バッハの片手用編曲シリーズ第5弾は、イギリス組曲 第6番 ニ短調 BWV811から、サラバンドとドゥーブルを右手だけで弾けるように編曲しました。この編曲は、かつて左手のためのサラバンドを作った時に、同じアイデアで片手編曲ができるのではないかと着想し、大まかにはできあがっていたものを今回あらためて手直ししたものです。
曲の前半・後半とで、サラバンドと、音価を細かくしたドゥーブルとを交互に演奏するように編曲しています。
片手のためのプレリュード(BWV998より)
バッハの片手用編曲シリーズ第4弾は、前奏曲、フーガとアレグロ 変ホ長調 BWV998から、前奏曲を片手だけで弾けるように編曲しました。この編曲は、右手だけ、または左手だけのどちらでも演奏可能にしています。
左手のためのアリオーソ(BWV1056より)
バッハの片手用編曲シリーズ第3弾は、協奏曲 ヘ短調 BWV1056の第2楽章、アリオーソ(ラルゴ)を左手ソロ用に編曲しました。この曲は甘美なメロディーが魅力的で、ピアノソロ用編曲としてもたくさんの編曲が残されています。左手用編曲にあたり、メロディーラインは1オクターブ下でアルト音域にしました。原曲では、終結部は第3楽章に続くための短調のコーダがありますが、ここはコルトー編曲と同様に省略し変イ長調のまま曲を結んでいます。
右手のためのラルゴ(BWV1005より)
バッハの片手用編曲シリーズ第2弾は、無伴奏ヴァイオリンソナタ 第3番 ハ長調 BWV1005の3楽章を、右手だけのために編曲しました。原曲そのままでも右手だけで弾けますが、そこから複数の声部を抜き出し、ピアノならではの良さを少しでも出すためにバス声部は1オクターブ下で弾くようにしています。大きめの終止では、少し音を厚く豊かにしています。
Bach for One Hand
10月20日に長男が生まれ、生活リズムはがらりと変わり全てが赤ちゃん中心になっています。そんな中で、父親である私の趣味(ピアノ、バッハの音楽)を何とか育児の中に取り込めないかと、片手でだっこしながらもう片方の手でピアノを弾いて聴かせてあげるという、新しいピアノの楽しみ方を探るようになりました。
以前編曲した左手のためのサラバンドを含め、色々な曲を自分で片手用の編曲を試みています。育児のため週末に外出できないことが多いため、自宅でできる編曲の創作意欲は高まり、毎週編曲を増やしてきています。楽譜や音源を交え、少しずつ紹介していきたいと思います。
<Bach for One Hand 編曲作品リスト(2014/12時点)>
- 左手のためのサラバンド(パルティータ 第1番 BWV 825 より) (2009.1)
- 右手のためのラルゴ(無伴奏ヴァイオリンソナタ 第3番 BWV1005 より)(2011.11.20)
- 左手のためのアリオーソ(クラヴィーア協奏曲 ヘ短調 BWV1056 より)(2011.11.27)
- 片手のためのプレリュード(前奏曲、フーガとアレグロ 変ホ長調 BWV998 より)(2011.12.3)
- 右手のためのサラバンド(イギリス組曲第6番 BWV811 より)(2011.12.10)
- 左手のためのアダージョ(マルチェッロによる協奏曲 ニ短調 BWV974 より)(2011.12.18)
- 右手のためのクリスマス・コラール(クリスマス・オラトリオ BWV248 より)(2011.12.24)
- 左手のためのシンフォニア(シンフォニア第5番BWV791)(2012.1.2)
- 左手のためのプレリュード ロ短調(BWV855a, Siloti編に基づく)(2012.1.8)
- 右手のためのアリオーソ(BWV 992 より)(2012.1.16)
- 左手のためのカンツォーナ(BWV 588 より)(2012.1.22)
- 右手のためのサラバンド(イギリス組曲第4番 BWV809 より)(2012.1.29)
- 左手のためのコラール「我汝を呼ぶ、主イエス・キリストよ」(BWV639)(2012.2.4)
- 左手のためのアンダンテ(パストラーレ BWV590 より第3楽章)(2012.7.16)
- 左手のためのトッカータとフーガ ニ短調(BWV565)(2012.12.9)
- 右手のためのシチリアーノ(フルート・ソナタBWV1031より)(2013.6.23)
- 左手のためのオルガン前奏曲(BWV535より)(2013.8.4)
- 左手のための前奏曲 変ロ長調(BWV866より)(2014.3.30)
- 左手のためのパッサカリア(BWV 582より)(2014.12.30)
hyperionバッハ編曲集 第10弾
hyperionのバッハピアノ編曲集、順調に巻数を重ねてきています。今回はサンサーンス(Camille Saint-Saëns, 1835-1921)によるバッハ編曲全集(全12曲)がメイン。さらに、サンサーンスの弟子であるイシドール・フィリップ(Isidor Philipp, 1863-1958)による編曲も2曲収録されています。
