無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番(全曲)のピアノ編曲版

先週末店頭にて、全音から出版された無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番(全曲)のピアノ編曲楽譜を購入しました。出版日を見ると、2009年6月15日。先日blogで紹介した菊地裕介氏のCD「変貌するバッハ」に収録されていた曲で、あの有名なブゾーニ編のシャコンヌを終曲とする組曲全体(アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグ)を菊池氏がピアノソロ用に編曲したものです。適度に挿入された対旋律が、ピアノで弾く豊かさを増しています。解説も充実しており、編曲にあたっての姿勢・考え方が論理的に書かれていました。共感するとともに、あまりに的確な表現だと感じましたので、そのままの文章を引用させてください。

全曲を通すことによってしか迫れない「何か」を求めた結果である。
・・・・

ヴァイオリンによる演奏をピアノによって模倣しようとしたのではない、という筆者のスタンスを強調しておきたい。ピアノという楽器の特徴を活かし、的確で簡潔なイントネーションによって、「音符」によって象徴される幾何学的な美学をより一層浮き彫りにし、ヴァイオリンでの演奏とはまた異なる楽曲の魅力を追求したい。

さらに、ブゾーニ編のシャコンヌにも数多くの校訂報告がなされています。今後シャコンヌを勉強する人々にとっても、有意義な指南となることでしょう。私はまだシャコンヌには挑戦していませんが、その際にはぜひこの楽譜も参考にしたいと思います。何にせよ楽譜全体を通して、非常に密度の濃い素晴らしい内容、価値のある一冊だと思いました。
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hyperionバッハ編曲集 第7弾

ピアノ・トランスクリプションズ第7集~レーガー編曲全集 ベッカー(2CD) 前回予告編を書きましたが、マックス・レーガー(Max Reger, 1873-1916) の編曲集、「ピアノ・トランスクリプションズ第7集~レーガー編曲全集」が先週手元に届きました。このジャケットのリンクはHMV Onlineのものですが、Amazonではまだ6/9発売予定になっているようです。ピアニストはマルクス・ベッカー(Markus Becker)。CD2枚組で、それぞれ先頭と末尾に前奏曲(トッカータ)とフーガの大曲を、間にオルガンコラール小品をはさみ、大変充実した内容です。この前奏曲(トッカータ)とフーガのシリーズは、ほとんどブゾーニの編曲と重複していますが、同時代に生きながらその解釈の違いを垣間見ることができます。その違いをざっと挙げると、高音域の使い方、トリルやスケールへの細かい音の詰め込み、音の密集度などでしょうか。どうしてもブゾーニの有名な編曲が先に頭に入っているので、公平に評価できないです。
ブゾーニ編と重ならない曲としては、原曲も大変な難曲である、前奏曲とフーガ ホ短調 BWV548があります。これは他にはリストフェインベルグによる編曲が残されていますが、どちらよりもずっと重厚に仕上がっています。この編曲には数多くの追加された音がありますが、原曲を「オルガンソロによる交響曲」と言わしめたこの曲、オルガニストであったレーガー自身はどのように弾いたのかを伝えているのではないでしょうか。
それにしても、hyperionのシリーズは良い企画をリリースしてくれるものです。次は一体何を出してくれるか、とても楽しみです。
CD2枚の各巻収録曲は以下の通りです。
(CD No.1)
Prelude and Fugue in D major, BWV532
O Mensch, bewein’ dein’ Sunde gross, BWV622
Durch Adams Fall ist ganz verderbt, BWV637
Ach wie nichtig, ach wie fluchtig, BWV644
Nun danket alle Gott, BWV657
Herzlich tut mich verlangen, BWV727
Wenn wir in hochsten Noten sein ‘Vor deinen Thron tret ich’, BWV668
Valet will ich dir geben, BWV736
Es ist das Heil uns kommen her, BWV638
Liebster Jesu, wir sind hier, BWV730
Vom Himmel hoch, da komm ich her, BWV606
Prelude and Fugue in E flat major ‘St Anne’, BWV552
(CD No.2)
Prelude and Fugue in E minor ‘The wedge’, BWV548
Christ lag in Todesbanden, BWV Anh 171
Ich ruf’ zu dir, Herr Jesu Christ, BWV639
An Wasserflussen Babylon, BWV653b
Komm, heiliger Geist Herre Gott, BWV651
Schmucke dich, o liebe Seele, BWV654
Das alte Jahr vergangen ist, BWV614
Toccata and Fugue in D minor, BWV565
—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-

