzky (1799-1865)
Thomas Labé, Piano
続くフーガも以下リンクで見れます。
http://jp.youtube.com/watch?v=wEJM4LYRwYg
このTscherlitzkyについて、もし詳細をご存知の方がいらっしゃればぜひとも教えてください!
うーむ…初耳も初耳の人物ですね。
そして、恐らく当時まだ発展途上であったはずのピアノの性能に、非常によく順応した編曲に驚きました。
これは感激です。
よくぞ、ここまで探り当てられましたね。
ロシア・ピアニズムの系譜で言えば、
ルビンシテイン兄弟の師匠、フランス系のピアニスト
アレクサンドル・ヴィルワン(1804-1878)が最も近い世代でしょうか。
ここより以上、ロシアのクラヴィコード/ピアノフォルテ音楽史を遡ろうとすると、どうやってもボルトニャンスキーまで飛ばなくてはならないので、2世代くらいのミッシング・リンクが未研究のまま潜在していそうな予感がします。
Tscherlitzky,姓や父称から察するにポーランド系でしょうか?
Tandoさん>
コメントありがとうございます。確かに今までロシア・ピアニズムとして興味を持って調べていたルーツよりも少し前の時代になるので、このあたりだとまだ全く知らない世界でした。グリンカの世代ですよね。探究する対象が一つ増えました。