いままで書き溜めてきたバッハの左手用編曲を、J.S.バッハ:左手のための24の小前奏曲として出版しました。実はこの構想は「左手のアーカイブ」内のプロジェクトとして2015年の冬から開始しており、今まで数多く創作してきた編曲の中から、作曲理論や片手演奏上の方法論など様々な観点から「バッハらしさ」を追求し完成度を高められたものから厳選、6曲ずつを1巻にまとめる方針で製作していました。2017年までに第1巻・第2巻として左手のアーカイブから出版し、2017年5月17日のコンサート「左手のピアノ音楽史編纂プロジェクト ~バッハを中心とするバロック時代編~」で初演を果たしていました。その後私を含め関係者の時間的都合により続編の編纂作業を進められずにいたのですが、共同編曲者である高久弦太さんのご尽力により、この度ようやく全4巻をまとめた左手のための24の小前奏曲としてAmazonで出版することができました。
カテゴリー: Bach for One Hand
片手のための2つのコラール
バッハのオルガン小曲集から、2つのコラールを片手だけで演奏できるように編曲しました。左手だけのためにと記しましたが、右手だけでも演奏可能です。
1曲目:「いざ来れ、異邦人の救い主よ」 BWV 599
2曲目:「古き年は過ぎ去り」 BWV 614
Piascore楽譜ストア:https://store.piascore.com/scores/232656
Sheet Music Plus:
look inside | Two Chorales for the left hand Composed by Johann Sebastian Bach (1685-1750). Arranged by Hiroyuki Tanaka. Baroque, Classical. Score. 3 pages. Hiroyuki Tanaka #912481. Published by Hiroyuki Tanaka (A0.1324283). |
片手のための「甘き喜びのうちに」
クリスマスのコラール「甘き喜びのうちに」BWV729について、2015年に左手用に編曲し、左手のピアニストに演奏していただいたことがありましたが、あらためて細かい手直しを入れて、楽譜販売サイトで公開しました。左手だけで演奏することを想定して編曲しましたが、右手だけでも演奏できました。左手用の編曲と比較し、右手用の編曲は選択肢が少ないので、右手だけで演奏できる曲を探している方にもぜひ弾いていただきたいです。参考演奏として私が右手だけで演奏した動画をYouTubeにアップしました。
Piascore楽譜ストア:https://store.piascore.com/scores/237311
Sheet Music Plus:
look inside | “In Dulci Jubilo” BWV 729 for One Hand Composed by Johann Sebastian Bach (1685-1750). Arranged by Hiroyuki Tanaka. Baroque, Christmas, Classical. Score. 4 pages. Hiroyuki Tanaka #931560. Published by Hiroyuki Tanaka (A0.1346777). |
左手のためのトッカータとフーガ(BWV565)出版
ちょうど11年前に、演奏会用の左手用編曲として左手のためのトッカータとフーガ ニ短調(BWV 565)を創作した記事を書きました。今年の秋に演奏機会があり、改めて手直しを加え、楽譜ストアで公開することにしました。編曲曲目データベースを見ても、トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565にはたくさんの編曲が存在しますが、その中に私の片手編曲も末席に加えられたかなと思います。参考演奏としてトッカータ部分のみYouTubeにアップしました。編曲としてはフーガまで通して作っていますので、腕に自信がある方に是非演奏してもらいたいです。
参考演奏(トッカータのみ):
Piascore楽譜ストア:https://store.piascore.com/scores/229606
Sheet Music Plus:
look inside | Toccata and Fugue in d minor for the left hand, BWV 565 Composed by Johann Sebastian Bach (1685-1750). Arranged by Hiroyuki Tanaka. Baroque, Classical. Score. 14 pages. Hiroyuki Tanaka #902964. Published by Hiroyuki Tanaka (A0.1314225). |
バッハ「左手のための前奏曲集 vol.1」(田中編)
2011年から続けている左手のためのバッハ・ピアノ編曲の中から、オルガン曲を中心とした前奏曲とフーガからの編曲を、出版社のMuse Pressで曲集として出版してもらいました。
