hyperionレーベルが定期的にリリースしてきたバッハ編曲集、次は第7弾で、マックス・レーガー(Max Reger, 1873-1916) の編曲集、発売は2009年6月とのことです。ピアニストはマルクス・ベッカー(Markus Becker)。レーガーの編曲は音が多く重厚なもので、どのような音楽として再現されているか非常に楽しみです。hyperionバッハ編曲集 第4弾・フェインベルグ編と同様に、CD2枚組、1CDプライスだそうです。以下のhyperionサイトへのリンクで、曲の冒頭が試聴できます。やはりテンポは遅め、ロマン派風解釈っぽいです。発売後にまたレビューを書きたいです。
Bach J S: Piano Transcriptions, Vol. 7 – Max Reger
収録曲は以下の通りです。
Prelude and Fugue in D major, BWV532
O Mensch, bewein’ dein’ Sunde gross, BWV622
Durch Adams Fall ist ganz verderbt, BWV637
Ach wie nichtig, ach wie fluchtig, BWV644
Nun danket alle Gott, BWV657
Herzlich tut mich verlangen, BWV727
Wenn wir in hochsten Noten sein ‘Vor deinen Thron tret ich’, BWV668
Valet will ich dir geben, BWV736
Es ist das Heil uns kommen her, BWV638
Liebster Jesu, wir sind hier, BWV730
Vom Himmel hoch, da komm ich her, BWV606
Prelude and Fugue in E flat major ‘St Anne’, BWV552
Prelude and Fugue in E minor ‘The wedge’, BWV548
Christ lag in Todesbanden, BWV Anh 171
Ich ruf’ zu dir, Herr Jesu Christ, BWV639
An Wasserflussen Babylon, BWV653b
Komm, heiliger Geist Herre Gott, BWV651
Schmucke dich, o liebe Seele, BWV654
Das alte Jahr vergangen ist, BWV614
Toccata and Fugue in D minor, BWV565
左手のためのサラバンド(パルティータ第1番より)
2009年初めての更新は、今年初めての自編作品、「左手のためのサラバンド」です。バッハのパルティータ 第1番 変ロ長調の、4曲目サラバンド。年末にバッハ好きのピアノ仲間が右手を痛めてしまったとのことで、左手だけで弾けるバッハの曲を探してました。左手用のバッハとしては有名どころではブラームス編曲のシャコンヌなどがありますが、ちょっと気安く取り組むには難しすぎるかもしれません。バッハの曲は複数の声部が絡み合う曲がほとんどのため、なかなか左手一本で弾くのは難しいですが、そんな中、今自分が練習中のパルティータ第1番のサラバンドが、ちょっと頑張れば左手だけで弾けそうな予感がしました。そこで取り組んでみたのが、今回の編曲作品です。一段譜に収めることにこだわり、指使いまで指定して作りました。
オリジナルの冒頭の楽譜はこうなっています。
(Bach/ Sarabande from Partita No.1 BWV 825 (Original) )
ここを、主旋律はそのまま弾き、バスは主旋律の前打装飾音として扱うことで、左手だけの一段譜に編曲しました。それが以下の楽譜です。
(Bach=Tanaka/ Sarabande for left hand only from BWV 825)
実際に弾いてみると、それなりに音楽になります。前半はほとんどすべての音を拾うことに成功しましたが、後半は旋律を主張する声部が増え、特に21小節目以降はどう弾くべきか迷うところです。まずオリジナルの楽譜はこうなっています。
(Bach/ Sarabande from Partita No.1 BWV 825 (Original) )
ここは、右手トリルの継続はあきらめ、最初の装飾音として印象付けることで、あとはバスに集中することにしました。トリル後の二旋律の絡み合いは、何とか片手で弾けました。
(Bach=Tanaka/ Sarabande for left hand only from BWV 825)
果たしてこの編曲が受け入れられるかどうか不安もありましたが、この楽譜を渡したところ喜んで下さり、実際に弾けるとも仰っていたので、自己満足だけに終わらずにとても嬉しかったです。
今回と同じアイデアで、イギリス組曲 第6番のサラバンドも弾けるかもしれません。
シフラの弾くバッハ(初出含む)
超絶技巧で知られるジョルジュ・シフラ(Georges Cziffra, 1921-1994)。スタジオ、ライブともにたくさんの録音が残されていますが、バッハの録音はほとんど無く、編曲もので数曲あるのみです。その中でもブゾーニ編曲の前奏曲とフーガ 二長調 BWV 532はお気に入りだったようで、ライブ録音、スタジオ録音、また映像でも残されています。
