バッハ弾き~タチアナ・ニコラーエワ

バッハをピアノで弾くピアニストの紹介。タチアナ・ニコラーエワ(Tatiana Nikolayeva, 1924-1993)は、先日取り上げたフェインベルグと同じゴリデンヴェイゼルの弟子で、何度も来日しており日本での認知度は非常に高いピアニストだと思います。バッハ弾きとしての名声も高く、1950年に第1回バッハ国際コンクールでの優勝をはじめ、バッハのクラヴィーア曲のピアノ演奏、録音を多数残しています。
さて彼女のバッハの録音は、店頭でも比較的よく見かけますが、旧ソ連時代にメロディアに数多く残された録音のうちCD化されていない古い録音や、同じ曲目の旧録音の有無を含めるとその全容を把握するのは非常に難しくなっています。古いものは1950年代のアナログ録音から、新しいものは1990年代のデジタル録音まであります。たとえば平均律クラヴィーア曲集は1971~1973年にモスクワで収録されたものと、1984年に日本で収録されたものが存在します。また、ゴルトベルク変奏曲にいたっては、最近になって初出したライブ録音を含めると実に5種類の録音が存在します。
平均律クラヴィーア曲集やインヴェンションとシンフォニアなどは、もはや模範として受け入れられているようで今まで何度も再販売されてきましたが、残念ながら再販売されないままになっているものが多いようです。最近オークションでピアノ協奏曲集(ライブ録音!)のレコードを入手し大喜びしたばかりですが、このような名演がCD化されず埋もれていることが残念でなりません。
<主な録音>
・平均律クラヴィーア曲集 全2巻 BWV 846-893
・ゴルトベルク変奏曲 BWV 988
・フランス組曲(全曲) BWV 812-817
・インヴェンションとシンフォニア(全曲) BWV 772-801
・イタリア協奏曲 BWV 971
・イギリス組曲 第1番 BWV 806、第4番 BWV 809
・4つのデュエット BWV 802-805
・幻想曲 ハ短調 BWV 906
・半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV 903
・小前奏曲とフーガ等 BWV 924-930、933-942、952-953、961、895、899-900、999
・トッカータ ト短調 BWV 915、ニ長調 BWV 912、嬰へ短調 BWV 910
・カプリッチョ 変ロ長調 「最愛の兄の旅立ちにあたって」 BWV 992
・フーガの技法 BWV 1080
・音楽の捧げものより~3声・6声のリチェルカーレ BWV 1079
バッハのピアノ編曲(ニコラーエワ編曲)
・その他、バッハのピアノ編曲(ブゾーニ、ヘス、ケンプ、高橋の編曲)
※CD化されていないレコード
・ピアノ協奏曲 BWV 1052-1056, 1058
・2台~4台ピアノのための協奏曲 BWV 1060-1065
・パルティータ(全曲) BWV 825-830、フランス風序曲 ロ短調 BWV 831
・トッカータ ニ短調 BWV 913、ヘ短調 BWV 914 、 ト長調 BWV 916、ハ短調 BWV 911
<注目のCD>
Nikolayeva: 12 Little Preludes / 6 Little Preludes
小前奏曲とフーガ集
1991年11月に今市市(現・日光市)で収録されたCDです。和風の背景は、日光金谷ホテル。このCDはおそらく日本でしか発売されていないものだと思いますが、日本では今でも入手可能だと思います。Amazonでも販売しています。このCDに収録された曲のほとんどは平易な(とされている)小品ですが、立体的に聞こえ強く惹きつけられます。これらの曲を芸術作品としてまともに取り上げられる現代のピアニストは何人いるでしょうか?また、このCDに収録されたニコラーエワ自身の編曲によるオルガン前奏曲とフーガト短調 BWV 535も素晴らしい演奏です。
<おすすめの1曲>
音楽の捧げものより~3声のリチェルカーレ。私の知る限り、モスクワでの1986年のステレオ録音、1987年のザルツブルク音楽祭でのライブ録音、1992年のハイペリオンに残したデジタル録音の3種類が残されています。どれも非常に素晴らしい演奏ですが、中でも「ザルツブルク音楽祭でのライブ録音(Orfeo)をお勧めします。若干のキズはありますが、この曲の構造美に共存する即興性もよく感じ取れる名演です。
<参考リンク>
最近になって初出したライブ録音の紹介
ニコラーエワの紹介(海外)
—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-

注目のCD
おすすめの1曲

バッハ弾き~サムイル・フェインベルグ

バッハをピアノで弾くピアニストの紹介。サムイル・フェインベルグ(Samuil Feinberg, 1890-1962)、このピアニストについては私のこのページ作成当初から色々なところで紹介してきましたので、それらの記事へのリンクしておきます。
<主な録音>
・平均律クラヴィーア曲集 全2巻 BWV 846-893
・半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV 903
・幻想曲とフーガ イ短調 BWV 904
・トッカータ ハ短調 BWV 911、ニ長調 BWV 912
・イタリア風アリアと変奏 BWV 989
・パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV 825
・シンフォニア 第9番 ヘ短調 BWV 780、弟12番 イ長調 BWV 783
その他、バッハのオルガン曲のピアノ編曲
<注目のCD>
バッハ・オリジナルのクラヴィーア曲の演奏では、なんといっても平均律全2巻のCDがお勧めです。当然フェインベルグ本人は曲ごとに相当研究しているのでしょうけれども、曲の構成や理論がどうこうとは別次元で、感性に直接訴えかけてくる音楽です。ポリフォニーがポリフォニーだと思わせない。そして平均律各巻それぞれ、全24曲を通して一つの曲だと言っても過言ではないほど、聴き始めると全曲を通して聴いてしまうことが多いです。さてこのCD、再販されても限定盤であることが多くすぐ市場から消えてしまうため、Amazonのマーケットプレイスやオークションなどでは法外な値段がつけられたりしていますが、海外のWebのCDショップを探せばまだ手に入れられると思います。たとえば、jpcのWebサイトにもあります。
<おすすめの1曲>
トリオソナタ 第5番 ハ長調 より「ラルゴ」イ短調 BWV 529の演奏。バッハ編曲集のCD紹介The Art Of Samuel Feinberg Vol. 3で紹介したCDに収録されています。
<参考リンク>
平均律全2巻のCD紹介
バッハ編曲集のCD紹介
フェインベルグのバッハ編曲
国際フェインベルグ・スカルコッタス協会(海外)
フェインベルグの紹介(海外)
フェインベルグの平均律のレビュー(海外)

