ここ三ヶ月くらい楽譜出版のお手伝いをしていたことでなかなか更新ができず、二ヶ月ぶりになってしまいました。今回は、今週末の演奏会で演奏する予定の、二台ピアノ編のパッサカリアを紹介したいと思います。
J. S. Bach = G. Tagliapietra
Passacaglia in C minor BWV 582 (free transcription for two pianos)
バッハ=ターリアピエトラ パッサカリア ハ短調 BWV 582 (二台ピアノの為の自由な編曲)
バッハはパッサカリアと題した曲を1曲だけ残しました。原曲はオルガン曲で、8小節の低音主題をもとに20の変奏を繰り広げ、その後124小節に及ぶフーガが続きます。そのため、「パッサカリアとフーガ」という曲名もよく使われます。
さて編曲者ターリアピエトラ(Gino Tagliapietra, 1887-1955) は、イタリア生まれの作曲家兼ピアニストであり、ブゾーニの弟子でした。バッハのピアノソロ用編曲もいくつか残しています。この編曲の楽譜は、昨年国立音大の図書館で見つけることができました。ピアノソロのための編曲は他にも多く残されていますが、ブゾーニは残念ながらパッサカリア全曲の編曲を残しませんでした。ターリアピエトラのこの編曲はブゾーニの編曲技法をよく継承しており、音域を拡大しながら音の厚みを増やし、原曲の持つ壮大な響きを果敢にピアノ二台で再現した、充実した音楽になっています。
二台ピアノのために編曲されたパッサカリアは、他にはフィリップ編、ケラー編があります。三者三様ですが、ピアノの広い音域を活用し二人の奏者にうまく割り振っている点など、ターリアピエトラ編が最も優れた編曲ではないかと私は思っています。
残念ながら、この編曲の演奏録音は残されていないと思われます。
プロの演奏家にももっと取り上げて欲しい作品です。
(2016/10/31追記)
CD/DVDでリリースされました。
記事:ブゾーニ関連の2台ピアノ作品CD/DVD参照
hyperionバッハ編曲集 第8弾
hyperionのバッハピアノ編曲集、去年リリースされた第7弾に続き、第8弾はダルベール(Eugen d’Albert, 1864–1932)で2010年2月20日に発売とのこと。非常に楽しみです。
hyperionのページのリンクはこちらで、試聴することもできます。
Bach J S: Piano Transcriptions, Vol. 8 – Eugen d’Albert
ダルベールの編曲は、パッサカリアが最も有名で、楽譜も容易に入手できますし数多くのピアニストによる録音がありますが、それ以外の曲となると長い間ほとんど情報が無い状態でした。私が注目したいのは、トッカータとフーガ ヘ長調 BWV540です。この曲のピアノ版について、以前の記事で紹介しましたが、ピアノの音色で弾くことでオルガンとは別の魅力が聴ける名曲だと思っています。それ以外の曲目も、ピアノ編曲として聴ける機会が少ないものが大半で、新たな魅力の発見があるかもしれません。
収録曲は以下の通りです。
Passacaglia in C minor, BWV582
Fantasia and Fugue in C minor, BWV537
Prelude and Fugue in G major, BWV541
Toccata and Fugue in F major, BWV540
Prelude and Fugue in A major, BWV536
Prelude and Fugue in F minor, BWV534
Toccata and Fugue in D minor ‘Dorian’, BWV538
Prelude and Fugue in D major, BWV532
(2010/2/1追記)
HMVでも販売が開始されました。
Twitterはじめてみました
iPhoneを買ってから、世の中で流行っているtwitterを始めてみました。
私のアカウントはtanahiro105です。
http://twitter.com/tanahiro105
まだその魅力、効果、などなどについてあまりよくわかっていないのですが、このblogに書くほどではないような、以下のような日々の思いつきや行動について、つぶやいてみようと思います。
・通勤途中などで聴いていていいなと思った曲
・日々のピアノの練習で気になったこと
・購入したCDや楽譜などのファーストインプレッション
・今日弾いてみた曲
・などなど
気軽にフォロー/メッセージしてもらえればと思います。
カバレフスキー編曲のバッハ・オルガン曲
作曲家として有名なカバレフスキー(Dimtri Kabalevsky,1904~1987)は、バッハのピアノ編曲という分野でも、少ないながらも充実した作品を残しています(作品リスト)。
先月、そのカバレフスキー編曲のバッハを収録したCD(もちろんメインはカバレフスキーのオリジナル曲ですが)がリリースされましたので紹介したいと思います。ピアニストは有森博で、以前もCD紹介しましたが、愛好家にはたまらない、比較的珍しい曲目を録音してくれています。
カバレフスキー編曲のバッハの録音としては、この他に以前紹介したExquisite Rarities Of Piano Music、Bach Piano Transcriptions – 5などが挙げられますが、8つの小前奏曲とフーガ より 第1番 ハ長調 BWV 553は録音としては初でしょう。BWV553-560の8つの小前奏曲とフーガ集は、バッハのオリジナルではないことが定説ですが、全曲録音して欲しかったものです。
