初めてバッハのピアノ編曲を試みた音楽家

バッハの音楽は、おそらく他のどの作曲家の音楽よりもピアノ編曲されている数が多いと思いますが、それでは一体誰が最初にバッハの音楽をピアノ編曲し始めたのでしょうか。一般的には、フランツ・リスト(Franz Liszt, 1811-1886)が始めで、その後リストの弟子たち、サンサーンス、ブゾーニ、ラフマニノフ、などなど名編曲が生まれていったというのが定説ですが、色々と調べているうちに、ほぼ同年代ながらもう少し早い時期からバッハのピアノ編曲を行っていたかもしれない音楽家の名前が浮上してきました。チェルリッツキー(Ivan Karlovitsch Tscherlitzky, 1799-1865)、カタカナの読み方が良いかどうか不明ですが、何と18世紀生まれ。リストの6つのオルガン前奏曲とフーガ集が出版されたのが1850年ですが、このTscherlitzkyが編曲したものの一部が1844年に出版されていたという記録が見つかりました。Tscherlitzkyの編曲作品リストを見ると、バッハのオルガン曲のほぼすべての主要曲が含まれており、その数は50種類を超えています。残念ながらまだTscherlitzkyの編曲はあまり集まっていないのですが、ペテルブルクのどこかの図書館に埋もれているのでしょうか。リストが残したバッハのオルガン前奏曲とフーガ集はすべて網羅しているようですので、ぜひ一度リスト編とTscherlitzky編を見比べてみたいと思います。
さて、最近になってこのTscherlitzkyの経歴についてようやく少し知ることができました。ペテルブルクのオルガニストであり、ピアニストでもあり、作曲家でもあり、音楽教授でもあったそうです。今までGoogleで検索してもほとんど出てこなかったのですが、最近になってYouTubeの動画が検索結果に出てくるようになりました。下のムービーが、Tscherlitzky編曲のオルガン前奏曲とフーガ ロ短調 BWV 544です。なんと演奏者はThomas Labé。私がバッハのピアノ編曲にはまるきっかけを与えてくれたピアニストで、CD紹介blog記事など過去も何度か取り上げました。このムービーの中でも、Tscherlitzkyは初めてバッハのオルガン曲をピアノソロに編曲した人だと紹介されています。

Organ Prelude and Fugue in B Minor, BWV 544
Part I: Prelude
Transcribed for solo piano by Ivan Karlovitsch Tscherlitzky (1799-1865)
Thomas Labé, Piano
続くフーガも以下リンクで見れます。
http://jp.youtube.com/watch?v=wEJM4LYRwYg
このTscherlitzkyについて、もし詳細をご存知の方がいらっしゃればぜひとも教えてください!

