左手のためのアリオーソ(BWV1056より)

バッハの片手用編曲シリーズ第3弾は、協奏曲 ヘ短調 BWV1056の第2楽章、アリオーソ(ラルゴ)を左手ソロ用に編曲しました。この曲は甘美なメロディーが魅力的で、ピアノソロ用編曲としてもたくさんの編曲が残されています。左手用編曲にあたり、メロディーラインは1オクターブ下でアルト音域にしました。原曲では、終結部は第3楽章に続くための短調のコーダがありますが、ここはコルトー編曲と同様に省略し変イ長調のまま曲を結んでいます。
J. S. Bach/ Arioso (2nd mov. from Concerto in f minor BWV 1056) arranged for piano, left hand only by Hiroyuki Tanaka

右手のためのラルゴ(BWV1005より)

バッハの片手用編曲シリーズ第2弾は、無伴奏ヴァイオリンソナタ 第3番 ハ長調 BWV1005の3楽章を、右手だけのために編曲しました。原曲そのままでも右手だけで弾けますが、そこから複数の声部を抜き出し、ピアノならではの良さを少しでも出すためにバス声部は1オクターブ下で弾くようにしています。大きめの終止では、少し音を厚く豊かにしています。
J. S. Bach/ Largo (from Sonata for violin solo in C Major BWV1005)
arranged for piano, right hand only by Hiroyuki Tanaka

Bach for One Hand

10月20日に長男が生まれ、生活リズムはがらりと変わり全てが赤ちゃん中心になっています。そんな中で、父親である私の趣味(ピアノ、バッハの音楽)を何とか育児の中に取り込めないかと、片手でだっこしながらもう片方の手でピアノを弾いて聴かせてあげるという、新しいピアノの楽しみ方を探るようになりました。
以前編曲した左手のためのサラバンドを含め、色々な曲を自分で片手用の編曲を試みています。育児のため週末に外出できないことが多いため、自宅でできる編曲の創作意欲は高まり、毎週編曲を増やしてきています。楽譜や音源を交え、少しずつ紹介していきたいと思います。

<Bach for One Hand 編曲作品リスト(2014/12時点)>

  1. 左手のためのサラバンド(パルティータ 第1番 BWV 825 より) (2009.1)
  2. 右手のためのラルゴ(無伴奏ヴァイオリンソナタ 第3番 BWV1005 より)(2011.11.20)
  3. 左手のためのアリオーソ(クラヴィーア協奏曲 ヘ短調 BWV1056 より)(2011.11.27)
  4. 片手のためのプレリュード(前奏曲、フーガとアレグロ 変ホ長調 BWV998 より)(2011.12.3)
  5. 右手のためのサラバンド(イギリス組曲第6番 BWV811 より)(2011.12.10)
  6. 左手のためのアダージョ(マルチェッロによる協奏曲 ニ短調 BWV974 より)(2011.12.18)
  7. 右手のためのクリスマス・コラール(クリスマス・オラトリオ BWV248 より)(2011.12.24)
  8. 左手のためのシンフォニア(シンフォニア第5番BWV791)(2012.1.2)
  9. 左手のためのプレリュード ロ短調(BWV855a, Siloti編に基づく)(2012.1.8)
  10. 右手のためのアリオーソ(BWV 992 より)(2012.1.16)
  11. 左手のためのカンツォーナ(BWV 588 より)(2012.1.22)
  12. 右手のためのサラバンド(イギリス組曲第4番 BWV809 より)(2012.1.29)
  13. 左手のためのコラール「我汝を呼ぶ、主イエス・キリストよ」(BWV639)(2012.2.4)
  14. 左手のためのアンダンテ(パストラーレ BWV590 より第3楽章)(2012.7.16)
  15. 左手のためのトッカータとフーガ ニ短調(BWV565)(2012.12.9)
  16. 右手のためのシチリアーノ(フルート・ソナタBWV1031より)(2013.6.23)
  17. 左手のためのオルガン前奏曲(BWV535より)(2013.8.4)
  18. 左手のための前奏曲 変ロ長調(BWV866より)(2014.3.30)
  19. 左手のためのパッサカリア(BWV 582より)(2014.12.30)

