先月、注目すべきCDがリリースされました。「The Bach-Busoni Edition Vol.1 」というCDで、ブゾーニ版のバッハ集(クラヴィーア曲)の曲目が収録されています。演奏者は、サラ・デイヴィス・ビュークナー(Sara Davis Buechner)。このピアニスト、実は第8回チャイコフスキー国際ピアノコンクールに第6位に入賞したピアニストで、その時はDavid Buechnerでした。詳細はこちらのページをご覧ください。
このCDに収録された曲の約半分は、以前紹介したCD、Bach-Busoni Goldberg Variations [D. Buechner] (ConnoisseurSociety,1995) と同じです。この時はブゾーニ版のゴルトベルク変奏曲がメインでしたが、今回はブゾーニ版バッハ集の紹介を軸に構成されています。
さてタイトルにもあるとおり、「ブゾーニ編曲」ではなく「ブゾーニ版(Busoni-Ausgabe)」として敢えて書き分けています。これは、オルガン曲やヴァイオリン曲の編曲ではなく、バッハのクラヴィーア曲をブゾーニがピアノ曲集として編纂したものを指しています。このあたりの説明は具体例がないと若干わかりづらいので、このCDに収録された曲目についていくつか解説しておきたいと思います。
1.平均律クラヴィーア曲集からの3つの編曲
1) Widmung
2) Preludio, Fuga e Fuga figurata
3) Fugue in G major for two pianos
1) のWidmung は、ブゾーニ版バッハ集の冒頭に掲げられた曲で、平均律 第1巻 第1番 ハ長調のフーガの主題とフーガの技法の未完のB-A-C-Hの主題が組み合わされた、1ページ程の短い曲です。この楽譜はまだ見たことがないのですが、以前耳コピで採譜したものがあるので冒頭部分を紹介します。
(Busoni/ Widmung)
2) のPreludio, Fuga e Fuga figurata は、平均律 第1巻 第5番 二長調の前奏曲とフーガを組み合わせた曲です。詳しくは曲目データベースの紹介や以前紹介したCDの記事をご覧ください。
3) のFugue in G major for two pianos は、平均律 第2巻 第15番 ト長調のフーガ(ブゾーニ版では平均律第1巻と第2巻のト長調フーガは入れ替えられています!)を、曲の構成や響きを学ぶために、2台ピアノ用の練習曲として編曲されたものです。
2.ゴルトベルク変奏曲
ブゾーニ版のゴルトベルク変奏曲では、原曲通りアリアと30の変奏がすべて収録されていますが、演奏会用には本来この曲が持つ構成・意義を捨象し、演奏効果からのアプローチで3つのグループに分けて、全曲ではなく抜粋で弾くような提案が掲載されています。グループ分けは以下の通りで、グループ3はピアノ曲として演奏会用に大幅に手が加えられています。聞いていると驚きの連続です。最後のアリア反復は低い音域で演奏され、名残惜しむように終わります。
グループ1: アリア、第1、2、4、5、6、7、8、10、11、13変奏
グループ2: 第17(または14)、15、19、20、22、23、25変奏
グループ3: 第26、28変奏、Allegro finale, Quodlibet e Ripresa(第29、30変奏とアリア反復)
3.ピアノ協奏曲 第1番 二短調
ブゾーニ版のピアノ協奏曲 二短調もまた、当時のチェンバロ協奏曲をピアノで良く響くような改編を多く加えています。たとえば通奏低音パートとしてのピアノパートは排除し、ピアノの音域をフル活用するように低音から高音まで演奏音域を拡大しています。このブゾーニ版ピアノ協奏曲については、別途解説の記事を譜例付きで書きたいと思います。このCDではライブでの録音が収録されており、この曲の熱気が伝わってきます。
ブゾーニ版のバッハ曲集は、バッハの音楽を学ぶための様々な練習用の変奏が掲載されています。それらのいくつかは演奏会用の曲目として耐えうるものも含まれていますが、実際にこうしてCDで聴けるのは極めて稀です。このCDのタイトルにVol. 1 とあることから、Vol. 2 以降も続くことを願っています。
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