Alexander Siloti (1863-1945)

シロティ(Alexander Siloti)に関する書籍、「 Lost in the Stars: The Forgotten Musical Career of Alexander Siloti 」が最近届きましたので紹介します。(日本では一般にカタカナで「シロティ」と表記されますが、発音は「ジロティ」の方が近いようです。ですが、このサイトでは「シロティ」と統一しています)
シロティはリスト、アントン・ルビンシュタイン、チャイコフスキーの弟子であり、ラフマニノフの師でもあります。バッハのピアノ編曲を多く残しており、Carl Fischer社から出版されているThe Alexander Siloti Collectionにも大多数の作品が収録されています。
この本には、シロティが残したバッハの編曲作品のうち14曲を収録したCDが付録で付いています。このCDでしか聞けない編曲(2007.8時点)もいくつかあり、かなりマニアックな音源の一つです。
シロティ編曲の録音で、より手に入れやすいCDとして「Bach Piano Transcriptions – 5 」があります。このCDには、シロティのほか、ゲディケカバレフスキーカトワールなどロシアの音楽家による編曲が収録されています。
追記:The Alexander Siloti CollectionのSheetMusicPlusのリンクはこちら。

The Alexander Siloti CollectionLook Inside The Alexander Siloti Collection (Editions, Transcriptions and Arrangements for Piano Solo). By Nikolai Rimsky Korsakov Franz Liszt. Edited by Alexander Siloti. Piano. For Piano Solo. Soft Cover. Standard notation. 288 pages. Published by Carl Fischer (CF.PL112)
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パルティータ 第6番 ホ短調(ブゾーニ版)

Partita No.6 e-moll, BWV 830 (Busoni-Ausgabe)
バッハの楽譜で、解釈版の中でも相当異色な存在であるブゾーニ版についてお話しましょう。チェンバロにないピアノ固有の機能を使って、音楽的になるように演奏するための指示が詳細に書き込まれています。ペダルや指使い、速度表示、強弱、フレージング・スラー以外にも、低音域のオクターブ化、和音や対旋律の追加までしている箇所もあり、編曲と捉える方もいます(このページでも編曲として扱います)。これは原典主義的には大いに問題がありますが、一方で後期ロマン派巨匠のバッハ解釈を知る上では重要な資料でもあります。なおパルティータ集のブゾーニ版は、ブゾーニの高弟であるエゴン・ペトリによって編纂されました。ですので、本ページの曲目データベース上は、ブゾーニ版ですが「ブゾーニ編」ではなく、「ペトリ編」として扱います。
以下の楽譜をご覧ください。どちらもパルティータ第6番の冒頭楽章・トッカータですが、上がオリジナルで、下がブゾーニ版(ペトリ編)です。ブゾーニ版(ペトリ編)はMaestosoが指定されています。低音がオクターブ化され重くなり、応答の和音にも音が追加され響きが艶やかになっています。オリジナルへの冒涜、やり過ぎ、等といった批判が起こるかも知れません。
しかしこれはピアノで音楽的になるように演奏するための一つの解釈なのです。常に重い和音というわけではなく、軽いテクスチャを維持した部分も多く残っています。
Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830
(Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830)
Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830
(Bach=Petri/ Toccata from Partita No.6 BWV 830 (Busoni-Ausgabe))
下の楽譜はフーガの中間部です。はじめの2小節は、バスの旋律に小さい音符が付け加えられ、オクターブによる演奏が指示されています。これは、低音の響きを厚くするだけでなく、この接近した2声部に分かれた「ため息」のフレーズを明瞭に弾き分けられるという効果もあります。その後、3小節目からはオリジナルと同じテクスチャに戻ります。
Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830
(Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830)
Bach/ Toccata from Partita No.6 BWV 830
(Bach=Petri/ Toccata from Partita No.6 BWV 830 (Busoni-Ausgabe))
 ここに紹介したのはほんの一例に過ぎませんが、全曲を通して、決して派手にすることが目的ではなく、ピアノを使った場合の工夫点が楽譜上に指示されているわけです。