「熱狂の日」音楽祭(LFJ 2009)

ここ数年、ゴールデンウィークの音楽祭として定着してきた、「熱狂の日」音楽祭(ラ・フォル・ジュルネ)。今年のテーマは「バッハとヨーロッパ」ということで、私もいくつかの公演・イベントを聴きに行きました。チケットは発売直後あっという間に完売してしまうような勢いで、私も発売日の10:00~10:12の間にかろうじて確保できた4公演。もっといろいろな楽器の演奏を聴きたかったのですが、結果的にピアノ関連ばかりになってしまいました。私が回った公演を客観的に見てみると、何と偏った選択をしているかが浮き彫りになってます。何にせよ、忘れないうちに感想を書いておこうと思います。
<4月28日(火)18:00~18:30>
0.イベント(無料公演)

丸ビル1階の「マルキューブ」で、藤武靖子さんのオルガン演奏を聴きました。演奏前に解説があって、わかりやすかったです。なかなか良い幕開けとなりました。曲目は、以下の通り。
・小フーガ ト短調 BWV 578
・コラール「おお人よ、汝の大いなる罪に泣け」 BWV 622
・パッサカリア ハ短調 BWV 582
丸キューブ 2009年4月28日
<5月4日(月)>
1.214@ホールA 17:15~18:00

ピアノが2台、3台が並ぶステージ。5000名も入る大ホールで、運よくS席で聴けたので良かったものの、想像するに遠い席だとほとんど生演奏の臨場感は得られないのではないでしょうか。2台ピアノの演目は児玉麻里さん・桃さんの姉妹、そして3台ピアノは小曽根真さんが第1ピアノに入りました。小曽根さんはジャズ・ピアニストで、期待通り面白い即興を交えた演奏を聴かせてくれました。第2楽章はかなり長めの即興ソロを挿入し、会場からの興味を十分に引いていたと思います。この即興の良さは、あざといジャズアレンジとは違って、「あたかも原曲にありそう」な演奏だということです。
・2台ピアノのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060
・2台ピアノのための協奏曲 ハ長調 BWV 1061
・3台ピアノのための協奏曲 ニ短調 BWV 1063
2.277@G409 19:15~20:00
ジャン=フレデリック・ヌーブルジェのピアノソロ演奏会。バッハのピアノ編曲モノのオンパレードで、まさに私が好むプログラム。上記ホールAとはうって変わって、小さめの会議室で音響がほとんど無い場所での演奏。演奏者の意図がダイレクトに伝わってきました。場所のせいか、強い音がやや耳につく感じが否めいのですが、丁寧な演奏だったと思います。曲目は以下の通り。
・ブクステフーデ=プロコフィエフ:前奏曲とフーガ 二短調 BuxWV140
バッハ=ブゾーニ/コラール「いざ来たれ、異教徒の救い主よ」 BWV 659
バッハ=ブゾーニ/コラール「今ぞ喜べ、愛するキリスト者の仲間たちよ」 BWV 734
バッハ=ブラームス/シャコンヌ(左手のための)
バッハ=フェインベルグ/トリオソナタ BWV 529 より「ラルゴ」イ短調
バッハ=ヌーブルジェ/ミサ曲 ロ短調 BWV 232 より「キリエ・エレイソン」
<5月5日(火)>
3.377@G409 19:45~20:30