ブゾーニ版バッハ集のCD 第1弾


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先月、注目すべきCDがリリースされました。「The Bach-Busoni Edition Vol.1 」というCDで、ブゾーニ版のバッハ集(クラヴィーア曲)の曲目が収録されています。演奏者は、サラ・デイヴィス・ビュークナー(Sara Davis Buechner)。このピアニスト、実は第8回チャイコフスキー国際ピアノコンクールに第6位に入賞したピアニストで、その時はDavid Buechnerでした。詳細はこちらのページをご覧ください。
このCDに収録された曲の約半分は、以前紹介したCD、Bach-Busoni Goldberg Variations [D. Buechner] (ConnoisseurSociety,1995) と同じです。この時はブゾーニ版のゴルトベルク変奏曲がメインでしたが、今回はブゾーニ版バッハ集の紹介を軸に構成されています。
さてタイトルにもあるとおり、「ブゾーニ編曲」ではなく「ブゾーニ版(Busoni-Ausgabe)」として敢えて書き分けています。これは、オルガン曲やヴァイオリン曲の編曲ではなく、バッハのクラヴィーア曲をブゾーニがピアノ曲集として編纂したものを指しています。このあたりの説明は具体例がないと若干わかりづらいので、このCDに収録された曲目についていくつか解説しておきたいと思います。
1.平均律クラヴィーア曲集からの3つの編曲
 1) Widmung
 2) Preludio, Fuga e Fuga figurata
 3) Fugue in G major for two pianos
1) のWidmung は、ブゾーニ版バッハ集の冒頭に掲げられた曲で、平均律 第1巻 第1番 ハ長調のフーガの主題とフーガの技法の未完のB-A-C-Hの主題が組み合わされた、1ページ程の短い曲です。この楽譜はまだ見たことがないのですが、以前耳コピで採譜したものがあるので冒頭部分を紹介します。
Busoni/ Widmung
(Busoni/ Widmung)
2) のPreludio, Fuga e Fuga figurata は、平均律 第1巻 第5番 二長調の前奏曲とフーガを組み合わせた曲です。詳しくは曲目データベースの紹介以前紹介したCDの記事をご覧ください。
3) のFugue in G major for two pianos は、平均律 第2巻 第15番 ト長調のフーガ(ブゾーニ版では平均律第1巻と第2巻のト長調フーガは入れ替えられています!)を、曲の構成や響きを学ぶために、2台ピアノ用の練習曲として編曲されたものです。
2.ゴルトベルク変奏曲
 ブゾーニ版のゴルトベルク変奏曲では、原曲通りアリアと30の変奏がすべて収録されていますが、演奏会用には本来この曲が持つ構成・意義を捨象し、演奏効果からのアプローチで3つのグループに分けて、全曲ではなく抜粋で弾くような提案が掲載されています。グループ分けは以下の通りで、グループ3はピアノ曲として演奏会用に大幅に手が加えられています。聞いていると驚きの連続です。最後のアリア反復は低い音域で演奏され、名残惜しむように終わります。
  グループ1: アリア、第1、2、4、5、6、7、8、10、11、13変奏
  グループ2: 第17(または14)、15、19、20、22、23、25変奏
  グループ3: 第26、28変奏、Allegro finale, Quodlibet e Ripresa(第29、30変奏とアリア反復)
3.ピアノ協奏曲 第1番 二短調
 ブゾーニ版のピアノ協奏曲 二短調もまた、当時のチェンバロ協奏曲をピアノで良く響くような改編を多く加えています。たとえば通奏低音パートとしてのピアノパートは排除し、ピアノの音域をフル活用するように低音から高音まで演奏音域を拡大しています。このブゾーニ版ピアノ協奏曲については、別途解説の記事を譜例付きで書きたいと思います。このCDではライブでの録音が収録されており、この曲の熱気が伝わってきます。
ブゾーニ版のバッハ曲集は、バッハの音楽を学ぶための様々な練習用の変奏が掲載されています。それらのいくつかは演奏会用の曲目として耐えうるものも含まれていますが、実際にこうしてCDで聴けるのは極めて稀です。このCDのタイトルにVol. 1 とあることから、Vol. 2 以降も続くことを願っています。
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マタイ受難曲 BWV 244 より「われらは涙してひざまずき」

マタイ受難曲 BWV 244 より 「われらは涙してひざまずき」
‘Wir setzen uns in Tränen nieder’ from Matthäus-Passion BWV 244

ストラーダルが手稿譜として残した編曲の数々を見たときに、いち早く「弾いてみたい!」と思った曲で、真っ先に浄書し、先日の演奏会で初めて人前で弾かせてもらいました。1921年に編曲されたまま忘れ去られ、去年まではチェコの博物館に自筆譜として眠っていたものなので、おそらく日本初演だったのではないでしょうか。
原曲はあのマタイ受難曲の終曲であり、時間にして約3時間にわたる音楽の締めくくりとして感動を誘う大合唱です。マタイ受難曲に関する詳細な解説は世にたくさん出回っているため、ここでは割愛します。
さてこの曲をピアノで弾くには相当無理があると思われますが、ストラーダルは繰り返しごとに和音を分厚くしてゆき、壮大な楽想を果敢にピアノで表現しようとしています。まず冒頭部の楽譜を見てみましょう。以下のように比較的まともな音の使い方で曲が始まります。
Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244
これが、展開を経て再現される箇所では、以下のようになってしまいます(4小節目)。左手にいたっては3オクターブにわたるアルペッジョ和音。唖然とさせられます。
Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244
ストラーダルには失礼かも知れませんが、この編曲に関しては必ずしも記譜された全ての音を弾く必要は無いと私は考えます。現実的に演奏可能な程度に音を減らしてもある程度は同じ演奏効果が得られると思い、独自に手を加えました。
一方で、ストラーダルの編曲では終始、中・低音域の厚い和音が集中していることで、若干冗長というか、もっさりと重たすぎると思います。音を減らすところで手を加えたついでに、一部のメロディー部は1オクターブ高い音域で演奏するように手を加えました。その一例を以下に挙げます。
<ストラーダルによる結尾部>
Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244