ところで最近、シフラの没後15年記念企画として
ジョルジュ・シフラ/スタジオ録音全集1956-1986というCD40枚組のボックスが発売されましたが、その中に今まで未公開だった曲がいくつか入っていたので、つい買ってしまいました。それがかの有名なトッカータとフーガ ニ短調 BWV 565のプライベート録音で、これがまた面白い編曲。彼のスタジオ録音特有の淡々とした演奏。ブゾーニ編曲と書いてありますが、明らかに多くの音をいじっており、シフラ編曲と言っても良いでしょう。この曲は以前blog記事で書いた通りたくさんの編曲を見てきましたが、他のどれとも異なります。高音や低音に付け加えられた派手な飾り付け、半音階進行の対旋律の追加など、オルガン効果をピアノで出そうという編曲というよりも見世物的な要素が強いと思います。シフラはなぜこの曲の録音を公開しなかったのか、真相はわかりませんが、シフラ編曲版を作る実験段階だったのかも知れません。何にせよ、このような面白い編曲も聴けたので、40枚組を買った意義を十分感じることができました。
—-(ご参考)シフラのバッハ編曲物レパートリーは以下の通りです。
・前奏曲とフーガ ニ長調 BWV 532 (1962年Live、1968年、1981年)
・コラール『目覚めよ、と呼ぶ声あり』 BWV 645 (1968年)
・コラール『汝のうちに喜びあり』BWV 615 (1968年)
・コラール『今ぞ喜べ、愛するキリスト者の仲間たち』BWV 734 (1968年)
・トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565 (1965年, Collection G. Cziffra)
※なお、CDの曲目にも、ディスコグラフィにも、BWV 629とありますが、BWV 734の間違いです。
—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-
ファジル・サイのコンサート
今日は、すみだトリフォニーホールでファジル・サイのピアノリサイタルに行ってきました。
サイの演奏会は、何日かあるリサイタルシリーズの中で大抵1日はバッハかバッハの編曲物が含まれているので、今までも何度か足を運んできました。今回も前半はオールバッハ(の予定でしたが、曲目変更でパッサカリアからヤナーチェクのソナタになってました)。中でも私が最も楽しみにしていた曲目が、初めて聴くことになるサイ編曲の幻想曲 ト短調 BWV 542。オルガン曲の中でも特に有名なこの曲、サイは一体どのように編曲して魅せてくれるのか。曲目に「幻想曲」とだけ書いてあって、続くフーガは弾いてくれるのか、など心配しつつ、幻想曲部分が始まりました。出だしは非常にシンプル、改訂前のリスト編曲と同じような始まり方でした。幻想曲について言えば、私の予想は完全に裏切られ(悪い意味ではなく)、オルガンの響きを思わせる迫力のある音使いはほとんどありませんでした。リスト編などでは多くのピアニストが盛り上げる部分を、全体的に速いテンポで微妙なニュアンス(弱め)の音使いをしていて、新鮮な趣でした。その効果はフーガに入ってようやく気づかされました。フーガはかなりの迫力をもった編曲で、サイ得意の大音量の低音を鳴らしていました。きっとこの曲もそのうち楽譜として出版されることでしょう。
サイの弾くバッハは、シャコンヌにしても、オリジナルのフランス組曲にしても、強弱・緩急が激しく、実を言うと私好みの解釈ではありませんが、演奏会で弾く姿とともに入ってくる音楽としては惹きこまれていく感覚があり、不思議です。独特のリズム感があるのでしょうか。
終演後のサイン会で、サイ編曲のパッサカリアの楽譜にサインしてもらいました。当初プログラムに予定されていたサイ編のパッサカリアがなくなってしまったのは残念でしたが、なかなか楽しめた演奏会でした。今回のプログラムは以下の通り。
ファジル・サイ・プロジェクト in Tokyo 2008
2008/12/4(木) 第1夜:ピアノ・ソロ
バッハ=ブゾーニ/シャコンヌ
バッハ=サイ/幻想曲 ト短調 BWV542
バッハ/フランス組曲第6番 ホ長調 BWV817
ヤナーチェク/ソナタ 1.X.1905
(休憩)
スカルラッティ/ソナタ へ長調 K.378、ニ短調 K.1、ハ長調 K.159
ラヴェル/ソナチネ
プロコフィエフ/ソナタ第7番 「戦争ソナタ」
(アンコール)
ムソルグスキー/展覧会の絵(途中から)
サイ/黒い大地
ベートーヴェン/ソナタ「テレーゼ」
初めてバッハのピアノ編曲を試みた音楽家