<以上の記事は、パルティータ愛好会主催の演奏会で、私が出演者曲目紹介として書いたものを微修正し転用したものです。>

カンタータ 第29番 より 第1曲「シンフォニア」

今日紹介するのは、カンタータ第29番の序曲の編曲です。原曲はオルガンにトランペットやティンパニーが加わり、祝祭的な雰囲気いっぱいの曲ですが、さらにさかのぼると無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ ホ長調と同じ音楽になります。今回は出版譜として持っている以下4つの編曲を比較してみました。
まず最近手に入れたものとして、カートゥン(Leon Kartun)の編曲です。カートゥンについては何の情報も持っていません(カタカナ表記が妥当かどうかもわかりません)。
Bach=Kartun/ Ouverture from Cantata No.29 BWV 29
(Bach=Kartun/ Ouverture from Cantata No.29 BWV 29)
次に紹介するのは、サンサーンスによる編曲。Kartun編曲よりもオクターブを多用しているため、より派手になっています。楽譜が入手できる店は限られますが、CDはNAXOSから出ているため比較的容易に入手できます。(アマゾンではこちら→Piano Transcription
Bach=Saint-Saens/ Ouverture from Cantata No.29 BWV 29
(Bach=Saint-Saens/ Ouverture from Cantata No.29 BWV 29)
サンサーンス編よりさらに音が多いのが、ケンプ編です。こちらは日本では全音から出版されていますし、比較的手に入れやすい部類の楽譜です。
(たとえばAmazonではこちら→楽譜:バッハ=ケンプ ピアノのための10の編曲、CD:Bach Arrangements
Bach=Kempff/ Prelude(Sinfonia) from Cantata No.29 BWV 29
(Bach=Kempff/ Prelude(Sinfonia) from Cantata No.29 BWV 29)
4つ目に紹介するのは、リストやチャイコフスキーの弟子であり、ラフマニノフの師として有名なシロティの編曲。非常にわかりやすくシンプルな編曲です。
Bach=Siloti/ Prelude(Sinfonia) from Cantata No.29 BWV 29
(Bach=Siloti/ Prelude(Sinfonia) from Cantata No.29 BWV 29)
こうして4つ並べてみると、それぞれずいぶんとちがった手法で編曲しているのがよくわかります。優劣をつけるのではなく、楽しみ方が違うと私は思っています。
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トリオソナタ 第1番 変ホ長調 BWV 525

ポルトラツキー(Poltoratsky)なる人によるトリオソナタ 第1番 変ホ長調 BWV 525の編曲を入手しました。原曲は二つの旋律と通奏低音による室内楽的な音楽を、オルガンの手鍵盤・ペダルで演奏する曲で、とりわけ爽やかな曲です。
ポルトラツキーとは全く聞いたことが無かった名前ですが、ロシアの音楽家のようです。非常に良くできた編曲だと思います。
Bach=Poltoratsky/ Trio Sonata No.1 BWV 525
(Bach=Poltoratsky/ Trio Sonata No.1 BWV 525)
同曲の編曲としては、他にストラーダルによる編曲があります。この楽譜を見比べるとわかるかと思いますが、ストラーダル編の方が全体的にすっきりとしているのに対し、ポルトラツキーの編曲はやや厚めの響きになっています。左右の手への振り分け方は、ポルトラツキー編曲の方が弾きやすいと感じました。
Bach=Stradal/ Trio Sonata No.1 BWV 525
(Bach=Stradal/ Trio Sonata No.1 BWV 525)
残念ながら、これらの編曲の録音は存在しないと思われます。

