昨年末より、集中的にバッハのピアノ曲を片手用に編曲する取り組みを進めています。詳細は後にあらためて書きますが、小規模な曲を中心に編曲しており、その中で3月に完成させたやや規模が大きい2つの作品について今回は書きたいと思います。2つとも平均律クラヴィーア曲集 第1巻から、フーガを除く前奏曲です。
1つ目は第8番の変ホ短調で、編曲にあたってはニ短調に移調し、メロディーラインはオクターブ下げています。諸事情によりニ短調に移調しましたが、変ホ短調の版も作ってあります。
J. S. Bach/ Prelude D minor(original is E flat minor) from WTC Book I, arranged for left hand only by Hiroyuki Tanaka.
2つ目は、第24番のロ短調です。こちらは、原曲のバスを割愛し、上二声をオクターブ下げてデュエットの形にしました。部分的にバスを補っていますが、基本は上二声だけで崇高な音楽が成立します。
J. S. Bach/ Prelude B minor from WTC Book I, arranged as a duet for left hand only by Hiroyuki Tanaka.
両曲ともに平均律第1巻の中では大変人気の高い曲であり、このような編曲は非難されることを覚悟した上で。
カテゴリー: My Arrangement
左手用編曲の再燃
12月は、上旬にワンハンド・ピアノフェスタに参加して再び片手用編曲について刺激を受けて、たくさんの左手用編曲に取り組み、その中で以下を仕上げました。
小前奏曲 ハ長調 BWV 924
BWV924の小前奏曲は、原曲に忠実な版と、ペダルを使わなくても弾けるように簡略化した簡易版を作りましたが、結果的には簡易版の方が純粋でいい出来のように思います。
イギリス組曲より「二つのサラバンド」
イギリス組曲からの二つのサラバンドは、四年前の作品(第6番、第4番)の練り直しです。今回はドゥーブルは無しで、より音を厳選して、無理な跳躍を避けてペダルなしでも弾けるようにしました。この編曲を通じて、昔と比べて進歩していると実感することができました。
コラール前奏曲「甘き喜びのうちに」
J. S. Bach/ Chorale ‘In Dulci Jubilo’, BWV 729 arranged for piano left hand only by Hiroyuki Tanaka
バッハ若き日のオルガンコラール編曲、「甘き喜びのうちに」は、思いついてから一気に作ったものですが、無理なく広い音域を使っていて、自分でもかなりうまく仕上がったと思います。
小前奏曲とフーガ ホ短調 BWV 533
J. S. Bach/ Prelude and Fugue in e Minor, BWV 533 arranged for piano left hand only by Hiroyuki Tanaka
BWV533の小前奏曲とフーガは、フーガを含めてさほど無理なく編曲出来たということで満足していますが、上記のコラール編曲の方に比べると弾き易さは劣りますし、やはりフーガは初めから片手用に意識して創作されたものでないと難しいということを今回も痛感しました。
まだまだ片手用編曲構想中の曲がたくさんありあります。2016年も積極的にアウトプットしていきたいと思います。
左手のための練習曲 嬰ハ長調(BWV848)
J. S. Bach/ Prelude C sharp major from WTC Book I, arranged as an etude for left hand only by Hiroyuki Tanaka.
バッハ片手用編曲の20曲目は、平均律第1巻の第3番 前奏曲 嬰ハ長調(フーガは除く)を、左手用の練習曲として編曲しました。
今回は演奏会用の効果の追求や、あたかも両手で弾いたかのうに聞こえるような編曲ではなく、片手だけでバッハの音使いを感じることができるような編曲に仕上げました。
Paul Barton plays Bach-Siloti-Tanaka Prelude for left hand only
ピアニストの Paul Barton 氏から、私の編曲「左手のためのプレリュード ロ短調(BWV855a、Siloti編に基づく)」を弾いて録画したよ、という嬉しい連絡が来ました。
しかもIMSLPにある私の楽譜を偶然見つけて、私と同じ発想で生後5ヶ月の娘さんを抱っこしながらの演奏。IMSLPで公開しておいて良かったとあらためて実感した出来事でした。
(Quoted from Paul Barton‘s description)
I found this left hand arrangement by chance in the IMSLP Music Library and thought it would be nice to play to my daughter Emilie (5 months old). I made this video today and in adding the link to the sheet music Goggled the arranger Hiroyuki Tanaka and was happy to discover he too has a video playing this piece to his baby.