<私の結尾部の改善案>
Bach/'Wir setzen uns in Tränen nieder' from Matthäus-Passion BWV 244
弱音で奏でる1~2小節目の和音は音を少なくし、力強く歌う箇所(3~4小節目)は弾き易く音を減らした低音のアルペッジョと高音域に移したメロディーで広い音域を使うように手を加えました。
これらの改編は、当初は練習しながら思いついて書き込んでいたものでしたが、自分が演奏会に出すために何度も練るうちに改訂版としてまとめて楽譜を作り直しました。今年もまだ演奏会に出演させていただく機会が何回かあるので、ぜひこの曲も熟成させ何度か弾きたいと思っています。(よい録音が残せれば載せたいと思います)

コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766

コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766
Chorale Partita ‘Christ, der du bist der helle Tag’ BWV 766

先日の記事で取り上げた「バッハの主題による幻想曲」の中心となるバッハの原曲、コラールパルティータ「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766が、ストラーダルが手稿譜として残した編曲の中に含まれています。この曲も私が浄書したので、その一部をMIDIファイル付きで紹介します。
曲の構成としては、まずコラールの主題を提示し、その後6つの変奏が繰り広げられ(全部で7つの変奏)、最後に主題が回帰します。原曲のオルガンでも第6変奏までは手鍵盤のみで演奏でき、最後の第7変奏でペダルに主題が現れ5声で力強く締めくくられます。以下の楽譜は、ストラーダル編のコラール主題部です。
コラール主題midi
Theme - Chorale Partita 'Christ, der du bist der helle Tag' BWV 766
ストラーダルの編曲では、第1~第6変奏の途中までは比較的おとなしく、強弱やペダル記号の追記以外はほとんど原曲と同じです。あたかもクラヴィーア曲のような趣ですが、第6変奏の途中から次第に和音が拡大され、第7変奏で盛り上がりの頂点を築きます。以下の楽譜が第7変奏、一見複雑そうに見えますが、演奏はさほど難しくありません。特にこの第7変奏は強弱の対比も見事で、ピアノで演奏することにより、より華やかさが前面に出ると思います。なおこの第7変奏も、ブゾーニの「バッハの主題による幻想曲」で使われています。
第7変奏midi
7th Vars. - Chorale Partita 'Christ, der du bist der helle Tag' BWV 766
バッハのオリジナル曲で、ゴルトベルク変奏曲が圧倒的な存在感を示しているとはいえ、モーツアルト等の後世の音楽家と比べてピアノで演奏できる変奏曲の数が少ないのは事実です。こうしてピアノでバッハの変奏技法を楽しむというのも一興だと思います。