前日に引き続き、小さい会議室でのピアノソロ演奏会。ピアニストはクレール・デゼール。バッハの「フーガの技法」を最初と最後に配置し、中間にバッハから影響を受けた作品をはさむというプログラム構成で曲目は以下の通りですが、ダッラピッコラとシューマンの演目については、バッハとの関わりがほとんど感じることができませんでした。私の不勉強のせいもあるかと思いますが、共感はできませんでした。
・バッハ/フーガの技法 BWV 1080 より コントラプンクトゥスIII
バッハ=ラフマニノフ/無伴奏ヴァイオリンパルティータ BWV1006 より「前奏曲」
・ダッラピッコラ/アンアリベラの音楽帳
・シューマン/間奏曲 作品4
・バッハ/フーガの技法 BWV 1080 より コントラプンクトゥスIX
4.378@G409 21:15~22:00
引き続き、狭い部屋での3プログラム目。この部屋にピアノ2台が持ち込まれ、華やかなピアノデュオでこの音楽祭の最後を味わいました。ピアニストは、リディア・ビジャークとサンヤ・ビジャークの姉妹。前日に2台ピアノとオーケストラで同じ曲目を聴きましたが、このデュオは息がぴったりで、音量が大きいのにうるさくない、大変すばらしい演奏でした。特にハ長調のBWV1061は感激しました。2台ピアノのプログラムの間には、クルタークによる連弾の編曲が盛り込まれました。生演奏で聴くのはもちろん初めてで、CDでも聴いたことがない曲もあり、その美しい響きに感動しました。この音の使い方は現代音楽家のもので、高音部への音の追加方法など、聴いていて新しい発見がありました。今度取り上げて研究したいと思います。プログラムは以下の通り。
・バッハ/2台ピアノのための協奏曲 ハ長調 BWV 1061 (2台4手)
バッハ=クルターク/「人皆死すべきもの」BWV 643 (連弾)
バッハ=クルターク/「神の時こそいと良き時」BWV 106 (連弾)
バッハ=クルターク/「深き苦しみの淵より、我汝を呼ぶ」BWV 687 (連弾)
・バッハ=クルターク/「おお汚れなき神の小羊」BWV 1085 (連弾)
バッハ=クルターク/「いと高きにいます神にのみ栄光あれ」BWV 711 (連弾)
・バッハ/2台ピアノのための協奏曲 ハ短調 BWV 1060 (2台4手)

上記のような、ピアノだらけの組み合わせ(しかもマニアック)で聴いた人なんて、おそらくいないでしょうね・・・自分でも、もっと多様な楽しみ方をすればよかったと、半分くらいは選択を後悔しています。それでも、Bach with Pianoという私のサイトのタイトル的には抑えるべきところを抑えたと言えますでしょうか。

菊地裕介氏のCD「変貌するバッハ」

バッハをピアノで、という分野で大変興味深いCDが発売されました。タイトルは「 『B-A-C-H 変貌するバッハ、ピアノ・トランスクリプションズ』 菊地裕介icon」、有名なブゾーニ、ラフマニノフ、ケンプ、ヘス等の編曲に加え、菊地氏自身の編曲も併せて収録されています。
『B-A-C-H 変貌するバッハ、ピアノ・トランスクリプションズ』 菊地裕介
ブゾーニのシャコンヌは、無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番の終曲。本来は、アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグ、そしてシャコンヌと5曲からなる組曲です。
この無伴奏ヴァイオリンパルティータ第2番の全曲(シャコンヌ以外)は、有名な音楽家によるピアノ編曲は未だ無いと思われます(チェンバロでは、レオンハルトが自編を演奏してますが)。菊地氏の編曲は、オリジナルの旋律に自然な対旋律を付け、見事なピアノ曲に仕上げています。アルマンドとクーラントはあたかもこういうクラヴィーア曲があるかのようなおとなしい編曲ですが、サラバンドから、低音や音量幅を拡大し、ブゾーニ編のシャコンヌへの橋渡しを彷彿させます。続くジーグもさらに活発に、高音域を使用しピアニスティックな編曲。CDの解説にも書いてありましたが、アルマンドからシャコンヌに向けて次第に自由度を増した編曲になっています。
このCDには菊地氏編曲の手書き譜のうち、サラバンドが付録で入っていました。この菊地氏の編曲は、全音から出版される予定とのこと。非常に楽しみです。絶対に買います。
収録曲は以下の通りです。
無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第3番 ホ長調より(ラフマニノフ編)
主よ、人の望みの喜びよ(ヘス編)
無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第2番 ニ短調(菊池編、およびブゾーニ編)
シチリアーノ(ケンプ編)
・音楽の捧げもの より 6声のリチェルカーレ
・B-A-C-Hの主題による幻想曲とフーガ(リスト)
(6/14追記)
全音から出版された楽譜も購入しました。