カンタータ第196番「主はわれらをみ心にとめたまえり」より「シンフォニア」
カンタータ第196番「主はわれらをみ心にとめたまえり」より第1曲「シンフォニア」
‘Sinfonia’ from Cantata No.196 “Der Herr danket an uns” BWV 1196
2015年3月21日、バッハの生誕330年の誕生日(をちょうどいい口実に)、久しぶり(何と5年ぶり!)に両手のための編曲を完成させました。
カンタータ第196番「主はわれらをみ心にとめたまえり」のシンフォニアをピアノソロに編曲しました。今回はピアノ用に適した書法というよりも、複数声部の器楽合奏曲を三声部に凝縮するという試みです。ピアノ高音部の使用も、低音のオクターブ化も避け、ピアノだけでなくチェンバロでの演奏も可能にしています。
(Bach=Tanaka/ Sinfonia from Cantata No.196 BWV 196)
原曲は二つのヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、通奏低音による合奏ですが、一台の鍵盤楽器で演奏できる三声として、音域が近すぎず遠すぎず、最適な配置になることに注意を払って編曲しました。その際に、音楽が不自然にならない前提で、声部の統合や音域の変更は躊躇せずに実施しています。
実はこの曲、一度はピアノに適した編曲を目指して低音のオクターブ化や音の追加を行い、ある程度の形まで作っていたのですが、推敲途中でシンプルにした方がいいのではないかという思いから少しずつ音をそぎ落としているうちに、三声で書き直した方が良いのではないかと思い直して路線変更しました。原曲の音をできる限りたくさん拾うという努力ではなく、音を省きつつ凝縮していこうという努力。これもなかなか難しいですが挑戦のし甲斐がありました。
左手のためのパッサカリア(BWV 582より)
バッハ片手用編曲の19曲目です。パッサカリア ハ短調 BWV 582(ただしフーガは除く)を、左手だけで演奏できるように編曲しました。低音域から高音域まで、またPPからFFまで広く使い、演奏会用途を意識した編曲です。
原曲は有名なオルガン曲、手鍵盤+足鍵盤の曲を片手だけにするのはなかなか大変ですが、足鍵盤はほとんどがテーマを演奏していて、かつ二分音符+四分音符の同じリズムのため、片手で弾くための工夫が比較的しやすかったです。大変なのは手鍵盤+足鍵盤がそれぞれ大きく動くような変奏部分や、五〜六声まで厚くなる終結部などで、どう編曲するか音の構成を何度も考え直しました。フーガ部分はさらに複雑で、編曲を断念せざるを得ませんでしたが、フーガに入る前までの20の変奏は全て編曲しました。
今年は色々と大変で、創作はあまりたくさん残せなかったのですが、その中でも何とか規模が大きい1曲を完成できて良かったです。
左手のための前奏曲 変ロ長調(BWV866より)
バッハ片手用編曲の18曲目は、平均律クラヴィーア曲集第1巻から第21番、変ロ長調の前奏曲を、左手だけで演奏できるように編曲しました。
広い音域を行き来するエチュード的な趣の曲ができあがりました。原曲をほぼそのままに、あまりにも跳躍が大きくなりすぎる部分などの一部音形を変更しました。
両手での演奏と同等のテンポまで上げるのは相当難しいかもしれませんが、片手演奏の良い練習になると思います。
左手のためのオルガン前奏曲(BWV535より)
バッハ片手用編曲の17曲目は、オルガン曲の前奏曲とフーガ ト短調 BWV 535 より 前奏曲 を、左手だけで演奏できるように編曲しました。以前編曲した左手のためのトッカータとフーガ ニ短調 BWV 565と同様に演奏効果を意識した、演奏会向け編曲です。こちらの方がやや弾きやすく編曲できたと思います。まずは冒頭部です。Gの保続音はソステヌートペダルを使う指示をしています。
レシタティーヴォの部分と半音階で分散和音が下降する部分は、片手だと演奏が難しいですが、弾けないことはなく左手のための良い練習になるのではないでしょうか。そして終結部は、片手であっても重厚な響きを再現することができました。
近い将来、どこかの演奏会で実際に演奏してみたいと考えてます。
右手のためのシチリアーノ(フルートソナタ BWV1031より)
バッハ片手用編曲の16曲目は、フルート・ソナタ BWV 1031 の第2楽章、シチリアーノを、右手だけで演奏できるように編曲しました。この曲も非常に有名で、多くのピアノ編曲が存在します。片手用としても、ヴィットゲンシュタインによる左手用の編曲がありますが、私は敢えて右手用に編曲しました。
片手に編曲するにあたり、シチリアーノの付点リズムを崩さないように注意を払い、メロディー最優先としました。低音は親指を使ってシンコペーション気味に記譜していますが、そこは強調したい点ではなく、手の大きさから同時に演奏できない部分をずらして弾くくらいの感覚です。また、和声感を支える分散和音は主張しすぎず流れるように演奏してもらいたいために、音符を小さくしました。
2013/6/22に、第10回こだわり〜ミニ演奏会で演奏しました。
右手だけで演奏できるレパートリーは左手だけのものに比べて極端に少ないですが、周囲にも必要とする方が何人かいらしゃいます。少しずつ増やしていきたいと思います。
左手のためのトッカータとフーガ ニ短調(BWV 565)
バッハ片手用編曲の15曲目は、超有名なオルガン曲、トッカータとフーガ ニ短調 BWV565を、左手だけで演奏できるように編曲しました。
私の今までの編曲の中で最も長く、13ページにわたる大作になりました。難易度も、少なくともテクニック面では上級レベルでしょう。
3ヶ月くらい前に着想し、ようやく最後まで通して弾けるように編曲が完了しました。技巧的で激しい曲調、長大なフーガなど、今回は今までの編曲にはない多くの挑戦がありました。
色々な方に弾いてもらうためにはもう少し弾きにくいところを改善する必要がありそうです。
5年前に書いた記事の通り、この曲は数多くのピアノ編曲が存在し、私が保有するもので20種類を軽く超えています。
その中でも今のところ片手用の編曲は見かけません。私の編曲作品を末席に並べさせてもらえればと思います。