先月リリースされた黒岩悠氏のCD、「Inspire To/From J.S.Bach」を紹介します。
タイトルが示す通り、バッハが先輩の曲をもとに作曲した曲と、バッハのオリジナル、後の音楽家による編曲を組み合わせたプログラムになっています。
その収録曲が絶妙で、『トッカータとフーガ ニ短調』や『主よ、人の望みの喜びよ』などの超有名曲と、『トッカータ ハ短調』や『カンタータ第106番の前奏曲』など知る人ぞ知る名曲とを組み合わせており、幅広い音楽愛好家が楽しめる内容なのではないでしょうか。
私も例に漏れず、大いに楽しませてもらいました。何と言っても初めて聴く編曲が二つもあったのは、バッハのピアノ編曲コレクターとしても収穫でした(片方は編曲者が明らかになっていませんが)。
その一つ、スタンチッチ編曲のカンタータ 第106番の前奏曲(ソナティナ)。スタンチッチが残した『カンタータによる4つの前奏曲』(Vier Kantaten – Vorspiele, 1922)という曲集の第1曲のようです。この曲は、他の音楽家による編曲の存在を知らなかった頃に自分で編曲したことがあるため、とても愛着のある曲でした。
スタンチッチ(Svetislav Stančić, 1895-1970)はブゾーニの弟子とのこと。もう少し勉強してから、別記事を書きたいと思います。
もう一つは、匿名の音楽家による編曲とされる「バディネリ」。きらびやかな高音や細分化された音形など、軽妙かつ工夫の凝らされた編曲です。
編曲以外では、決然とした演奏であるトッカータ ハ短調 BWV 911も良演。ラインケンの音楽の園にもとづくソナタ BWV 965 は、ピアノでの録音は珍しい方ですが、なかなか陽の当たらないこのような佳曲に命を吹き込んでくれるのはとてもありがたいです。
全体としてとても素晴らしい選曲・録音なのですが、惜しむらくは、CD全体の収録時間数が若干短いこと。もう少し多くの曲を聴いてみたかったものです。
<収録曲>
・トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565(ブゾーニ編曲)
・トッカータ ハ短調 BWV 911
・ラインケン『音楽の園 第1番』によるソナタ イ短調 BWV 965
・カンタータ 第106番『神の時こそいと良き時』より 前奏曲(スタンチッチ編曲)
・管弦楽組曲 第2番 BWV 1067より「バディネリ」(匿名音楽家編曲)
・カンタータ 第147番より『主よ、人の望みの喜びよ』(ヘス編曲)
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