リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543

リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543は、数あるバッハのピアノ編曲の中でも相当有名な部類に入ると思います。情熱的な前奏曲と、均整がとれながらも盛り上がって終わるフーガがセットになっており、さらに比較的コンパクトにまとまっているためでしょうか、大変人気があります。リストの編曲集「6つのオルガン前奏曲とフーガ」の中でも、この曲だけが唯一多くのピアニストに取り上げられます。以下の譜例は前奏曲の冒頭部分です。
Bach=Liszt/ Prelude and Fugue in A minor BWV 543
(Bach=Liszt/ Prelude and Fugue in A minor BWV 543)
リストの編曲は、楽譜上非常にシンプルで、ペダル指示はもとより表現記号はほとんど無いため、演奏者の解釈がとてもよく出ると思います。多くのCDが出ていますが、その中でもはっきりと性格付けがついているものを3点選んで紹介しようと思います。
まずは以前も取り上げたワイセンベルクのCD「バッハ:主よ、人の望みの喜びよ」を。こちらはピアノならではの硬質な音で、迷いが無く決然とした演奏が聴けます。煌びやかな高音部、荘厳な重低音、ここぞとばかりに表出され聴いていてドラマを感じられる演奏です。ロマン派スタイルの演奏と言えるでしょう。
次に紹介するケヴィン・オールドハム(Kevin Oldham)のCD「The Art Of Piano Transcription」では、うって変わってノンレガートを基本としており、あたかもクラヴィーア曲かのような端正な演奏が聴けます。原曲を知らなければ、元がオルガン曲とはわからないことでしょう。ダンパーペダルの使用も最小限にとどめているようです。
最後に、サイのCD「シャコンヌ!~サイ・プレイズ・バッハ」です。こちらは、ワイセンベルグの解釈よりもさらに表情豊かに演奏されます。全体的にゆったりしていますが、途中でもテンポが大きく揺れ、ロマン派的なバッハが聴けます。盛り上がるところではペダルを最大限に使い轟音を鳴らします。オールドハムの演奏と比較すると、とても同じ曲とは思えません。
ダイナミック&スピーディーなワイセンベルグの演奏、シンプル&端正なオールドハムの演奏、ゆったりとロマンチックなファジル・サイの演奏、聴き比べてみるとこんなに違う弾き方があるのかと、新たな発見があるのではないでしょうか。どのCDも比較的容易に入手可能です。

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