グールドのイタリアン・バッハ

今回もバッハオリジナルの曲の紹介です。前回バッハが編曲した協奏曲についての話題を書きましたが、かの有名なグールドのCD「未完のイタリアン・アルバム」にもマルチェッロのオーボエ協奏曲の編曲、協奏曲 ニ短調 BWV 974が収録されています。さてこのCD、定番のイタリア協奏曲も素晴らしいですが、中でも最も優れた演奏と感じるのはアルビノーニの主題によるフーガ・ロ短調。グールドならではの完璧なまでに独立した声部の歌い回しには、曲の良さと共鳴し、あらためて感動させられます。跳躍と半音階下降のある、興味をそそられるテーマが重ねられていきます。
Bach/ Fugue on a theme by Albinoni h-moll  BWV 951
(Bach/ Fugue on a theme by Albinoni h-moll BWV 951)
その他の曲としては、レチタティーヴォを大胆な解釈で演奏していく半音階的幻想曲も、グールド本人曰く好きなタイプの曲ではないとのことですが、惹きつけられる魅力を持っています。続くフーガの録音が残されなかったことが残念でなりません。

—-収録曲—-

  • バッハ: マルチェルロの主題による協奏曲 BWV 974
  • バッハ: アルビノーニの主題によるフーガ BWV 951
  • バッハ: アルビノーニの主題によるフーガ BWV 950
  • スカルラッティ: ソナタ ニ長調 K.430
  • スカルラッティ: ソナタ ニ短調 K.9
  • スカルラッティ: ソナタ ニ長調 K.13
  • C.P.E.バッハ: ヴュルテンブルク・ソナタ第1番イ短調
  • バッハ: イタリア風のアリアと変奏 BWV 989
  • バッハ: イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV 971
  • バッハ: 半音階的幻想曲 ニ短調 BWV 903/1
  • バッハ: 幻想曲 ト短調 BWV 917
  • バッハ: 幻想曲 BWV 919
  • バッハ: 幻想曲とフーガハ短調 BWV 906

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バッハが編曲した協奏曲(ソロ用)をピアノで

今回は、バッハがチェンバロソロ用に編曲した曲の、ピアノでの演奏を紹介します。バッハが既に編曲済みなので、カテゴリとしては、「ピアノ編曲」ではなく「オリジナル曲」ということになります。
編曲という作業は、バッハの得意技でもありました。編曲を通してバッハの作曲技法が確立されたとも言えます。バッハは、ヴィヴァルディやテレマン、マルチェッロ等の先輩音楽家の協奏曲を、鍵盤楽器ソロ用に編曲しました。そのうちチェンバロ用の曲が16曲と、オルガン用の曲が6曲現存します。色々なバッハ文献に必ず書いてある「イタリア体験」、バッハはこれらの編曲を通じてイタリア形式を学習したとされています。
さて、チェンバロソロで演奏できるということは、ピアノソロでも演奏できるわけですが、残念ながらその数はほとんどありません。私が持っている、実際にピアノで演奏されているCDをいくつか紹介したいと思います。
この分野で最近発売されたのが、ヒールホルツァー(Babette Hierholzer)のCD「Bach: Concerto Transcriptions」です。Amazonにはジャケット画像も曲目も載っていなかったので、ここに載せておきます。

