今回もCDの紹介です。私がバッハのピアノ編曲に興味を持つようになるきっかけのCDで、特別な存在です。本体のホームページでも既に紹介していますが、この素晴らしい録音についてはあらためてここで取り上げたいと思います(1曲ごとに紹介するので、何回かに分けて書いていきます)。「Transcendental Bach」、日本語で言うならば「超絶技巧バッハ」で、CDのタイトル通り、超絶技巧をもってして初めて達成し得るバッハのピアノ音楽がここにあります。演奏はThomas Labe。
収録曲はすべてバッハの無伴奏弦楽器曲のピアノ編曲ですが、聴く前にはまず原曲の無伴奏曲のイメージは頭から捨て去る必要があります。原曲の(精神的に素晴らしい曲だという)先入観があると「こんな曲のはずがない」 というマイナスイメージを抱いてしまう可能性があるためです。
CDを頭から聴いていきましょう。まずはゴドフスキー編曲の無伴奏チェロ組曲 第5番より 前奏曲とフーガです。楽譜を見ると、原曲の持続音の部分はほとんど対旋律で埋め尽くされ、執拗なまでのオクターブの低音の連続がありますが、演奏は決して重くなりすぎず、 原曲の持つ魅力とは全く別の新たな命が吹き込まれています。特にフーガでは、新たに追加された対旋律によって響きが艶やかに彩られ、大変魅力的な曲となっています。
(Bach=Godowsky/Prelude and Fugue from Suite No.5 for violincello solo BWV 1011)
本来の組曲ではこの前奏曲のあとに舞曲が続きますが、前奏曲があまりに荘厳に編曲されているがゆえに、続く舞曲が(原曲は良い曲であっても)おとなしく尻つぼみと感じてしまいます。このCDでは前奏曲(とフーガ)だけが収録されていますが、そのバランスを考えてのことかもしれません。(単純に演奏時間の問題かもしれませんが)
次にラフマニノフ編曲の無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第3番より 前奏曲、ガヴォットとジーグ。荘重なゴドフスキー編の前曲とうって変わって、快速で軽妙な音楽が繰り広げられます。曲想そのものが爽やかですが、一般的なピアニストが採用するテンポよりもずいぶんと速い速度で一気に演奏されます。この曲でもまたゴドフスキー編と同じように、音の流れの中に見事に追加された対旋律は、 すべて冒頭の音型から紡ぎ出されています。
(Bach=Rachmaninoff/Prelude from Partita No.3 for violin solo BWV 1006)
その後、ゴドフスキー編曲に戻ります。無伴奏チェロ組曲 第3番も、基本は休符を音で埋め尽くした感じの編曲になります。
シロティによる同曲の編曲(「無伴奏チェロ組曲による子供のための練習曲」に含まれています)と見比べてみましょう。どちらも前奏曲の冒頭部分です。
(Bach=Siloti/Prelude from Four Etude after Cello Suites)
(Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.3 for violincello solo BWV 1009)
どうでしょうか?16分音符の本来の旋律をオクターブで厚く奏し、支えるバスと新たな旋律が合体され、全く新しい曲になっています。繰り返しますが、原曲を思い出さないで下さい。この曲を組曲を通して颯爽と演奏する様がこのCDに収録されているのです。
収録曲紹介の続きは、また後日書きます。
(to be continued…)
<収録曲>