楽譜を出版してもらいました

このたび、私が編曲した作品の一部を、Music Bells (ミュージック・ベルズ)から出版してもらうことになりました。楽譜を出版するというのは、利益を得る云々ではなく、世の中に自分の足跡を残すという意味で、いつか実現したいと考えていたことなのですが、比較的手軽な方法で出版する機会を提供しているMusic Bells (ミュージック・ベルズ)に感謝したいと思います。
Music Bells (ミュージック・ベルズ)
このMusic Bells (ミュージック・ベルズ)では、電子データ楽譜(PDFファイル)と、紙に印刷された楽譜との、どちらかを選んで購入することができます。今回は以下リンクの3曲を出版してもらいました。

左手のためのサラバンド(パルティータ第1番より)

2009年初めての更新は、今年初めての自編作品、「左手のためのサラバンド」です。バッハのパルティータ 第1番 変ロ長調の、4曲目サラバンド。年末にバッハ好きのピアノ仲間が右手を痛めてしまったとのことで、左手だけで弾けるバッハの曲を探してました。左手用のバッハとしては有名どころではブラームス編曲のシャコンヌなどがありますが、ちょっと気安く取り組むには難しすぎるかもしれません。バッハの曲は複数の声部が絡み合う曲がほとんどのため、なかなか左手一本で弾くのは難しいですが、そんな中、今自分が練習中のパルティータ第1番のサラバンドが、ちょっと頑張れば左手だけで弾けそうな予感がしました。そこで取り組んでみたのが、今回の編曲作品です。一段譜に収めることにこだわり、指使いまで指定して作りました。
オリジナルの冒頭の楽譜はこうなっています。
Bach/ Sarabande from Partita No.1 BWV 825 (Original)
(Bach/ Sarabande from Partita No.1 BWV 825 (Original) )
ここを、主旋律はそのまま弾き、バスは主旋律の前打装飾音として扱うことで、左手だけの一段譜に編曲しました。それが以下の楽譜です。
Bach=Tanaka/ Sarabande for left hand only from BWV 825
(Bach=Tanaka/ Sarabande for left hand only from BWV 825)
実際に弾いてみると、それなりに音楽になります。前半はほとんどすべての音を拾うことに成功しましたが、後半は旋律を主張する声部が増え、特に21小節目以降はどう弾くべきか迷うところです。まずオリジナルの楽譜はこうなっています。
Bach/ Sarabande from Partita No.1 BWV 825 (Original)
(Bach/ Sarabande from Partita No.1 BWV 825 (Original) )
ここは、右手トリルの継続はあきらめ、最初の装飾音として印象付けることで、あとはバスに集中することにしました。トリル後の二旋律の絡み合いは、何とか片手で弾けました。
Bach=Tanaka/ Sarabande for left hand only from BWV 825
(Bach=Tanaka/ Sarabande for left hand only from BWV 825)
果たしてこの編曲が受け入れられるかどうか不安もありましたが、この楽譜を渡したところ喜んで下さり、実際に弾けるとも仰っていたので、自己満足だけに終わらずにとても嬉しかったです。
今回と同じアイデアで、イギリス組曲 第6番のサラバンドも弾けるかもしれません。

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BWV 1128のピアノ編曲完成

コラール・ファンタジー「主なる神、我らの側にいまさずして」 BWV 1128
Chorale Fantasia ‘Wo Gott der Herr nicht bei uns hält’ BWV 1128
先日入手した新発見曲のオルガン譜をもとに、全曲を通してピアノソロで演奏できるように2段譜にしてみました。ほとんどの箇所は左右の手にうまく振り分けることで、原曲の音を全く変えることなくすべての音を拾うことができました(10度の跳躍は1か所のみ)。
冒頭箇所は前回も紹介しましたが、以下のように始まります。(原コラールのメロディはこちらのサイトをご参照ください
Bach=Tanaka/ Chorale Fantasie BWV 1128
曲の中盤では、冒頭でも変形されて出てきたコラールのメロディーをテーマに、常に対旋律に支えられながらフーガ風に繰り広げられます。
Bach=Tanaka/ Chorale Fantasie BWV 1128
そして終結部は、より自由にトッカータ風に演奏されます。サステインペダルを使って、ペダル声部を残したまま演奏すると良いと思います。
Bach=Tanaka/ Chorale Fantasie BWV 1128
ペダル声部をオクターブしたり、和音を厚くしてピアノ曲として派手に編曲できそうな箇所もたくさんありますが、まずはおとなしく原曲に忠実に再現することに注力して編曲しました。

