パルティータ 第6番 ホ短調(ブゾーニ版)

Partita No.6 e-moll, BWV 830 (Busoni-Ausgabe)
バッハの楽譜で、解釈版の中でも相当異色な存在であるブゾーニ版についてお話しましょう。チェンバロにないピアノ固有の機能を使って、音楽的になるように演奏するための指示が詳細に書き込まれています。ペダルや指使い、速度表示、強弱、フレージング・スラー以外にも、低音域のオクターブ化、和音や対旋律の追加までしている箇所もあり、編曲と捉える方もいます(このページでも編曲として扱います)。これは原典主義的には大いに問題がありますが、一方で後期ロマン派巨匠のバッハ解釈を知る上では重要な資料でもあります。なおパルティータ集のブゾーニ版は、ブゾーニの高弟であるエゴン・ペトリによって編纂されました。ですので、本ページの曲目データベース上は、ブゾーニ版ですが「ブゾーニ編」ではなく、「ペトリ編」として扱います。
以下の楽譜をご覧ください。どちらもパルティータ第6番の冒頭楽章・トッカータですが、上がオリジナルで、下がブゾーニ版(ペトリ編)です。ブゾーニ版(ペトリ編)はMaestosoが指定されています。低音がオクターブ化され重くなり、応答の和音にも音が追加され響きが艶やかになっています。オリジナルへの冒涜、やり過ぎ、等といった批判が起こるかも知れません。
しかしこれはピアノで音楽的になるように演奏するための一つの解釈なのです。常に重い和音というわけではなく、軽いテクスチャを維持した部分も多く残っています。
Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830
(Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830)
Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830
(Bach=Petri/ Toccata from Partita No.6 BWV 830 (Busoni-Ausgabe))
下の楽譜はフーガの中間部です。はじめの2小節は、バスの旋律に小さい音符が付け加えられ、オクターブによる演奏が指示されています。これは、低音の響きを厚くするだけでなく、この接近した2声部に分かれた「ため息」のフレーズを明瞭に弾き分けられるという効果もあります。その後、3小節目からはオリジナルと同じテクスチャに戻ります。
Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830
(Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830)
Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830
(Bach=Petri/ Toccata from Partita No.6 BWV 830 (Busoni-Ausgabe))
 ここに紹介したのはほんの一例に過ぎませんが、全曲を通して、決して派手にすることが目的ではなく、ピアノを使った場合の工夫点が楽譜上に指示されているわけです。

<以上の記事は、パルティータ愛好会主催の演奏会で、私が出演者曲目紹介として書いたものを微修正し転用したものです。>

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