・協奏曲 ニ短調 BWV 974 (原曲:A.マルチェッロ)
・協奏曲 ニ長調 BWV 1054 (原曲:バッハのヴァイオリン協奏曲)
・協奏曲 ト短調 BWV 975 (原曲:ヴィヴァルディ)
・協奏曲 ト短調 BWV 985 (原曲:テレマン)
・協奏曲 ハ長調 BWV 977 (原曲不明)
・協奏曲 ヘ長調 BWV 978 (原曲:ヴィヴァルディ)
・イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV 971 (オリジナル)
このCDは、各先輩作曲家ごとに偏りなく抜粋し取り上げてありますが、異色なのがバッハのヴァイオリン協奏曲 ホ長調 BWV 1042のバッハ自身による編曲版、クラヴィーア協奏曲 ニ長調 BWV 1054をピアノソロで演奏していることです。ヴァイオリンソロをチェンバロソロに編曲する際に、バッハはメロディーを装飾したり細かい音に分けたりしていますが、それを生かし、ソロパートとオケパートを両方ピアノで弾いたというものです。それ以外の曲も、全体的に大人しい演奏ではありますが、クセがなくじっくりと楽しむことができます。
この他には、アレクサンドル・タローのCD「Concertos italiens」や、シプリアン・カツァリスのCD「Italy In Bach 」があります。特にカツァリスのCDは、ヴィヴァルディ=バッハの協奏曲のピアノでの演奏のパイオニアでした。(以前にBach’s Italian Journey, Vol. 1というタイトルで発売されていたものの再発売だと思います)
なお、上に挙げたどのCDにも、編曲ではないにもかかわらず、イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV 971が収録されています。バッハの協奏曲様式の集大成として書き上げた曲ですし、CD企画としても当然のことなのでしょう。
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トリオソナタ 第4番 BWV 528 第2楽章 「アンダンテ」

先日の記事「Transcriptions by Ira Levin」で紹介したCDに収録されている、トリオソナタ 第4番 BWV 528 第2楽章 「アンダンテ」。この曲、とても渋い音楽ですが聴くうちに好きになってきました。以下の譜面はアンダンテの冒頭、オリジナルのオルガン譜です。ロ短調で、物憂げな4度進行の主題。そして次第に装飾されていきます。
Bach/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528
この曲、ピアノで弾いてもよく響きます。ストラーダルによるピアノ編曲の譜面があるので、見てみましょう。以下の楽譜は、ストラーダル編の中間部。ゆったり歩む低音の上に、二つの装飾された下降メロディが美しく絡み合います。何と切ないメロディなことでしょう。
Bach=Stradal/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528
(Bach=Stradal/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528)
ストラーダルの他の編曲は非常に音の数が多く、弾きこなすのは容易ではないですが、このアンダンテはとても弾きやすく、美しいのでお勧めです。
この曲のピアノでの演奏は、以下のリンクのCDで聴けます。

リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543

リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543は、数あるバッハのピアノ編曲の中でも相当有名な部類に入ると思います。情熱的な前奏曲と、均整がとれながらも盛り上がって終わるフーガがセットになっており、さらに比較的コンパクトにまとまっているためでしょうか、大変人気があります。リストの編曲集「6つのオルガン前奏曲とフーガ」の中でも、この曲だけが唯一多くのピアニストに取り上げられます。以下の譜例は前奏曲の冒頭部分です。
Bach=Liszt/ Prelude and Fugue in A minor BWV 543
(Bach=Liszt/ Prelude and Fugue in A minor BWV 543)
リストの編曲は、楽譜上非常にシンプルで、ペダル指示はもとより表現記号はほとんど無いため、演奏者の解釈がとてもよく出ると思います。多くのCDが出ていますが、その中でもはっきりと性格付けがついているものを3点選んで紹介しようと思います。
まずは以前も取り上げたワイセンベルクのCD「バッハ:主よ、人の望みの喜びよ」を。こちらはピアノならではの硬質な音で、迷いが無く決然とした演奏が聴けます。煌びやかな高音部、荘厳な重低音、ここぞとばかりに表出され聴いていてドラマを感じられる演奏です。ロマン派スタイルの演奏と言えるでしょう。
次に紹介するケヴィン・オールドハム(Kevin Oldham)のCD「The Art Of Piano Transcription」では、うって変わってノンレガートを基本としており、あたかもクラヴィーア曲かのような端正な演奏が聴けます。原曲を知らなければ、元がオルガン曲とはわからないことでしょう。ダンパーペダルの使用も最小限にとどめているようです。
最後に、サイのCD「シャコンヌ!~サイ・プレイズ・バッハ」です。こちらは、ワイセンベルグの解釈よりもさらに表情豊かに演奏されます。全体的にゆったりしていますが、途中でもテンポが大きく揺れ、ロマン派的なバッハが聴けます。盛り上がるところではペダルを最大限に使い轟音を鳴らします。オールドハムの演奏と比較すると、とても同じ曲とは思えません。
ダイナミック&スピーディーなワイセンベルグの演奏、シンプル&端正なオールドハムの演奏、ゆったりとロマンチックなファジル・サイの演奏、聴き比べてみるとこんなに違う弾き方があるのかと、新たな発見があるのではないでしょうか。どのCDも比較的容易に入手可能です。