マタイ受難曲 BWV 244 より「われらは涙してひざまずき」

マタイ受難曲 BWV 244 より 「われらは涙してひざまずき」
‘Wir setzen uns in Tränen nieder’ from Matthäus-Passion BWV 244

ストラーダルが手稿譜として残した編曲の数々を見たときに、いち早く「弾いてみたい!」と思った曲で、真っ先に浄書し、先日の演奏会で初めて人前で弾かせてもらいました。1921年に編曲されたまま忘れ去られ、去年まではチェコの博物館に自筆譜として眠っていたものなので、おそらく日本初演だったのではないでしょうか。
原曲はあのマタイ受難曲の終曲であり、時間にして約3時間にわたる音楽の締めくくりとして感動を誘う大合唱です。マタイ受難曲に関する詳細な解説は世にたくさん出回っているため、ここでは割愛します。
さてこの曲をピアノで弾くには相当無理があると思われますが、ストラーダルは繰り返しごとに和音を分厚くしてゆき、壮大な楽想を果敢にピアノで表現しようとしています。まず冒頭部の楽譜を見てみましょう。以下のように比較的まともな音の使い方で曲が始まります。
Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244
これが、展開を経て再現される箇所では、以下のようになってしまいます(4小節目)。左手にいたっては3オクターブにわたるアルペッジョ和音。唖然とさせられます。
Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244
ストラーダルには失礼かも知れませんが、この編曲に関しては必ずしも記譜された全ての音を弾く必要は無いと私は考えます。現実的に演奏可能な程度に音を減らしてもある程度は同じ演奏効果が得られると思い、独自に手を加えました。
一方で、ストラーダルの編曲では終始、中・低音域の厚い和音が集中していることで、若干冗長というか、もっさりと重たすぎると思います。音を減らすところで手を加えたついでに、一部のメロディー部は1オクターブ高い音域で演奏するように手を加えました。その一例を以下に挙げます。
<ストラーダルによる結尾部>
Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244


<私の結尾部の改善案>
Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244
弱音で奏でる1~2小節目の和音は音を少なくし、力強く歌う箇所(3~4小節目)は弾き易く音を減らした低音のアルペッジョと高音域に移したメロディーで広い音域を使うように手を加えました。
これらの改編は、当初は練習しながら思いついて書き込んでいたものでしたが、自分が演奏会に出すために何度も練るうちに改訂版としてまとめて楽譜を作り直しました。今年もまだ演奏会に出演させていただく機会が何回かあるので、ぜひこの曲も熟成させ何度か弾きたいと思っています。(よい録音が残せれば載せたいと思います)

新発見の曲を、早速ピアノで

バッハの初期オルガン作品が発見されたとのことで、早速この曲をピアノで弾いてみることにしました。昔、ブゾーニは「オルガンの3段譜を見ても、頭の中で編曲し即座にピアノで弾けるようになれ」と言っていたようですが・・・とりあえずピアノ2段譜に編曲(音に手は加えてませんが)してみました。オリジナルなオルガン譜は誰かが作っていると思いますが、さすがにまだピアノ編曲は誰もしてないのでは?!
コラール・ファンタジー「主なる神、我らの側にいまさずして」 BWV 1128
Bach=Tanaka/ Piano Arrangement of Chorale Fantasia BWV 1128
まだ10小節くらいまでしかできてませんが、何とかピアノでも弾けそうです。MIDIファイルmidiにもしてみました。まだこの曲の全体は手に入ってませんが、ぜひピアノで弾いてみたいです(オルガンないので・・・)。

