前回予告編を書きましたが、マックス・レーガー(Max Reger, 1873-1916) の編曲集、「ピアノ・トランスクリプションズ第7集~レーガー編曲全集」が先週手元に届きました。このジャケットのリンクはHMV Onlineのものですが、Amazonではまだ6/9発売予定になっているようです。ピアニストはマルクス・ベッカー(Markus Becker)。CD2枚組で、それぞれ先頭と末尾に前奏曲(トッカータ)とフーガの大曲を、間にオルガンコラール小品をはさみ、大変充実した内容です。この前奏曲(トッカータ)とフーガのシリーズは、ほとんどブゾーニの編曲と重複していますが、同時代に生きながらその解釈の違いを垣間見ることができます。その違いをざっと挙げると、高音域の使い方、トリルやスケールへの細かい音の詰め込み、音の密集度などでしょうか。どうしてもブゾーニの有名な編曲が先に頭に入っているので、公平に評価できないです。
ブゾーニ編と重ならない曲としては、原曲も大変な難曲である、前奏曲とフーガ ホ短調 BWV548があります。これは他にはリストとフェインベルグによる編曲が残されていますが、どちらよりもずっと重厚に仕上がっています。この編曲には数多くの追加された音がありますが、原曲を「オルガンソロによる交響曲」と言わしめたこの曲、オルガニストであったレーガー自身はどのように弾いたのかを伝えているのではないでしょうか。
それにしても、hyperionのシリーズは良い企画をリリースしてくれるものです。次は一体何を出してくれるか、とても楽しみです。
CD2枚の各巻収録曲は以下の通りです。
(CD No.1)
Prelude and Fugue in D major, BWV532
O Mensch, bewein’ dein’ Sunde gross, BWV622
Durch Adams Fall ist ganz verderbt, BWV637
Ach wie nichtig, ach wie fluchtig, BWV644
Nun danket alle Gott, BWV657
Herzlich tut mich verlangen, BWV727
Wenn wir in hochsten Noten sein ‘Vor deinen Thron tret ich’, BWV668
Valet will ich dir geben, BWV736
Es ist das Heil uns kommen her, BWV638
Liebster Jesu, wir sind hier, BWV730
Vom Himmel hoch, da komm ich her, BWV606
Prelude and Fugue in E flat major ‘St Anne’, BWV552
(CD No.2)
Prelude and Fugue in E minor ‘The wedge’, BWV548
Christ lag in Todesbanden, BWV Anh 171
Ich ruf’ zu dir, Herr Jesu Christ, BWV639
An Wasserflussen Babylon, BWV653b
Komm, heiliger Geist Herre Gott, BWV651
Schmucke dich, o liebe Seele, BWV654
Das alte Jahr vergangen ist, BWV614
Toccata and Fugue in D minor, BWV565
—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-
月: 2009年5月
「熱狂の日」音楽祭(LFJ 2009)
ここ数年、ゴールデンウィークの音楽祭として定着してきた、「熱狂の日」音楽祭(ラ・フォル・ジュルネ)。今年のテーマは「バッハとヨーロッパ」ということで、私もいくつかの公演・イベントを聴きに行きました。チケットは発売直後あっという間に完売してしまうような勢いで、私も発売日の10:00~10:12の間にかろうじて確保できた4公演。もっといろいろな楽器の演奏を聴きたかったのですが、結果的にピアノ関連ばかりになってしまいました。私が回った公演を客観的に見てみると、何と偏った選択をしているかが浮き彫りになってます。何にせよ、忘れないうちに感想を書いておこうと思います。
<4月28日(火)18:00~18:30>
0.イベント(無料公演)
丸ビル1階の「マルキューブ」で、藤武靖子さんのオルガン演奏を聴きました。演奏前に解説があって、わかりやすかったです。なかなか良い幕開けとなりました。曲目は、以下の通り。
・小フーガ ト短調 BWV 578
・コラール「おお人よ、汝の大いなる罪に泣け」 BWV 622
・パッサカリア ハ短調 BWV 582
<5月4日(月)>