楽譜を出版してもらいました

このたび、私が編曲した作品の一部を、Music Bells (ミュージック・ベルズ)から出版してもらうことになりました。楽譜を出版するというのは、利益を得る云々ではなく、世の中に自分の足跡を残すという意味で、いつか実現したいと考えていたことなのですが、比較的手軽な方法で出版する機会を提供しているMusic Bells (ミュージック・ベルズ)に感謝したいと思います。
Music Bells (ミュージック・ベルズ)
このMusic Bells (ミュージック・ベルズ)では、電子データ楽譜(PDFファイル)と、紙に印刷された楽譜との、どちらかを選んで購入することができます。今回は以下リンクの3曲を出版してもらいました。

ブランデンブルク協奏曲 第1番(テューリン編)

昨年末、とある演奏会で取り上げた、ブランデンブルク協奏曲 第1番のピアノ編曲を紹介します。
Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 1st. mov.
(Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 1st. mov.)
このブランデンブルク協奏曲 第1番の楽譜(全楽章がピアノソロに編曲されています)は、モスクワのムジカ社から1961年に出版されていたもので、プラハの音楽学校の図書館に眠っていました。編曲者テューリン(Juri Tulin, 1893-1978)については、ロシアの音楽家ということ以外は詳しいことはまだ判明していませんが、この編曲は見事です。原曲が比較的大きな規模の楽器編成ということもあって、ピアノソロで弾けてしまうこと自体が驚きです。
音が密集している中で音域の交換や思い切ったパートの省略(フォッフォッフォッ フォッフォッフォッ フォ- という特徴的なホルンの合図を無視しています)をうまく活用し、ピアノ1台で生み出せる最大限の効果を出せていると思います。下の譜例のように、ピアノの高音域を随所に織り交ぜていることから、ピアノならではの輝かしい響きを出しています。また、同じパッセージを異なる楽器で掛け合う部分についても、3度、6度、音域、とそれぞれ変化をつける工夫をしていることも見てとれます。
Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 1st. mov.
(Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 1st. mov.)
とはいえ、シャコンヌなどの編曲とは違ってピアノに適した楽想ではなく、純粋なピアノ曲としては鈍重な感は否めません。バッハの音楽をピアノの音色で楽しむということに割り切ることです。(実際に私がこの曲を演奏した後、数名の方から「わざわざピアノで弾かなくても・・・」と評判は概ねマイナスでした。。。)
ところで、ブランデンブルク協奏曲は、バッハの全楽曲の中でも私が最も好きな曲集です。全6曲、全てが異なる楽器編成で、この第1番はコルノ・ダ・カッチャ(ホルン)、オーボエ、ファゴット、ヴィオリーノ・ピッコロが独奏楽器群、ヴァイオリン、ヴィオラ、ヴィオローネ、通奏低音が合奏楽器群ということで、曲集の中でも大規模な編成です。それぞれの独奏楽器群が緊密に掛け合う論理的・幾何学的な構成がこの曲の魅力です。
ブランデンブルク協奏曲集の全6曲について、ピアノソロ用の編曲をようやく全て揃えることができました。原曲の方が素晴らしいのは当り前の話ですが、楽団を率いることができるわけではないので、このピアノソロ編曲をいつか全曲制覇したいものです。
以下第2~4楽章までの譜例です。演奏者に無理を要求するような編曲ではありません。
◎第2楽章の譜例
Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 2nd. mov.
(Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 2nd. mov.)
◎第3楽章の譜例
Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 3rd. mov.
(Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 3rd. mov.)
◎第4楽章の譜例
Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 4th. mov.
(Bach=Tulin/ Brandenburg Concerto No.1 BWV 1046 4th. mov.)

フルートとピアノ(チェンバロ)のためのソナタ

バッハのフルート・ソナタというと、フルートとチェンバロ・オブリガートによるもの(BWV 1030~1032)と、フルートと通奏低音によるもの(BWV 1033~1035)がそれぞれ3曲ずつあります。
これがまた名曲揃いなわけですが、とりわけ傑作の誉れ高いロ短調のソナタ、BWV 1030をフルートの友人と挑戦することにしました。
現代のフルートとピアノで演奏することになるわけですが、私は実はフルートとチェンバロの組み合わせよりピアノとの組み合わせの方がよりいい響きになる、と感じています。ところが、ヴィオラ・ダ・ガンバのソナタや、ヴァイオリンのソナタではピアノとの組み合わせで録音がいくつかあるのですが、フルートのソナタの方でピアノと組み合わせた録音はあまり見かけません。何故でしょう?