『音楽の玉手箱~露西亜秘曲集~』より

最近入手した有森博 氏のCD、「音楽の玉手箱~露西亜秘曲集~ 」がとても良く、また面白かったので紹介したいと思います。CDの内容はロシアの知られざる佳曲を選りすぐって収録しているもので、聴いたことのある曲から初めて聴く曲まで、民族色の強い曲などもあり大変楽しめます。曲目はAmazonのリンクをご参照ください。
これらの収録曲の中にバッハのピアノ編曲、G線上のアリアが収録されており、それがまた秀逸。ニコライ・ヴィゴードスキー(Nikolai Wigodsky, 1900-1939)による編曲で、楽譜は見たことがあったものの今までほとんど情報がありませんでした。これがプロの演奏で聴けるとは思ってもいませんでした。楽譜は3段(高音・中音・低音部)になっていますが、ちょうど二本の手で弾けるように編曲されており、かつ声部が見やすくなっています。以下の楽譜はその冒頭部分です。
Bach=Wigodsky/ Air from Orchestral Suite No.3 BWV 1068
興味深いのは、前半・後半ともに繰り返し部分でメロディーラインが中音部に現れるのです。
A – A’ – B – B’ と表記すると、A’とB’のメロディーを中音部で演奏しており、この部分の響きがとても新鮮で、ありがちな編曲と一線を画しています。(さらなるアレンジとして、A – A’ – B’ – B と演奏するのも良いかなと思いました)
Bach=Wigodsky/ Air from Orchestral Suite No.3 BWV 1068
ライナーノーツにもチェロによる響きをイメージさせると書いてありましたが、確かにその通りで、例えばカザルスやヨーヨーマがチェロで弾いた演奏がありますが、それと似た感じになります。そして何より、この有森氏の演奏が素晴らしいです。譜例を出して言葉で説明するのは易しいですが、これを確かに演奏するためには繊細なコントロールが必要でしょう。静かに聴き入ってしまう名演です。
何にせよ、このCDには大変楽しませてもらいました。
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新発見の曲を、早速ピアノで

バッハの初期オルガン作品が発見されたとのことで、早速この曲をピアノで弾いてみることにしました。昔、ブゾーニは「オルガンの3段譜を見ても、頭の中で編曲し即座にピアノで弾けるようになれ」と言っていたようですが・・・とりあえずピアノ2段譜に編曲(音に手は加えてませんが)してみました。オリジナルなオルガン譜は誰かが作っていると思いますが、さすがにまだピアノ編曲は誰もしてないのでは?!
コラール・ファンタジー「主なる神、我らの側にいまさずして」 BWV 1128
Bach=Tanaka/ Piano Arrangement of Chorale Fantasia BWV 1128
まだ10小節くらいまでしかできてませんが、何とかピアノでも弾けそうです。MIDIファイルmidiにもしてみました。まだこの曲の全体は手に入ってませんが、ぜひピアノで弾いてみたいです(オルガンないので・・・)。

アムランの弾く「バッハによる幻想曲」

今回はブゾーニの名作「バッハの主題による幻想曲」と、それが収録されたCDの紹介です。原題 “Fantasia nach J. S. Bach” と題されたこの曲は、1909年、彼の父の死に際して3日間で書かれた曲で、静かで瞑想的な土台の上に、力強くバッハのコラールが歌われます。この曲は、編曲というよりも「バッハの音楽をモチーフに作曲されたピアノ曲」という分類になると思います。引用しているのは以下のバッハのオルガンコラールです。
・コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766
・コラール「神の子は来たりたまえり」 BWV 703
・コラール「全能の神を讃えん」 BWV 602

ブゾーニのゆるやかに流れるような瞑想的なファンタジアで始まり、へ短調で物憂げなコラールのテーマによるコラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766 が現れます。いくつかの変奏が盛り込まれ、途中でヘ長調のコラール「神の子は来たりたまえり」BWV 703 や、コラール「全能の神を讃えん」 BWV 602が導入されると曲は輝かしく喜びに満ちた音楽に変わっていきますが、その後もヘ短調のコラール変奏は何度も再現され、終結部に向かって静かに安らかな眠りへと誘う、そんな音楽です。
さてこの曲の素晴らしさを最もよく伝えてくれている演奏として、アムランのCD「The Composer Pianists」を挙げたいと思います。ブゾーニの比較的有名な曲だけに、録音も多く残されていますが、私はこのアムランの演奏を凌ぐものをは未だ無いと思ってます(下で挙げるペトリを除いて)。
なお、この曲の初演を果たしたブゾーニの高弟、ペトリの録音「Busoni: Complete Recordings 」も大変素晴らしいです。クリアなサウンドで聴けたら文句なしなのですが。
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Hamelinの演奏
Petriの演奏

—-(ご参考)楽譜—-

Fantasia nach J. S. BachFantasia nach J. S. Bach Fantasia nach J. S. Bach by Ferruccio Busoni (1866-1924). For piano. Paperback. Edition Breitkopf. 16 pages. Published by Breitkopf and Haertel (BR.EB-3054)
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カンツォーナ ニ短調 BWV 588