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Andrea Padova plays Bach

最近は編曲モノばかりを取り上げてましたが、今日はオリジナルのクラヴィーア曲のピアノ演奏を取り上げます。前回の記事F.Busoni nach Bach Piano Worksでも紹介した、パドヴァ(Andrea Padova)のCDです。私が持っているもので、以下3点を紹介します。

彼のバッハの演奏は自由なものですが、音は独立しており比較的聞きやすい演奏で、私の好きな部類です。演奏内容も合格点ですが、それ以外に価値があるのは、どのCDも通常のピアニストが録音しないような、稀少なレパートリーが収録されていることです。「Bach: Complete Fantasias」では、「幻想曲」と名づけられた様々な曲が収録されていますが、BWV904、906、903のような有名曲だけでなく、「二つの主題による幻想曲 BWV917」、「ロンドによる幻想曲 BWV918」など、ピアノでの録音はまず見かけないような曲が入っています。その他にも、比較的有名なBWV921や、とても有名なBWV903にしても、即興的に展開されるアルペジオが新鮮です。
次に、「Bach: Keyboard Suites, Vol.1」では、初期の組曲が収録されています。「第3旋法による前奏曲とパルティータ BWV 833」や「序曲 BWV 820」、「序曲 BWV822」なども、このCDで初めて認識しました。
最後に「Bach: Piano Concertos」ですが、これはピアノ協奏曲集です。ホ長調 BWV 1053、ヘ短調 BWV 1056、ト短調 BWV 1058、とここまでは一般的な曲目ですが、最後に「BWV 1059」が収録されています。バッハ好きの方でも、あまり見かけない番号ではないでしょうか。それもそのはず、ニ短調の協奏曲BWV 1059は、現存するのは冒頭の9小節の断片のみです。ただ、この曲はカンタータ第35番の冒頭のシンフォニア(オルガン協奏曲)と同じ音楽であるため、そこから復元して演奏されることがあるようです。このCDには、パドヴァによってピアノ協奏曲として復元されたBWV 1059の第1楽章が収録されているのです。
いかがでしょうか。普段聴き慣れない、バッハの知られざる佳作を楽しんでみるのも一興かと思います。
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F.Busoni nach Bach Piano Works