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そんな中、唯一私が知っているピアノとの組み合わせでの録音、これが大変お気に入りなものなのでぜひ紹介したいと思います。hänsslerから出ている「Chamber Music For Flute: Gerard(Fl)icon」(BachPodにも入っています)で、無伴奏フルートパルティータ BWV1013 なども含めた2枚組です。
Amazonでは見つけられませんでしたが、NaxosのNMLで聴くこともできます。
http://ml.naxos.jp/album/CD92.121
なおこのCDの中には、リュート組曲 ハ短調 BWV997のフルートとピアノのための編曲が収録されており、それもまたとても心地よい音楽です。
好みは分かれるかもしれませんが、私は是非ともおすすめしたいCDです。

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ブゾーニ編のピアノ協奏曲 二短調 BWV 1052

以前CDの紹介「ブゾーニ版バッハ集のCD 第1弾」で取り上げた、ブゾーニ編曲のピアノ協奏曲 ニ短調 BWV1052について、改めて楽譜を交えて紹介したいと思います。
これは当時のチェンバロ協奏曲を、ピアノでもっと良く響くように、ブゾーニが数々の工夫を加えたものです。たとえば通奏低音パートとしてのピアノパートは排除し、ピアノの音域をフル活用するようにピアノならではのパッセージに書き換えられています。
以下、オリジナルのチェンバロパートとブゾーニ版の同じ部分を見比べてみます。
Bach/ Concerto d-moll BWV 1052
(Bach/ Concerto d-moll BWV 1052)
オリジナルでは同じ音域でのパッセージを、音楽の流れそのものは変えずに、ブゾーニ版では高音まで演奏音域を拡大しているのがわかります。
Bach=Busoni/ Piano Concerto d-moll BWV 1052
(Bach=Busoni/ Piano Concerto d-moll BWV 1052)
この手法はあらゆる場所で活用されています。また次の例は、音域の拡大に加え、和音に音を追加することで響きを豊かにしています。
Bach/ Concerto d-moll BWV 1052
(Bach/ Concerto d-moll BWV 1052)
Bach=Busoni/ Piano Concerto d-moll BWV 1052
(Bach=Busoni/ Piano Concerto d-moll BWV 1052)
そしてカデンツァはこうなってます。小さくて見えないかと思いますが、ピアにスティックな様はわかると思います。
Bach=Busoni/ Piano Concerto d-moll BWV 1052
(Bach=Busoni/ Piano Concerto d-moll BWV 1052)
さてその録音ですが、まずは近年のクリアな音質での録音はとしては、以前紹介した「ブゾーニ版バッハ集のCD 第1弾」のほかに、「アダム・スコウマルの演奏によるCD」が挙げられます。このCDには、この協奏曲の他に、ラフマニノフ編曲の無伴奏ヴァイオリンパルティータ、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番が収録されており面白いカップリングです。


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そして、ヒストリカルな録音としては、リパッティのCD「Dinu Lipatti plays Bach」や「Lipatti Liszt, Bartok, J.s.bach: Piano Concerto」が挙げられます。特に前者はリパッティが残したバッハの名録音が多く含まれており、ぜひ手にしておきたい一枚です。


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以上、主にHMVへのリンクを張りましたが、Amazonでは以下のリンクをご参照ください。
—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-