カンツォーナ ニ短調 BWV 588
Canzona d-moll, BWV 588

ストラーダルが手稿譜として残した編曲の中に、この曲が含まれていました。
原曲はバッハの初期のオルガン曲(とされている)で、厳かな雰囲気を持つ対位法的な楽曲です。実は今まで、初期の作品だと勝手に侮っていたのかもしれませんが、この原曲はチェックしておらず知りませんでした。こんな良い曲があったとは。今回ストラーダル編曲の手稿譜を浄書することで、強くこの曲の魅力に惹かれました。まだまだこういう発見がきっとたくさんあると思うだけで、ますますバッハの音楽の研究熱があがるというものです。
曲は大きく2つの部分からなり、どちらも4声のフーガになっています。以下の譜例はそれぞれのテーマですが、テーマに関連があるのは明らかです。第1部は緩やかに展開されるのに対して、第2部は動きが感じられます。
第1部
Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 1st part
第2部
Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 2nd part
ニ短調という調性もあり、曲の雰囲気は最晩年の作品、「フーガの技法」に通ずるものがあると思います。そして対旋律としての半音階との調和が見事です。
さて、これをピアノで弾くとどうなるか。旋律・対旋律ともにピアノの音色で聴くとよりくっきりと聞こえ曲の輪郭が見えてくるので、これがまたとても魅力的です。ストラーダル編の手稿譜を浄書した副産物としてMIDIファイルができましたので、譜例と共に掲載します。機械の演奏ですが音として聞くことでイメージが伝わるかと思います。
第1部midi
Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 1st part
第2部midi
Bach/ Canzona d-moll BWV 588 - 2nd part

ストラダルが残した手稿譜

ストラダルは、以前取り上げた通り膨大な数のピアノ編曲を残しています。彼の作品リストは文献として残っていますが、その中で出版されずに手稿譜として残されている作品も多くあり、バッハの編曲は20種類を超えます。これらが手稿譜のまま忘れ去られてしまう(現に作成から100年近く経っています)のは大変残念なことです。そこで私は、これらを浄書して後世に残していきたい(大袈裟ですが)と考え、現時点で既に4曲浄書しました。追って紹介していきたいと思います。
さてストラダルの残したピアノ編曲は、とにかく2本の手で可能な限りたくさんの音を拾おうとしており、重厚な音楽となっています。2オクターブ以上にわたる常識はずれな和音や跳躍が平気で出てくるため、楽譜通りにインテンポで演奏するのは不可能なのではないかと思わされます。他の音楽家の編曲作品と比べても、ストラダルの編曲結果は決して傑作と呼べるものではないと思いますが、ストラダルの魅力は、他の音楽家がピアノソロに編曲しようとは思いもしない曲の編曲をたくさん残してくれたことで、強引ですが少なくとも2段譜に収まったピアノ譜として音楽を眺めることができるのです。また、原曲の声部ごとの動きがわかるような記譜になっており、原曲をイメージしやすい編曲とも言えます。
そんなストラダル編の手稿譜を浄書することは、ストラダルの編曲結果をなぞるというよりも、バッハの原曲、その作曲技法を堪能できる(勉強できる)と思います。おかげで私にとって、ストラダル編の浄書はピアノを弾くのと同じくらい楽しい作業になりました。副次的な効果として、楽譜製作ソフト・Finaleの使い方もだいぶわかってきて、入力スキル・スピードも向上しました。
バッハが先輩音楽家の楽譜を写譜することで作曲を学んでいったように、この浄書が私の編曲スキル向上に役立つともっといいなと思いつつ、気長に浄書は続けていこうと思います。