今回もCDの紹介です。パドヴァ(Andrea Padova)の演奏で、「F.Busoni nach Bach Piano Works」というCDです。このピアニストは、過去にもバッハのややマイナーな幻想曲や組曲を収録したCDをいくつか出していましたが、このCDはブゾーニの編曲モノが集められています。その選曲がまた、シャコンヌやオルガン前奏曲とフーガ、コラール等の一般的な編曲ではなく、やはりマイナーな編曲が集められている点が彼らしいです。
まず、「前奏曲、フーガとアレグロ」は本来リュートのための曲とみなされていますが、そのままピアノで演奏することも可能です。原曲は短い前奏曲、中規模のフーガ、短いアレグロがそれぞれ独立した3曲としてまとめられていますが、ブゾーニは曲集の注釈の中で、フーガとアレグロをまとめて演奏することを提案しています。
Bach=Busoni/ Prelude, Fugue and Allegro BWV 998
(Bach=Busoni/ Prelude, Fugue and Allegro BWV 998)
この譜例はフーガとアレグロの移行部分。フーガの後半部で切れ目無くアレグロに移行し、アレグロの最後にフーガが厚くなって回帰するという構成で、聞いていても自然な流れになっています。つまり、「前奏曲とアレグロ付フーガ」になっているわけです。この編曲での録音は、今まではブゾーニの弟子のエゴン・ペトリによる古い録音がひとつあっただけでしたが、これでクリアなサウンドで聞けるようになったわけです。
次の「幻想曲、アダージョとフーガ」も、面白い構成の編曲です。原曲である幻想曲とフーガ BWV 906は、フーガが未完成だったこともあり一般的には幻想曲のみがよく演奏されますが、ブゾーニは未完のフーガを補筆(というか自分流に展開)させて、間にアダージョ BWV 968を挿入しています。このアダージョは無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番の第1楽章を、バッハ自身(偽作説もありますが)がチェンバロ用に編曲したものです。
もうひとつ紹介しておきたいのが、「前奏曲とフーガ、フーガと装飾」(私の勝手な直訳。原題はPreludio, fuga e fuga figurata)です。原曲は平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第5番の前奏曲とフーガ ニ長調で、ほぼそのまま前奏曲とフーガが演奏された後に、前奏曲の走句とフーガが同時に演奏されます。以下の譜例を見てください。
Busoni/ Preludio, fuga e fuga figurata
(Busoni/ Preludio, fuga e fuga figurata)
なんとうまいことを思いついたことでしょう。ブゾーニ版の平均律曲集には様々な練習のための変奏が掲載されており、このアイデアも載っています。後に、ブゾーニの曲集「若者のために」(An die Jugend)の中に収められました。
他の収録曲については、またいつか紹介します。

  • Preludio, fuga e allegro
  • Fantasia, adagio e fuga
  • Fantasia, fuga, andante e scherzo
  • Fantasia nach Bach
  • Preludio, fuga e fuga figurata
  • Fantasia in modo antico Op.33b No.4
  • Drei Albumblatter
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    Transcriptions by Ira Levin

    今日は仕事関係の研修の帰り道で、久しぶりに秋葉原の石丸電気のクラシック売り場に立ち寄り、CDを買いました。やはり店頭では、Webで見つけられないいろいろなCDに出会えます。今日買ったCDでおもしろかったのは、「Piano Transcriptions by Ira Levin」です(帰ってきて調べたらAmazonでも売っていました)。
    AmazonではCDのジャケットイメージがなかったので、ここに貼り付けてみました。
    Piano Transcriptions by Ira Levin
    このCDには、すべて演奏者・Ira Levinによって編曲された曲が収録されています。そのうち5曲がバッハのピアノ編曲で、1曲目はトッカータ ヘ長調 BWV 540で始まります。バッハのオルガントッカータというと、まずニ短調 BWV565ハ長調 BWV564を思い浮かべますが、このヘ長調 BWV 540は規模も大きく、大胆な転調部分をメンデルスゾーンが「まるで教会が崩れ落ちようとするかのようだ」と評したそうです。
    Levinの編曲は楽譜を持っていないので、代わりにダルベール編曲の冒頭を譜例として掲載します。
    Bach=d'Albert/ Toccata and Fugue in F major BWV 540
    (Bach=d’Albert/ Toccata and Fugue in F major BWV 540)
    CDで聴けるLevinによる編曲・演奏は、素晴しいものでした。冒頭のバスFは、ソステヌート・ペダルで相当長い間鳴っており、オルガンの壮大さもよく表現されています。唯一、変だなと思うのが、原曲にない独自のアレンジが現れることです(約30小節分)。本来同じテーマが繰り返されるところですが、高音部で現代音楽風に展開され、その後また原曲に戻ります。オルガン原曲もきわめて壮麗な響きがありますが、ブゾーニによるオルガン曲の編曲のように和音は3度・6度・オクターブで増強され見事に再現されています。この曲については初めてピアノによる演奏を聴いて、あらためて良さがわかりました。この1曲のためだけにでも、このCDを買った価値があったと思っています。
    なお、それ以外の曲はまだしっかり聴いてません。以下に収録曲を掲載しておきます。

    <収録曲>

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