バッハを弾くピアニスト

ほとんどのピアニストは少なからずバッハのクラヴィーア曲をレパートリーにしていると思いますが、ではどういうピアニストのことをバッハ弾きと言えるのでしょうか。一つの客観的な指標として、曲集などを全曲、体系立てて研究し録音してきているピアニストはバッハ弾きと言えると思います。そこで、私が持っているCDを眺めてみて、平均律全2巻全曲またはゴルトベルク変奏曲と、その他に2枚以上バッハの曲集を収録しているという条件で、バッハ弾きと言えるピアニストを抽出してみました。このページを目次としながら、少しずつこれらのピアニストとそのCDについて紹介していきたいと思います。

  • アンジェラ・ヒューイット(Angela Hewitt)
  • アンドラーシュ・シフ(Andras Schiff)
  • マレイ・ペライア(Murray Perahia)
  • マリア・ティーポ(Maria Tipo)
  • ヴォルフガング・リュプサム(Wolfgang Rubsam)
  • イーヴォ・ヤンセン(Ivo Janssen)
  • ヴラジーミル・フェルツマン(Vladimir Feltsman)
  • セルゲイ・シェプキン(Sergei Schepkin)
  • アンドリュー・ランゲル(Andrew Rangell)
  • アレクシス・ワイセンベルク(Alexis Weissenberg)
  • カール=アンドレアス・コリー(Karl=Andreas Kolly)
  • イェルク・デームス(Jörg Demus)
  • エフゲニー・コロリオフ(Evgeni Koroliov)
  • 高橋悠治(Yuji Takahashi)
  • 園田高弘(Takahiro Sonoda)
  • グレン・グールド(Glenn Gould)
  • ロザリン・テューレック(Rosalyn Tureck)
  • フリードリヒ・グルダ(Friedrich Gulda)
  • ミェチスワフ・ホルショフスキ (Mieczysław Horszowski)
  • ギュンナー・ヨハンセン(Gunnar Johansen)
  • スヴャトスラフ・リヒテル(Sviatoslav Richter)
  • タチアナ・ニコラーエワ(Tatiana Nikolayeva)
  • アナトリー・ヴェデルニコフ(Anatoly Vedernikov)
  • マリア・ユーディナ(Maria Yudina)
  • サムイル・フェインベルグ(Samuil Feinberg)
  • エドヴィン・フィッシャー(Edwin Fischer)
  • ヴィルヘルム・ケンプ(Wilhelm Kempff)

※挙げもれているもの、または私が知らない名演奏家もいるかと思います。他に挙げるべきピアニストがいればご教示下さい。

続きを読む バッハを弾くピアニスト

コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766

コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766
Chorale Partita ‘Christ, der du bist der helle Tag’ BWV 766

先日の記事で取り上げた「バッハの主題による幻想曲」の中心となるバッハの原曲、コラールパルティータ「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766が、ストラーダルが手稿譜として残した編曲の中に含まれています。この曲も私が浄書したので、その一部をMIDIファイル付きで紹介します。
曲の構成としては、まずコラールの主題を提示し、その後6つの変奏が繰り広げられ(全部で7つの変奏)、最後に主題が回帰します。原曲のオルガンでも第6変奏までは手鍵盤のみで演奏でき、最後の第7変奏でペダルに主題が現れ5声で力強く締めくくられます。以下の楽譜は、ストラーダル編のコラール主題部です。
コラール主題midi
Theme - Chorale Partita 'Christ, der du bist der helle Tag' BWV 766
ストラーダルの編曲では、第1~第6変奏の途中までは比較的おとなしく、強弱やペダル記号の追記以外はほとんど原曲と同じです。あたかもクラヴィーア曲のような趣ですが、第6変奏の途中から次第に和音が拡大され、第7変奏で盛り上がりの頂点を築きます。以下の楽譜が第7変奏、一見複雑そうに見えますが、演奏はさほど難しくありません。特にこの第7変奏は強弱の対比も見事で、ピアノで演奏することにより、より華やかさが前面に出ると思います。なおこの第7変奏も、ブゾーニの「バッハの主題による幻想曲」で使われています。
第7変奏midi
7th Vars. - Chorale Partita 'Christ, der du bist der helle Tag' BWV 766
バッハのオリジナル曲で、ゴルトベルク変奏曲が圧倒的な存在感を示しているとはいえ、モーツアルト等の後世の音楽家と比べてピアノで演奏できる変奏曲の数が少ないのは事実です。こうしてピアノでバッハの変奏技法を楽しむというのも一興だと思います。