このCDの収録曲は以下の通り。
・バッハ=カバレフスキー/8つの小前奏曲とフーガ 第1番 ハ長調 BWV 553
・バッハ=カバレフスキー/トッカータとフーガ ニ短調 (ドリア調) BWV 538
・カバレフスキー/4つの前奏曲 Op.5
・カバレフスキー/ロンド イ短調 Op.59
・カバレフスキー/日本民謡による変奏曲 Op.87より
・カバレフスキー/こどものためのピアノ小曲集 Op.27
—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-
2台ピアノ版ゴルトベルク変奏曲
EMIから、面白い録音がリリースされました。
ゴルトベルク変奏曲を、ラインベルガー(Josef Reinberger, 1839-1901)が2台ピアノに編曲し、その後レーガー(Max Reger, 1873-1916)が改訂、さらに今回の演奏にあたって近年の演奏解釈とした演奏です。演奏者はY. TalとA. Groethuysen。このジャケットのリンクはHMVのもので、視聴もできるようなので是非聴いてみて下さい。以前ブゾーニ版のゴルトベルク変奏曲についての記事を書きましたが、それよりもさらに過激な編曲に聞こえることでしょう。
ゴルトベルク変奏曲の原曲は、2段鍵盤を持つチェンバロのために書かれており、ピアノを含め、1段の鍵盤では難しい部分もありますが、この2台ピアノ編ではそういう部分で音楽の交差を上手く表現しています。また、片方がオリジナルのまま演奏し、もう片方が新しい音楽を演奏するという箇所もあり、この変奏はどういう変貌を遂げるのか、という期待を抱かせる音楽展開でもあります。
楽譜は、ラインベルガー編も、そのレーガー改訂版も、共にIMSLPでも掲載されていますので、見比べてみるのも面白いかも知れません。音楽の追加はラインベルガー編にてほぼ全て行われており、レーガーの改訂は細かい表現の指定、強弱、テンポ、アーティキュレーションなどがほとんどだと思われます。レーガーの改訂版は出版譜を持っていますが、見ながらこのCDを聴いてみたところ、大分解釈を変えて演奏しているようで、そこがこのCDの魅力かも知れません。
バッハオリジナルへの冒涜などと思わずに、音楽表現の豊かさの一端を感じてみてはいかがでしょうか。なお、Amazonであれば以下のリンクで買えます。
—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-
The BachPhone
ちょうど一年くらい前、the BachPodという記事を書きました。これはiPod Classic 120GB(現バージョンは160GB)にバッハの全曲が入っているという商品で、これに私の音源コレクションを追加して常に持ち歩いていました。
それが、今年の7月には巷で人気の iPhone 3GS を購入してしまいました。容量は32GBと、iPod Classicの120GBにはおよびませんが、もともとBachPodに入っていた全集分や主要なコレクションは格納できます。ということで、iPod機能はiPhoneに一本化することにしました。
さらにパワーアップしたのは、私が持っている楽譜コレクションのうち、PDFファイルになっているものをiPhoneに入れたことです。もちろんバッハの主要な作品(旧バッハ全集)はすべてあります。これらをGood Readerというアプリを使って閲覧します(サイズが大きいPDFでもストレス無くスムーズに見れます)。下の画面は、今日帰りの通勤電車の中で楽譜を見ながらシャコンヌを聴いているときのiPhoneの画面です。
もちろん全画面表示にすればもっと広くきれいに見れます。音楽を聴きながらでなければ、譜読みもできると思います。今度から、このホームページで紹介する譜例はこのiPhoneの画面キャプチャを使った方が早いかも知れません。
これでいつでもどこでも、バッハの楽譜を見ながらバッハの音楽を聴くということができるようになりました。かくして、私のiPhoneは「BachPhone」となったわけです。(電話としては使ってません)
Schanz: Bach in der Klaviertranskription
もう一年くらい前の話ですが、アルトゥール・シャンツ博士(Dr. Arthur Schanz)が書いた「J. S. Bach in der Klaviertranskription」という本を購入しました。私にとって大変面白く、意義深い本だったので紹介したいと思います。
タイトルの通り、バッハのピアノ編曲についての本で、ドイツ語ですが、700ページにわたってジャンル別に解説・比較考察が述べられています。2000年のバッハ・イヤーに出版されたようです。BWV番号別の一覧、編曲者別の索引、譜例を交えた解説、などなど、まさに私がこのホームページでこつこつと編曲の紹介を書き溜めてきて、最終的に目指していたひとつの完成形がそこにありました。またその網羅度も相当高く、私がコレクションで持っているものはもちろん、存在は知っていたものの見たことが無かったような稀少なものも譜例付きで紹介されていました。ピアノソロ編曲、4手連弾、2台ピアノ、なども網羅。録音については述べられていませんでした。
私から見て唯一の難点は、全てドイツ語で書かれていること。そこでドイツ語が得意な音楽仲間のY氏の協力を得て、少しずつその内容を読み進めてきました。内容がわかってくると、同じ意見だったり若干違った意見だったりが見えて、ますます面白いです。協力ありがとうございます!