ハイドシェックのパルティータ

今回はバッハのオリジナル作品の録音についてです。
エリック・ハイドシェック(Eric Heidsieck, 1936-)、フランスの大ピアニストですが、私のCD棚にはモーツアルトとフォーレの録音が数枚ある程度で、バッハを弾いている録音があるなど、知りませんでした。
パルティータ第1番、第2番、第3番 ハイドシェック
先月HMVの新着情報でハイドシェックのバッハ録音が再発売されるという情報を知り予約注文しており、今日届いて早速聴いている次第ですが、その素晴らしさに吃驚させられました。強弱やペダルを多用していますが、細かいところまで配慮が行き届いているというか、丁寧に曲の良さを訴えかけてくるというか、なかなか言葉で表せないながら大変気に入ったのは確かです。曲目は、パルティータ全曲と、イタリア協奏曲、フランス風序曲というバッハの出版された代表作をカバー。よく聴いてみると、なにやら随所に音が追加され艶やかな音楽になっています。もしやブゾーニ版(ペトリ編)?と思いきや、それらとも違いました。ハイドシェックのセンスなのでしょうね。
なお、以下のリンクで、HMVで購入できます。
パルティータ第1番、第2番、第3番 ハイドシェック
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パルティータ第4番、第5番、第6番 ハイドシェック
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イタリア協奏曲、フランス風序曲 ハイドシェック
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バッハの二台ピアノ協奏曲作品の録音(ハイドシェック夫妻での演奏)もあるようで、そちらも到着が待ち遠しいです。
2台のピアノのための協奏曲集 ハイドシェック、T.ハイドシェック、グラン・リュエ音楽祭管
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—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-

左手のためのバッハ編曲

左手のためのバッハ編曲。先日は、私が自分で編曲した左手のためのサラバンドについて書きましたが、今回は名のある音楽家が残した左手のためのバッハの編曲を紹介しようと思います。結構数があるようで、曲目データベースの方でも、左手のための曲目が網羅できていなかったので、この機会に整理してみました。
もっとも有名なものとしては、ブラームス編曲のシャコンヌでしょう。記録によれば、1879年に書かれたようです。
Bach=Brahms/ Chacconne for left hand only
次に有名どころとして、ラヴェルから左手のための協奏曲を献呈された左手ピアニスト、ヴィットゲンシュタイン(Paul Wittgenstein,1887-1961) の残した「左手のための練習曲集」(Schule für die linke Hand)の中にも、バッハの編曲がいくつか含まれています。
 →ヴィットゲンシュタインによる編曲リスト
ところで、おそらく左手だけのピアニストとしてはもっとも古いと思われる、ゲザ・ジチー(Géza Zichy, 1849-1924) も、1883年に左手用のシャコンヌを残しています。この編曲はブラームスによるものよりもずっと難しく、結尾部には独自のカデンツを付け加えていたりと、非常にピアニスティックな編曲になっています。ブラームス編と並べて見てみるとその凄まじさがよくわかります。冒頭部分はそれほど変わりませんが、音域は1オクターブ高く設定しています。
Bach=Zichy/ Chacconne for left hand only
まだまだあります。大量のバッハの編曲を残している、イシドール・フィリップ(Isidor Philipp, 1863-1958) は、「バッハによる、左手のための4つの練習曲」という曲集を残しています。この曲集には、無伴奏ヴァイオリン曲の中から、ホ長調の前奏曲ロ短調のブーレト短調のプレスト、そしてシャコンヌ(下図)が含まれています。
Bach=Philipp/ Chacconne for left hand only

さらに、現役のピアニスト、ラウル・ソーザが編曲した半音階的幻想曲とフーガは驚異的な編曲です。1999年に来日したときに実際に聴きましたが、独自の創造を織り交ぜながら、 メロディーの音型や音域を変えつつ音楽の持つ精神そのものを見事に表現しています。これはCDでも聴けるのでぜひ聞いてみて下さい。
 →「Amazon: An Anthology for the Left Hand
ソーザの他の左手用編曲としては、3声のインヴェンション(シンフォニア) 第14番 変ロ長調もあります。





その他、ジョセフィー(Rafael Joseffy, 1852-1915)は、無伴奏ヴァイオリンパルティータのガヴォットを左手用に編曲しています。これも見事な編曲だと思います。
Bach=Joseffy/ Gavotte for left hand only
最後に紹介するのは、楽譜は見たことが無いですが、トレインという人が編曲した、無伴奏チェロ組曲第1番プレリュードの左手版の映像はYouTubeで見ることができます。

以上、私が知る左手のためのバッハ編曲を網羅したつもりです。他にご存じの方がいらっしゃれば、ぜひご教示下さい。