サンサーンスの編曲は、無伴奏ヴァイオリン曲およびカンタータからの抜粋編曲になっています。どの曲も、ごく自然な美しいピアノ曲に仕上がっています。今まで数曲はCDに収録されていることがありましたが、全曲が揃うのは初めてです。ちなみにブゾーニは、弟子のペトリにサンサーンス編曲のバッハを「lovely transcriptions」と評し、弾くようによく薦めたそうです。
フィリップは、フランスのピアニスト・教師であり、バッハのピアノ編曲(ピアノソロ用編曲や2台ピアノ用編曲)も数多く手がけています。日本の楽譜店では「小フーガ ト短調」の楽譜(Durand)が比較的容易に手に入れることができます。このCDには比較的大曲である協奏曲、ヴィヴァルディの『調和の霊感』からバッハがオルガンソロに編曲したものを、さらにフィリップがピアノソロに編曲したものが収録されています。
収録曲は以下の通り。
<バッハ=サンサーンス>
・カンタータ 第29番 より「序曲」
・カンタータ 第3番 より「アダージョ」
・カンタータ 第8番 より「アンダンティーノ」
・無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第1番 ロ短調 BWV 1002 より「ブーレ」
・無伴奏ヴァイオリンソナタ 第2番 イ短調 BWV 1003 より「アンダンテ」
・カンタータ 第35番 より「プレスト」
・カンタータ 第15番 より「序奏とアリア」
・無伴奏ヴァイオリンソナタ 第3番ハ長調 BWV 1005 より「フーガ」
・無伴奏ヴァイオリンソナタ 第3番ハ長調 BWV 1005 より「ラルゴ」
・カンタータ 第30番 より「レシタティーフとエア」
・無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第3番 ホ長調 BWV 1006 より「ガヴォット」
・カンタータ 第36番 より「アリア」
<バッハ=フィリップ>
・協奏曲 イ短調 (ヴィヴァルディによる) BWV 593
・協奏曲 ニ短調 (ヴィヴァルディによる) BWV 596
hyperionのページのリンクはこちらで、試聴することもできます。
Piano Transcriptions, Vol. 10 – Saint-Saëns & Philipp
The complete Bach transcriptions by Camille Saint-Saëns
Nadejda Vlaeva (piano)
HMVはこちら。
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レイハ(ライヒャ)『ピアノのための36のフーガ』の出版
前回の更新から3ヶ月以上が経ってしまいました。今年の春から、再び楽譜出版のお手伝いをさせていただきました。アントニーン・レイハ(Antonín Rejcha, 1770-1836, ドイツ名:アントン・ライヒャ)の曲集、『ピアノのための36のフーガ 作品36』で、楽譜の校訂と、解説の執筆を担当させていただきました。何しろ情報が少なく苦労しましたが、大変勉強になりました。解説は、作曲者の紹介、曲集の特徴、フーガ主題の譜例付きの各曲解説などを合わせて10ページほど書きました。
私がこの曲集に着目したのは、中に「バッハの主題によるフーガ」という曲が含まれていたためであり、以前このページでも最古のバッハ・パラフレーズとして紹介しました。それ以外にも、詳しく見ていくと大変興味深い内容満載の曲集でした。ベートーヴェンと同年生まれ、曲集はハイドンに献呈、1805年に出版という年代からみても、非常に先進的な曲集です。フーガ答唱の自由な応答(5度・4度以外も多用)、突発的な転調。跳躍の多い主題旋律。半音階を多用し曖昧な調性感。混合拍子・複合拍子のフーガ。有名な作曲家の主題の借用。このように伝統的なフーガ手法のルールを大きく拡大解釈した独特の理論を様々な形で実践しています。
決して一般に広く求められる曲集ではありませんが、演奏者にとっての珍しいレパートリーとしてだけでなく、作曲学習者の実践的手引きの一つとしても有用かと思います(学習フーガとしては禁じ手ばかりなので模範にはなりませんが)。
いくつかの曲を弾けるようにして紹介していきたいと思っています。
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ナウモフ編曲のバッハ楽譜
ピアニスト、エミール・ナウモフ(Emile Naoumoff, 1962-)編曲のバッハ、3曲がSchott社から出版されました。昨年末に出版され、ようやくSheet Music PlusやAmazonでも入手できるようになったので、紹介したいと思います。ナウモフ編曲のバッハ「Jean-Sebastien Bach – Transcriptions Pour Piano」は昔CDでも出ていましたが、現在AmazonではMP3で試聴・購入できるようです。どの曲もしっとり歌い上げる、大変美しい曲ばかりです。ぜひピアノで弾いてみて下さい。
収録曲は以下の3曲。
(1) 「おお人よ、汝の大いなる罪に泣け」