カンタータ第182番より第1曲「ソナタ」

カンタータ 第182番 「天の王よ、汝を迎えまつらん」 BWV 182 より 第1曲「ソナタ」
‘Sonata’ from Cantata No.182 “Himmelskönig, sei willkommen” BWV 182

私が完成させた4曲目の編曲作品です。2007年の秋ごろに思い立って作り始め、少し時間に余裕ができた今年の3月に完成させました。前作のカンタータ第106番のソナティナに続き、この原曲もリコーダーが活躍するほのぼのとした曲で、器楽のみの編成の楽曲です。このゆったりとした付点リズムには、イエスがロバに乗ってエルサレムに入城する歩みという情景描写があるようです。
さて、下の楽譜は私の編曲の冒頭部分です。バスのピッチカートは、ほとんどが10度のアルペッジョとして編曲しました。そこそこ手を大きく広げられる人でないと演奏難易度が増すかもしれません。また付点リズムの歩みは主に右手で演奏しますが、その中に聞こえてくる和声を少し付け足しています。ヴァイオリンとリコーダーの二つの旋律が絡み合う部分は、中音部を左右の手で分担します。アルペッジョの最高音が中音部のメロディーの一部を形成するので、メロディーラインを意識しやすいと思います。
Bach=Tanaka/ Sonata from Cantata No.182 BWV 182
(Bach=Tanaka/ Sonata from Cantata No.182 BWV 182)
以下は曲の後半~結尾部です。今回もピアノの高音部を使いました。私はリコーダーの高い音を聞くとピアノの高音部オクターブを連想するのです。結尾部は音こそ多いものの、フォルテにはせずに静かに、豊かな響きをイメージしました。
Bach=Tanaka/ Sonata from Cantata No.182 BWV 182

—-2016年6月30日追記—-
楽譜をSheet Music Plusで運営しているArrangeMeで、PDFで販売してもらうことになりました。(上記楽譜に若干の手直しを加えています)
‘Sonata’ from Cantata No.182 “Himmelskönig, sei willkommen” BWV 182

カンタータ 第106番 より 第1曲「ソナティナ」

カンタータ 第106番 「神の時こそいと良き時」 BWV 106 より 第1曲「ソナティナ」
‘Sonatina’ from Cantata No.106 “Gottes Zeit ist die allerbeste Zeit” BWV 106

私がピアノソロに編曲した3作目です。この編曲も去年何度か人前で演奏させてもらいました。
このカンタータはバッハの最初期のカンタータの一つで、原曲はヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音の歩みの上で、2本のリコーダーが同じ音形を一致させたりずらしたりしながら静かに奏でられます。メロディーが美しいというよりもリコーダー二重奏の響きが朴訥とした雰囲気を作り出しており、心が洗われる名曲です。
編曲にあたって、ピアノ特有の響きと広い音域を活かしながら、リコーダーデュオの対話がピアノで単調になってしまわないように気をつけました。そして通奏低音部も響きを豊かにする工夫として、2拍目または4拍目をオクターブ下にしました。下の楽譜は冒頭部分です。

そして曲が進むにつれ、少しずつ使う音域を広げていきました。リコーダーの二重奏は、音だけを拾うと全く同じ動きになってしまいますが、奏者ごとにずらして吹いているところの自然の変化を表現するために、オクターブ上や下の音を織り交ぜて変化をつけてみました。

バッハのカンタータは本当に音楽の宝庫だと思います。このカンタータは、実は伯父の葬儀のためにかかれた曲とされており、第1曲は幸せな浄土への旅立ちを描いているようです。このことに限らず、バッハのカンタータには宗教的な理解が必要とされていますが、残念なことに私にはまだその点の教養・感覚を持っておりません。将来的にキリスト教を知ってからバッハのカンタータに立ち戻る機会があれば、きっとまた違った魅力を感じられるのかもしれません。今のところは、絶対音楽として主観的に良いと思った曲を気軽に楽しみたいと思っています。

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