バッハ「左手のための前奏曲集 vol.1」です。古いものでは2013年に編曲した左手のためのオルガン前奏曲(BWV535より)に遡りますが、今回曲集にまとめるにあたり、「左手のためのバッハ・編曲プロジェクトチーム」(左手のピアニストとして活動する智内威雄氏、山中哲人氏、及び田中)による企画に乗せてもらう形で、以下のような編曲方針に統一して全曲を手直ししました。
(楽譜の緒言より抜粋)
バッハ自身による左手のためのオリジナル作品や編曲が存在しない以上、「バッハによる左手ピアノの音楽」は想像の域にあることは言うまでもありません。そこで、原曲に対して音数を敢えて減らすからこそ表現できるハーモニーやフレーズの魅力、リズムの連続性などを発見しながら、原曲の価値を損ねることがないように編曲すること。この一点を方針としてプロジェクトチームと共有し、世に問う価値があると判断した編曲のみを曲集に採用しました。
編曲にあたっては「左手による演奏」に無理が生じないように配慮したことはもちろんですが、他方でなるべくバッハ本来の響きを損なわないようにするために、ピアノ特有のダイナミズムに依存することのない編曲を心がけました。そうすることで、片手奏法の面からバッハ作品の解釈幅を広げる可能性を模索しました。
こうして出来上がった曲集は、左手のための新たなバッハ・レパートリーとして完成度の高いものになったと自負しています。今回Vol.1として出版してもらったため、Vol.2以降も出せるように引き続き編曲を続けていこうと思います。
<収録曲>
前奏曲 ト短調 BWV535/1
前奏曲 イ長調 BWV536/1
前奏曲 ヘ短調 BWV534/1
前奏曲 変ホ短調 BWV853/1
前奏曲 ハ長調 BWV531/1
前奏曲とフーガ ホ短調 BWV533
¥2,500
税込|菊倍|24頁
https://muse-press.com/item/mp03301/
K. Kojima played Bach=Tanaka BWV535/1
左手で演奏活動されている児嶋顕一郎さんが、リヴォルノ・ピアノ・コンペティション 2019 (Livorno Piano Competition 2019)にて、私の編曲 左手のためのオルガン前奏曲(BWV535より)を演奏されました。YouTubeに公開されているため、紹介させていただきます。
Johann Sebastian Bach : Prelude for Olgan in G-minor BWV535/1
(Transcribed for the left hand alone by Hiroyuki Tanaka)
Livorno Piano Competition 2019
https://youtu.be/psHBMF-Umh8
左手のためのバッハ小前奏曲集と演奏会
2017年5月17日、大阪のザ・フェニックスホールにて、『左手のピアノ音楽史編纂プロジェクト ~バッハを中心とするバロック時代編~』というコンサートが開催されます。ピアニストは智内威雄さんと有馬圭亮さん、左手演奏のみでオールバッハのプログラムを組むという、大変意欲的な取り組みです。この演奏会の中で、私が編曲した曲も演奏されます。
2年前の冬から、「左手のアーカイブ」内のプロジェクトとして『左手のためのバッハ:小前奏曲集』の編纂(編曲)に取り組んできました。試作を繰り返し、これまでに30曲を超える候補曲が出来上がりましたが、作曲理論や演奏上の方法論など様々な観点から「バッハらしさ」を追求し完成度を高められたものから厳選、6曲ずつを1巻にまとめる方針で製作していきました。昨年6月に第1巻を出版し、第2巻は5月17日のコンサートに合わせて出版・販売開始することになっています。編曲は私のほか、山中哲人氏、作曲家の石坂真帆さん・長谷部瑞季さんとで作成し、演奏の観点からは左手のピアニストである智内威雄さん、有馬圭亮さんから助言を、およびプロジェクトの良き理解者の方々に編集・校訂に協力してもらい、チームとして楽譜を仕上げてきました。
5月17日のコンサートでは、この出版済み第1巻・第2巻の小前奏曲と、近い将来予定している第3巻以降の候補曲やオルガン曲の編曲(田中編)が演奏されます。大曲としてはヴィットゲンシュタイン編曲のシャコンヌも演奏されます。
大変楽しみな演奏会です。
《左手のためのバッハ:小前奏曲集 第1巻の収録曲》
1. 小前奏曲 ハ長調 BWV924 (編曲:田中博幸)
2. 小前奏曲 ニ短調 BWV926 (編曲:山中哲人)
3. 小前奏曲 へ長調 BWV927 (編曲:山中哲人)
4. 小前奏曲 変ホ長調 BWV815a/1
4-1. 展開1 after BWV815a/1 (展開:石坂真帆)
4-2. 展開2 after BWV815a/1 (展開:長谷部瑞季)
5. 小前奏曲 ハ短調 BWV999 (編曲:田中博幸)
6. 小前奏曲 ト短調 BWV598 (編曲:山中哲人)
変奏曲形式によるカノンの展開 BWV1087
Canon realization in the form of variations on bass-ostinato (from Bach’s 14 Canons on the first 8 fundamental notes of the Aria from Goldberg Variations, BWV 1087), compiled and transcribed for piano left hand only by Hiroyuki Tanaka.