ブログ形式での発信開始

管理人の多忙を理由に、しばらくの間更新が止まっていましたが、これからはblog形式で更新を再開していこうと思います。今後とも当サイトをよろしくお願いいたします。

サーント編曲の幻想曲とフーガ ト短調

テオドール・サーントの編曲による幻想曲とフーガ ト短調 BWV 542。 海外の音楽愛好家からいただきました。オルガンの原曲はバッハの全作品中でも最も有名な10曲に入るでしょう。 以前からずっと探していたもので、手にしたときには大変感動しました。 サーントはあのブゾーニの弟子の一人で、他にもパッサカリアの編曲がありますが、 その優れた編曲からト短調の幻想曲もきっと素晴らしい編曲なのだろうと期待していました。 1年半前くらいに、カツァリスのバッハ編曲集のCDこのサーント編曲 (さらにカツァリスが編曲)が入っているのを聴いて、ますます見てみたくなったのをよく覚えています。 以下の譜例は冒頭部分ですが、なんと分厚い編曲でしょう。途中では親指で同時に3つの音(黒鍵)を鳴らすなど、 常に大量の音が同時に鳴っているような編曲です。
Bach=Szanto/ Fantasia and Fugue in G minor BWV 542
一方で、この曲のピアノ編としてはかなり有名なリストの編曲があります。サーント編と比べてみましょう。 リスト編の後期改訂版の譜面は以下のようになっています。少なくとも幻想曲では、音の分厚さはないものの、 音色の多様さとしてはリスト編も負けていないと思います。特に左手のOssia、この対位句にはすばらしい効果があります。 前述のカツァリス編曲は、サーントの分厚い編曲にこのリストの対位句を伴わせたものでしょう。 その気持ち、よくわかります。
Bach=Liszt/ Fantasia and Fugue in G minor BWV 542
しかし幻想曲が終わってフーガに入ると、リスト編の霊感に満ちた編曲は失速します。 立体感に欠けるのっぺりとした音の扱い。フーガにも改訂を加えOssiaを付けて欲しかったものです。 それに比べサーント編はフーガでも強靱さを失いません。 高音域の活用、そして1音間隔でオクターブにして響きを増強した旋律。以下の譜例はまさにそのいい例です。
Bach=Szanto/ Fantasia and Fugue in G minor BWV 542
カツァリスの、サーントとリストの「いいとこ取り編曲」は、ある意味必然的な解答なのかも知れません。

ややマイナーなオルガン前奏曲とフーガの編曲

またしても前回更新からだいぶ間が空いてしまいました。
フランスからヘルシャー 編曲の楽譜が2つ届きました。どちらもオルガン前奏曲とフーガの中から、ハ長調 BWV 531ハ短調 BWV 549。 この音楽家の編曲は、他には幻想曲とグラーヴェなどがありましたが、 ちょうどリストやブゾーニが編曲していなかったオルガン曲を狙っていたのでしょうか、ややマイナーな曲の編曲ばかりがあります。 出版社はEschigです。なおニ長調 BWV 532とニ短調 BWV 565についても編曲しているようで、注文し到着待ちです。
下の楽譜は、前奏曲とフーガ ハ長調 BWV 531。この曲はピアノのすっきりした音で奏でることで映えます。
Bach=Herscher/ Prelude and Fugue BWV 531 - Prelude
Bach=Herscher/ Prelude and Fugue BWV 531 - Fugue
そして、下は前奏曲とフーガ ハ短調 BWV 549。
Bach=Herscher/ Prelude and Fugue BWV 549

レーガー編のオルガン前奏曲とフーガ

バッハ好きの先輩から、マックス・レーガー編曲の オルガン前奏曲とフーガ 「ニ長調」と、「ホ短調」 の譜面を複写させていただきました。ありがとうございました!
このホ短調の前奏曲とフーガは、私が特に気に入っている曲なのですが、 これまたレーガー編の恐ろしいまでの重厚な編曲、以下譜例は冒頭部分ですが、フーガ中間部の火花のほとばしるパッセージも 同じようにすべてオクターブという、オルガン原曲での一般的な速度での演奏はほとんど不可能でしょう。 (9月に演奏された方がいらっしゃるのですが、平日だったため私は残念ながら聴きに行けませんでした。) オルガン譜と比較してみると、オクターブ化による音量・重量感の増加の他にも、原曲に無い音をずいぶんたくさん挿入しているようです。 この曲の他編曲としては、おとなしいリスト編、レーガー編に比べれば現実的なフェインベルグ編があります。
Bach=Reger/ Prelude and Fugue BWV 548

Junnichi Steven Sato編曲のパッサカリア

すっかり更新が滞ってしまっていました。 今回は先月入手したCDの紹介です。Junnichi Steven Sato編曲のパッサカリア、 自編自演の入ったCD「PIANO TRANSCRIPTIONS」です。 この編曲はブゾーニによるオルガン曲の編曲のように、時には音型を変えながら、これでもかという分厚い音を鳴り響かせます。 ベダルで残しつつ低音部から高音部までくまなく弾く部分は、3段譜は当たり前、フーガ前の盛り上がりとコーダ部分は4段譜になります。
Bach=Sato/ Passacaglia c-moll BWV 582
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