’O Mensch bewein dein Sünde groß’
→Amazonでの試聴
(2) マタイ受難曲 より アリア「愛よりしてわが救い主は死にたまわんとす」
’Aus Liebe will mein Heiland sterben’
→Amazonでの試聴
(3) ヨハネ受難曲 より アリオーソ「見つめよ、わが魂よ」
’Betrachte, meine Seel’, mit ängstlichem Vergnügen’
→Amazonでの試聴
■楽譜はこちらで購入できます。(Sheet Music Plus)
look inside | O Mensch Bewein dein Sunde Gross – Aus Liebe will mein Heiland sterben – Betrachte, mein Seel Three Transcriptions for Piano. Composed by Johann Sebastian Bach (1685-1750). Arranged by Emile Naoumoff. This edition: Saddle stitching. Sheet music. Piano. Classical. Softcover. 16 pages. Duration 12′. Schott Music #ED20747. Published by Schott Music (HL.49018319). |
—-(関連音源、楽譜)Amazonでの入手方法—-
Angela Hewitt’s Bach Book for Piano
昨年末に出版された、興味深い楽譜集の紹介です。
現代の著名なバッハ弾きの一人、アンジェラ・ヒューイット(Angela Hewitt, 1958-)が編纂したピアノ曲集、「Angela Hewitt’s Bach Book for Piano」で、Boosey & Hawkesから出版されました。曲目は、現代の作曲家たちによるバッハの主題(またはB-A-C-Hの主題)を元にした曲が6曲、ヒューイット及び過去の作曲家によるバッハのピアノ編曲が5曲収録されています。
序文にも書いてあるとおり、これは1932年にOxford University Pressから出版された「A Bach Book for Harriet Cohen」(音源は以前紹介した記事参照)を意識していて、その現代版と言えます。コーエン本の方はイギリスの音楽家による、バッハのピアノ編曲が収録されていましたが、ヒューイット本の方はより国際色豊かで、各国の音楽家の委嘱作品を収録しています。
5曲のバッハのピアノ編曲は、2001年にヒューイットがリリースしたアルバム「Bach Arrangements」に収録されています。オルガン小曲集の中から、ヒューイット自身が編曲した3曲も含まれています。
<収録曲>
Dean/ Prélude and Chorale
Bach=Walton/ Herzlich tut mich verlangen, BWV 727
Schwertsik/ Fantaisa & Fuga, op. 105
Holloway/ Partitina: on the opening notes of J.S. Bach’s `Goldberg` bass
Bach=Howells/ O Mensch, bewein dein Sünde gross, BWV 622
Wyner/ Fantasia on BACH
Bach=Hewitt/ Wenn wir in höchsten Nöten sein, BWV 641
Bach=Hewitt/ Das alte Jahr vergangen ist, BWV 614
Muldowney/ Fantasia on BACH
Kats-Chernin/ Bach Study
Bach=Hewitt/ Alle Menschen müssen sterben, BWV 643
■楽譜はこちらで購入できます。(Sheet Music Plus)
look inside | Angela Hewitt’s Bach Book for Piano Composed by Johann Sebastian Bach (1685-1750). BH Piano. Classical, Collection. Softcover. 68 pages. Boosey & Hawkes #M060122583. Published by Boosey & Hawkes (HL.48021015). |
—-(関連音源)Amazonでの入手方法—-
フーガの技法のピアノ演奏CD
昨年末から、フーガの技法 BWV 1080の勉強を始め、まずはコントラプンクトゥス4の練習に取りかかりました。フーガの技法は謎の多い作品で、そのほとんどがピアノソロでも演奏できますが、解釈も演奏家により多種多様。手元にあるピアノ演奏でのCDについて紹介したいと思います。ピアノでフーガの技法を全曲演奏している録音は意外とたくさん出ていますので、HMVやAmazonへのリンクをまとめます。