私の研究(収集)結果も、次のバッハ・イヤー(2035年か?!)までくらいの長いスパンの目標で、それが本になるのか、WikipediaやIMSLPの一部になるのか、どうかはまだまだわかりませんが、できれば日本語と英語の両方で世に残したいと思っています。
バッハを弾くラローチャ
久しぶりの更新になってしまいました。スペインの長老ピアニスト、アリシア・デ・ラローチャがつい先日、2009年9月25日に亡くなったという訃報にふれました。ラローチャといえば、アルベニスやグラナドス、ファリャ、モンポウなどのスペイン音楽の名手ですが、バッハについても僅かですが素晴らしい録音を残してくれていますので、紹介したいと思います。
私が持っているCDには、以下の曲目が収録されています。オリジナル曲も編曲も、バッハを得意とするピアニストに引けを取らず、とても良い演奏です。
バッハ/イタリア協奏曲ヘ長調 BWV 971
バッハ/フランス組曲第6番ホ長調 BWV 817
バッハ/幻想曲ハ短調 BWV 906
バッハ/イギリス組曲第2番イ短調 BWV 807
バッハ=コーエン/最愛のイエス,われらここにあり BWV 731
バッハ=コーエン/汝の慈愛によりてわれらを死なしめたまえBWV 22
バッハ=ブゾーニ/シャコンヌ BWV 1004
と思ってアマゾンやHMVを検索したところ、現在は若干入手困難になっているようです。以下のアマゾンのリンクは、バッハの録音が収録されている別のCDです。
これ以外にもバッハの録音は残されているのでしょうか?ご存知の方、教えてください。
—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-
<2009/12/06追記>
やはり、追悼盤 SHM-CD仕様として再発売されるようです。
カツァリス、サイの編曲譜到着
Schott社から新たに出版された二つの楽譜が届きました。シプリアン・カツァリス編曲のバディヌリーと、ファジル・サイ編曲の幻想曲とフーガ ト短調 BWV542です。
カツァリスのバディヌリーは以前CD紹介したもので、リストの「超絶技巧」トランスクリプションの世界を彷彿させるアクロバティックな編曲です。
(Bach=Katsaris/ Badinerie)
サイ編曲の幻想曲とフーガ ト短調 BWV542は、昨年の冬に演奏会で聴いた曲です。この楽譜には、強弱・緩急・細かい表現まで指定されています。
(Bach=Say/ Fantasy and fugue g-moll BWV 542)
Schott社なので日本でも買えるようになると思いますが、di-arezzoとSheetMusicPlusでのリンクを書いておきます。
カツァリス編曲 バディヌリー
→http://www.di-arezzo.jp/detail_notice.php?no_article=SCHOM03562
Badinerie (Piano Solo). By Johann Sebastian Bach (1685-1750). Arranged by Cyprien Katsaris. Piano. Softcover. 12 pages. Schott Music #ED20615. Published by Schott Music (HL.49017736) …more info |
サイ編曲 幻想曲とフーガ ト短調 BWV542
→http://www.di-arezzo.jp/detail_notice.php?no_article=SCHOM00720
Fantasie and Fugue in G minor, BWV 542 (The Virtuoso Piano Transcription Series, Vol. 15). By Johann Sebastian Bach (1685-1750). Arranged by Fazil Say. Piano. Softcover. 20 pages. Schott Music #ED20635. Published by Schott Music (HL.49017786) …more info |
—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-
Groschopp plays Busoni Transcriptions
先月、ブゾーニのピアノ編曲を集めた4枚組みのCD、「Groschopp plays Busoni Transcriptions」を入手しました。ピアニストはホルガー・グロショップ(Holger Groschopp)。過去に同レーベルからブゾーニ編曲集として1枚ずつリリースしてきたもので、最近になってVol.4まで揃ったためBOX化されたようです。
バッハをはじめモーツアルトやベートーヴェン、リスト等のブゾーニ編が収録されていますが、バッハの編曲モノの中でも有名曲に埋もれた、非常に珍しい曲目(おそらく世界初録音)がありましたのでここで紹介します。
以前blogで取り上げたブゾーニ版バッハ集のCDで書いたように、ブゾーニ版のバッハ平均律集は、バッハの音楽を学ぶための様々な練習用の変奏が掲載されていますが、このCDにはテクニック強化に特化した二つの変奏(練習曲)が収録されていました。まずは平均律第1巻、嬰ハ長調の前奏曲を元にした練習曲。
(Bach=Busoni/ Etude [Technical Variants of Prelude No.3])
もう一つは、平均律第1巻、変ロ長調の前奏曲を元にした練習曲です。
(Bach=Busoni/ Etude [Technical Variants of Prelude No.21])
その他でも、対位法的幻想曲や聖アンの前奏曲とフーガでは現在流通しているバージョンとは違った、初稿譜をもとに演奏しているとのことで、興味深い内容です。
以上付録的な要素ばかりを紹介してきましたが、ブゾーニのピアノ編曲を総括的に網羅しているこのBOXは、ピアノ音楽愛好家にとって聴く価値のあるものだと思います。