    【ストラダルが手稿譜として残したバッハ編曲作品リスト】

  • カンタータ 第12番 「泣き、嘆き、憂い、おののき」 BWV 12
  • カンタータ 第78番 「イエスよ、汝はわが魂を」 BWV 78
  • マタイ受難曲 BWV 244 より 合唱「われらは涙してひざまずき」
  • ヨハネ受難曲 BWV 245 より 合唱「安らかにお眠りください、聖なる亡骸よ」
  • 7つのオルガン曲
    1. カンツォーナ ニ短調 BWV 588
    2. 前奏曲 イ短調 BWV 569
    3. フーガ ト短調「小フーガ」 BWV 578
    4. フーガ ロ短調「コレッリの主題による」 BWV 579
    5. フーガ ハ短調 BWV 575
    6. トリオ ニ短調 BWV 583
    7. 幻想曲 ハ短調 BWV 562
  • パストラーレ ヘ長調 BWV 590
  • コラールパルティータ 「キリストよ、汝真昼の光」 BWV 766
  • コラールパルティータ 「おお神よ、汝義なる神よ」 BWV 767
  • コラールパルティータ 「喜び迎えん、慈しみ深きイエスよ」 BWV 768
  • トッカータ 嬰ヘ短調 BWV 910
  • トッカータ ハ短調 BWV 911
  • トッカータ ホ短調 BWV 914
  • 前奏曲 変ホ長調(第1版) ~ 無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV 1010 より
  • 前奏曲 変ホ長調(第2版) ~ 無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV 1010 より
  • 管弦楽組曲 第1番 ハ長調 BWV 1066
  • 管弦楽組曲 第2番 ロ短調 BWV 1067
  • 管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV 1068
  • モテット「われは憂い多く」による序奏とフーガ(リストによるオルガン編曲による)
    (カンタータ 第21番より)

Exquisite Rarities Of Piano Music

久しぶりの更新になってしまいました。さてこのタイトル「Exquisite Rarities Of Piano Music」というCDを手に入れ、その内容が大変興味深いものでしたので紹介します。タイトルの通り、極めて珍しいピアノ音楽ということですが、その中にバッハのピアノ編曲も収録されていました。カバレフスキー編曲のトリオソナタ 第2番 ハ短調です。CDのジャケットはこちら。
Exquisite Rarities Of Piano Music
Amazon等メジャーな通販サイトでは見かけませんが、Briosoというサイトで購入できます。注文するとCEOの丁寧なメッセージ付でCDが送られてきました。
さて、カバレフスキー編曲のトリオソナタ 第2番 ハ短調、これが非常に優れたピアノ編曲です。煌びやかな高音部、色彩感豊かな中音部、効果的な低音。ブゾーニのバッハの編曲、特にオルガン曲の編曲は、オルガンの重厚な響きとその音楽の本質をピアノで効果的に再現することに成功していると思いますが、一方でカバレフスキーのこの編曲はオルガンの響きを再現するのではなく、原曲の音楽素材をもとに効果的なピアノ曲として生まれ変わっていると思います。このような感想を持つ素晴らしい編曲は、他にはフェインベルグ編曲のラルゴが挙げられます。ぜひこういう曲は広く世に出回って欲しいものです。
<収録曲>
BR143 – Exquisite Rarities Of Piano Music
Rachmaninoff, Bach, Schubert, Mozart, and more
Tobias Bigger, piano
1. Rachmaninoff/ Polka de WR
2. Scarlatti=Granados/ Sonata in a, L 469
3. Brahms=Bigger/ Waltz op. 65a No. 3
4. Bach=Warren/ Aria “If Thou Art Near”, BMV 508
5. Severac/ “Les Muletiers” from Suite “Cerdana”
6. Tchaikovsky=Wild/ “At the Ball” Op. 38, No. 3
7. Bach=Kabalevsky/ Sonata for Organ, BWV 526, Allegro
8. Bach=Kabalevsky/ Sonata for Organ, BWV 526, Largo
9. Bach=Kabalevsky/ Sonata for Organ, BWV 526, Allegro vivace
10. Faure=Cartot/ Berceuse from Suite “Dolly” op. 56
11. Medtner/ Dithyrambe op. 10, No. 1
12. Schoeck=Bigger/ Lullaby
13. Purcell=Stevenson/ Hornpipe
14. Schubert=Godowsky/ “Good Night” from “Winterreise”, D 911
15. Mozart=Stradal/ Minuet from Symphony No. 40
16. Foster=Warren/ “Beautiful Dreamer”
17. Brahms=Cziffra/ Hungarian Dance No. 9
18. Handel=Wild/ Aria and Variations (“Harmonious Blacks,ith”)