アンドラーシュ・シフや、アンジェラ・ヒューイットなどにもぜひ挑戦してもらいたいものです。
タチアナ・ニコラーエワ (Tatiana Nikolayeva) [HMV/Amazon]
フーガの技法のピアノ演奏で、ニコラーエワをはずすことはできないでしょう。おそらく最も早い時期(1967年)にピアノで全曲録音を果たしたピアニストです。ただし1967年に録音され70年代に発売されたレコードはCD化されておらず、その四半世紀後1992年に録音されたhyperion盤が現在入手できる録音です。1967年の録音に比べて全体的にテンポが遅めです。どの声部を聴いてもしっとりと歌われており、素晴らしい演奏です。私がフーガの技法を初めて知ったのもニコラーエワの演奏でした。ピアノソロのみ収録、CD2枚組。
エフゲニー・コロリオフ (Evgeni Koroliov) [HMV/Amazon]
1990年の録音、コロリオフのCDデビュー盤がこのCDとのこと。リゲティが無人島の一枚にコロリオフのバッハを選んだというエピソードはあまりにも有名。他の録音と比較してもテンポは全体的に相当速い方で、硬質な音で難解なフーガを明快かつ冷静に描いています。2台ピアノ版も収録、CD2枚組。
コンスタンチン・リフシッツ (Konstantin Lifschitz) [HMV/Amazon]
2009年の録音。他の録音と比較すると、どの曲も速すぎず遅すぎず、といったところでしょうか。2台ピアノ版も収録(多重録音)、さらに出版譜最後に付けられたコラール「我は汝の御座の前に進む BWV 668a」のピアノ演奏も収録されています。CD2枚組。
ニコラーエワ | コロリオフ | リフシッツ |
グレゴリー・ソコロフ (Grigory Sokolov) [Amazon]
1982年の録音。全体的にテンポは速め。CD2枚組、パルティータ第2番を併録。
チャールズ・ローゼン (Charles Rosen) [Amazon]
1967年~1969年の録音。ニコラーエワの旧録に並んで古い録音。紹介するCDは2枚組ですが、1枚目はテューレックの弾くバッハ作品集、2枚目がローゼンが弾くフーガの技法です。ピアノソロのみCD1枚に収録。
アリス・アデール (Alice Ader) [HMV/Amazon]
2007年の録音。とてつもなく遅い解釈と、速めの解釈とが入り交じり、他の録音と比較すると同じ曲とは思えないものもあります。ライブ録音、CD2枚組。
ソコロフ | ローゼン | アデール |
ピエール=ローラン・エマール (Pierre-Laurent Aimard) [HMV/Amazon]
2007年の録音。全体的にテンポは速め。ピアノソロのみCD1枚に収録。
ラミン・バーラミ (Ramin Bahrami) [HMV/Amazon]
2006年の録音。全体的にテンポは速め。ピアノソロのみCD1枚に収録。
ウラジールミル・フェルツマン (Vladimir Feltsman) [Amazon]
1996年の録音。全体的にテンポは速め。2台ピアノ版も収録、CD2枚組。
エマール | バーラミ | フェルツマン |
高橋悠治 (Yuji Takahashi) [HMV/Amazon]
1740年頃に成立したと言われる初期稿(自筆譜)を元に演奏しています。CD1枚に収録。
イーヴォ・イエンゼン (Ivo Janssen) [Amazon]
2006年の録音。イエンゼンはバッハのメジャー曲からマイナー曲まで、全部ピアノで録音しようとしている意欲的なピアニスト。クセのないというか、素直に聴ける解釈には好感が持てます。ピアノソロのみCD1枚に収録。
アントン・バタゴフ (Anton Batagov) [HMV]
1993年の録音。全体を通して驚異的な遅さで、さらにフレーズが途切れるようで途切れないような、怖ろしい演奏です。残念ながら廃盤で、Amazonで見つけることはできませんでした。
高橋悠治 | イエンゼン | バタゴフ |
ゾルタン・コチシュ (Zoltan Kocsis) [Amazon]
2011年1月19日時点で未聴。
ピオトル・スウォペツキ (Piotr Slopecki) [Amazon]
2011年1月19日時点で未聴。
アンドレ・ヴィエル (Andre Vieru) [Amazon]
2011年1月19日時点で未聴。
コチシュ | スウォペツキ | ヴィエル |
<番外編>
グレン・グールド (Glenn Gould) [Amazon]
なお、かのバッハ弾き、グールドは、フーガの技法をよく演奏しましたが、全曲をピアノでは録音していません。オルガンでコントラプンクトゥス1~9(1962年の録音)、ピアノでコントラプンクトゥス1,2,4,14(1981年の録音)、9,11,13(1967年の録音)を録音しています。なおこのCDには、最後に「B-A-C-Hの主題による前奏曲とフーガ BWV898」が収録されています。偽作の疑いが濃い作品ですが、ピアノでの演奏が聴けるのは稀です。
グールド |