ストラダルが残した手稿譜

ストラダルは、以前取り上げた通り膨大な数のピアノ編曲を残しています。彼の作品リストは文献として残っていますが、その中で出版されずに手稿譜として残されている作品も多くあり、バッハの編曲は20種類を超えます。これらが手稿譜のまま忘れ去られてしまう(現に作成から100年近く経っています)のは大変残念なことです。そこで私は、これらを浄書して後世に残していきたい(大袈裟ですが)と考え、現時点で既に4曲浄書しました。追って紹介していきたいと思います。
さてストラダルの残したピアノ編曲は、とにかく2本の手で可能な限りたくさんの音を拾おうとしており、重厚な音楽となっています。2オクターブ以上にわたる常識はずれな和音や跳躍が平気で出てくるため、楽譜通りにインテンポで演奏するのは不可能なのではないかと思わされます。他の音楽家の編曲作品と比べても、ストラダルの編曲結果は決して傑作と呼べるものではないと思いますが、ストラダルの魅力は、他の音楽家がピアノソロに編曲しようとは思いもしない曲の編曲をたくさん残してくれたことで、強引ですが少なくとも2段譜に収まったピアノ譜として音楽を眺めることができるのです。また、原曲の声部ごとの動きがわかるような記譜になっており、原曲をイメージしやすい編曲とも言えます。
そんなストラダル編の手稿譜を浄書することは、ストラダルの編曲結果をなぞるというよりも、バッハの原曲、その作曲技法を堪能できる(勉強できる)と思います。おかげで私にとって、ストラダル編の浄書はピアノを弾くのと同じくらい楽しい作業になりました。副次的な効果として、楽譜製作ソフト・Finaleの使い方もだいぶわかってきて、入力スキル・スピードも向上しました。
バッハが先輩音楽家の楽譜を写譜することで作曲を学んでいったように、この浄書が私の編曲スキル向上に役立つともっといいなと思いつつ、気長に浄書は続けていこうと思います。

    【ストラダルが手稿譜として残したバッハ編曲作品リスト】

  • カンタータ 第12番 「泣き、嘆き、憂い、おののき」 BWV 12
  • カンタータ 第78番 「イエスよ、汝はわが魂を」 BWV 78
  • マタイ受難曲 BWV 244 より 合唱「われらは涙してひざまずき」
  • ヨハネ受難曲 BWV 245 より 合唱「安らかにお眠りください、聖なる亡骸よ」
  • 7つのオルガン曲
    1. カンツォーナ ニ短調 BWV 588
    2. 前奏曲 イ短調 BWV 569
    3. フーガ ト短調「小フーガ」 BWV 578
    4. フーガ ロ短調「コレッリの主題による」 BWV 579
    5. フーガ ハ短調 BWV 575
    6. トリオ ニ短調 BWV 583
    7. 幻想曲 ハ短調 BWV 562
  • パストラーレ ヘ長調 BWV 590
  • コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766
  • コラールパルティータ 「おお神よ、汝義なる神よ」 BWV 767
  • コラールパルティータ 「喜び迎えん、慈しみ深きイエスよ」 BWV 768
  • トッカータ 嬰ヘ短調 BWV 910
  • トッカータ ハ短調 BWV 911
  • トッカータ ホ短調 BWV 914
  • 前奏曲 変ホ長調(第1版) ~ 無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV 1010 より
  • 前奏曲 変ホ長調(第2版) ~ 無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV 1010 より
  • 管弦楽組曲 第1番 ハ長調 BWV 1066
  • 管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV 1067
  • 管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV 1068
  • モテット「われは憂い多く」による序奏とフーガ(リストによるオルガン編曲による)
    (カンタータ 第21番より)