1.214@ホールA 17:15~18:00
ピアノが2台、3台が並ぶステージ。5000名も入る大ホールで、運よくS席で聴けたので良かったものの、想像するに遠い席だとほとんど生演奏の臨場感は得られないのではないでしょうか。2台ピアノの演目は児玉麻里さん・桃さんの姉妹、そして3台ピアノは小曽根真さんが第1ピアノに入りました。小曽根さんはジャズ・ピアニストで、期待通り面白い即興を交えた演奏を聴かせてくれました。第2楽章はかなり長めの即興ソロを挿入し、会場からの興味を十分に引いていたと思います。この即興の良さは、あざといジャズアレンジとは違って、「あたかも原曲にありそう」な演奏だということです。
・2台ピアノのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060
・2台ピアノのための協奏曲 ハ長調 BWV 1061
・3台ピアノのための協奏曲 ニ短調 BWV 1063
2.277@G409 19:15~20:00
ジャン=フレデリック・ヌーブルジェのピアノソロ演奏会。バッハのピアノ編曲モノのオンパレードで、まさに私が好むプログラム。上記ホールAとはうって変わって、小さめの会議室で音響がほとんど無い場所での演奏。演奏者の意図がダイレクトに伝わってきました。場所のせいか、強い音がやや耳につく感じが否めいのですが、丁寧な演奏だったと思います。曲目は以下の通り。
・ブクステフーデ=プロコフィエフ:前奏曲とフーガ 二短調 BuxWV140
・バッハ=ブゾーニ/コラール「いざ来たれ、異教徒の救い主よ」 BWV 659
・バッハ=ブゾーニ/コラール「今ぞ喜べ、愛するキリスト者の仲間たちよ」 BWV 734
・バッハ=ブラームス/シャコンヌ(左手のための)
・バッハ=フェインベルグ/トリオソナタ BWV 529 より「ラルゴ」イ短調
・バッハ=ヌーブルジェ/ミサ曲 ロ短調 BWV 232 より「キリエ・エレイソン」
<5月5日(火)>
3.377@G409 19:45~20:30
前日に引き続き、小さい会議室でのピアノソロ演奏会。ピアニストはクレール・デゼール。バッハの「フーガの技法」を最初と最後に配置し、中間にバッハから影響を受けた作品をはさむというプログラム構成で曲目は以下の通りですが、ダッラピッコラとシューマンの演目については、バッハとの関わりがほとんど感じることができませんでした。私の不勉強のせいもあるかと思いますが、共感はできませんでした。
・バッハ/フーガの技法 BWV 1080 より コントラプンクトゥスIII
・バッハ=ラフマニノフ/無伴奏ヴァイオリンパルティータ BWV1006 より「前奏曲」
・ダッラピッコラ/アンアリベラの音楽帳
・シューマン/間奏曲 作品4
・バッハ/フーガの技法 BWV 1080 より コントラプンクトゥスIX
4.378@G409 21:15~22:00
引き続き、狭い部屋での3プログラム目。この部屋にピアノ2台が持ち込まれ、華やかなピアノデュオでこの音楽祭の最後を味わいました。ピアニストは、リディア・ビジャークとサンヤ・ビジャークの姉妹。前日に2台ピアノとオーケストラで同じ曲目を聴きましたが、このデュオは息がぴったりで、音量が大きいのにうるさくない、大変すばらしい演奏でした。特にハ長調のBWV1061は感激しました。2台ピアノのプログラムの間には、クルタークによる連弾の編曲が盛り込まれました。生演奏で聴くのはもちろん初めてで、CDでも聴いたことがない曲もあり、その美しい響きに感動しました。この音の使い方は現代音楽家のもので、高音部への音の追加方法など、聴いていて新しい発見がありました。今度取り上げて研究したいと思います。プログラムは以下の通り。
・バッハ/2台ピアノのための協奏曲 ハ長調 BWV 1061 (2台4手)
・バッハ=クルターク/「人皆死すべきもの」BWV 643 (連弾)
・バッハ=クルターク/「神の時こそいと良き時」BWV 106 (連弾)
・バッハ=クルターク/「深き苦しみの淵より、我汝を呼ぶ」BWV 687 (連弾)
・バッハ=クルターク/「おお汚れなき神の小羊」BWV 1085 (連弾)
・バッハ=クルターク/「いと高きにいます神にのみ栄光あれ」BWV 711 (連弾)
・バッハ/2台ピアノのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060 (2台4手)
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上記のような、ピアノだらけの組み合わせ(しかもマニアック)で聴いた人なんて、おそらくいないでしょうね・・・自分でも、もっと多様な楽しみ方をすればよかったと、半分くらいは選択を後悔しています。それでも、Bach with Pianoという私のサイトのタイトル的には抑えるべきところを抑えたと言えますでしょうか。