左手のための、変奏曲形式によるカノンの展開(バッハ:ゴルトベルク変奏曲のバス8音に基づく14のカノン BWV1087)編作:田中博幸
片手用のバッハ編曲、理論先行型でありつつ演奏・鑑賞にも耐えうる作品が書けました。
BWV1087の14のカノンを、4つのカノン構成要素と10の応用カノンとみなして、カノン構成要素2つで主題提示、10のカノン変奏、カノン構成要素2つに回帰するという構成。10のカノン変奏では、すべてバスは繰り返し、繰り返し時に各対位主題の反行形、逆行形、拡大形、縮小形などを使いました。
同一バス上の変奏とするために、反行形では途中から繰り返し後の途中までという形でまとめ、片手演奏用に音形音域を変更したものも忠実に反行させています。上の譜例で、右上の第10変奏などは、前半は1/2縮小形として、後半は等倍・2倍拡大形をそれぞれバス主題(4倍拡大形)に組み合わせています。
カノンは、本来は複数声部の重なりと掛け合いがあってこそ味わえる魅力がありますが、残念ながら片手用編曲としては離れた音域の複数声部を重ねることは難しいです。一方でバッハが用意した対位主題の反行形、逆行形、拡大形、縮小形などを、バス主題上の変奏曲の形で並べることで新しい魅力が引き出せました。
左手のための組曲 ホ短調 BWV996
Suite in e minor, BWV 996, transcribed for the left hand only by Hiroyuki Tanaka. Happy belated J. S. Bach’s birthday.
プレリュード、アルマンド、クーラント、サラバンド、ブーレ、ジーグ、舞曲全てを左手用に編曲しました。
以前プレリュードの前半を小前奏曲として作っていましたが、後半のフガートもうまく編曲できたため、全曲の編曲に挑戦してみることにしました。
結果、ジーグ以外はかなりうまくいったと思います。ジーグについてはやや弾きづらく、改善の余地があります。
また、全体的に音域が低い方に偏っているため、イ短調にして少し音域を上げても良いかもしれません。
平均律第1巻からの2つの左手編曲(変ホ短調、ロ短調)
昨年末より、集中的にバッハのピアノ曲を片手用に編曲する取り組みを進めています。詳細は後にあらためて書きますが、小規模な曲を中心に編曲しており、その中で3月に完成させたやや規模が大きい2つの作品について今回は書きたいと思います。2つとも平均律クラヴィーア曲集 第1巻から、フーガを除く前奏曲です。
1つ目は第8番の変ホ短調で、編曲にあたってはニ短調に移調し、メロディーラインはオクターブ下げています。諸事情によりニ短調に移調しましたが、変ホ短調の版も作ってあります。
J. S. Bach/ Prelude D minor(original is E flat minor) from WTC Book I, arranged for left hand only by Hiroyuki Tanaka.
2つ目は、第24番のロ短調です。こちらは、原曲のバスを割愛し、上二声をオクターブ下げてデュエットの形にしました。部分的にバスを補っていますが、基本は上二声だけで崇高な音楽が成立します。
J. S. Bach/ Prelude B minor from WTC Book I, arranged as a duet for left hand only by Hiroyuki Tanaka.
両曲ともに平均律第1巻の中では大変人気の高い曲であり、このような編曲は非難されることを覚悟した上で。