バッハの音楽は、おそらく他のどの作曲家の音楽よりもピアノ編曲されている数が多いと思いますが、それでは一体誰が最初にバッハの音楽をピアノ編曲し始めたのでしょうか。一般的には、フランツ・リスト(Franz Liszt, 1811-1886)が始めで、その後リストの弟子たち、サンサーンス、ブゾーニ、ラフマニノフ、などなど名編曲が生まれていったというのが定説ですが、色々と調べているうちに、ほぼ同年代ながらもう少し早い時期からバッハのピアノ編曲を行っていたかもしれない音楽家の名前が浮上してきました。チェルリッツキー(Ivan Karlovitsch Tscherlitzky, 1799-1865)、カタカナの読み方が良いかどうか不明ですが、何と18世紀生まれ。リストの6つのオルガン前奏曲とフーガ集が出版されたのが1850年ですが、このTscherlitzkyが編曲したものの一部が1844年に出版されていたという記録が見つかりました。Tscherlitzkyの編曲作品リストを見ると、バッハのオルガン曲のほぼすべての主要曲が含まれており、その数は50種類を超えています。残念ながらまだTscherlitzkyの編曲はあまり集まっていないのですが、ペテルブルクのどこかの図書館に埋もれているのでしょうか。リストが残したバッハのオルガン前奏曲とフーガ集はすべて網羅しているようですので、ぜひ一度リスト編とTscherlitzky編を見比べてみたいと思います。
さて、最近になってこのTscherlitzkyの経歴についてようやく少し知ることができました。ペテルブルクのオルガニストであり、ピアニストでもあり、作曲家でもあり、音楽教授でもあったそうです。今までGoogleで検索してもほとんど出てこなかったのですが、最近になってYouTubeの動画が検索結果に出てくるようになりました。下のムービーが、Tscherlitzky編曲のオルガン前奏曲とフーガ ロ短調 BWV 544です。なんと演奏者はThomas Labé。私がバッハのピアノ編曲にはまるきっかけを与えてくれたピアニストで、CD紹介やblog記事など過去も何度か取り上げました。このムービーの中でも、Tscherlitzkyは初めてバッハのオルガン曲をピアノソロに編曲した人だと紹介されています。
Organ Prelude and Fugue in B Minor, BWV 544
Part I: Prelude
Transcribed for solo piano by Ivan Karlovitsch Tscherlitzky (1799-1865)
Thomas Labé, Piano
続くフーガも以下リンクで見れます。
http://jp.youtube.com/watch?v=wEJM4LYRwYg
このTscherlitzkyについて、もし詳細をご存知の方がいらっしゃればぜひとも教えてください!
The BachPod
The digital Bach-Edition with an iPod classic
小旅行から帰ってきたら、注文していたバッハポッドが届いていました。hänsslerから出ていたCD172枚のバッハ全集が、120GBのiPod classicに全部入っています。CDのジャケット、曲目、声楽曲は歌詞まで、全部入ってます。BachPodというネーミングも良いです。
なお嬉しい誤算として、当初は80GBというスペック(ジャケットにも80GBと明記されています)でしたが、9月に全面リニューアルされたiPodにあわせて120GBになっていました。
私は今までもいろいろなデジタル音楽プレーヤーを使ってきましたが、iPodは初めてです。いろいろと出来ることがありそうなので、これからゆっくり楽しんでいきたいと思います。そして、私のコレクションをどんどんこのBachPodに詰め込んでいきたいです。
<ご参考>
HMVでの紹介
バッハ大全集-デジタル・バッハ・エディション(iPod120GB)
発売元hänsslerのサイト
http://www.haenssler-classic.de/
本家BachPod Projectのサイト
http://www.bachpod.com/
ブゾーニ版バッハ集のCD 第1弾
先月、注目すべきCDがリリースされました。「The Bach-Busoni Edition Vol.1 」というCDで、ブゾーニ版のバッハ集(クラヴィーア曲)の曲目が収録されています。演奏者は、サラ・デイヴィス・ビュークナー(Sara Davis Buechner)。このピアニスト、実は第8回チャイコフスキー国際ピアノコンクールに第6位に入賞したピアニストで、その時はDavid Buechnerでした。詳細はこちらのページをご覧ください。
このCDに収録された曲の約半分は、以前紹介したCD、Bach-Busoni Goldberg Variations [D. Buechner] (ConnoisseurSociety,1995) と同じです。この時はブゾーニ版のゴルトベルク変奏曲がメインでしたが、今回はブゾーニ版バッハ集の紹介を軸に構成されています。
さてタイトルにもあるとおり、「ブゾーニ編曲」ではなく「ブゾーニ版(Busoni-Ausgabe)」として敢えて書き分けています。これは、オルガン曲やヴァイオリン曲の編曲ではなく、バッハのクラヴィーア曲をブゾーニがピアノ曲集として編纂したものを指しています。このあたりの説明は具体例がないと若干わかりづらいので、このCDに収録された曲目についていくつか解説しておきたいと思います。
1.平均律クラヴィーア曲集からの3つの編曲
1) Widmung
2) Preludio, Fuga e Fuga figurata
3) Fugue in G major for two pianos
1) のWidmung は、ブゾーニ版バッハ集の冒頭に掲げられた曲で、平均律 第1巻 第1番 ハ長調のフーガの主題とフーガの技法の未完のB-A-C-Hの主題が組み合わされた、1ページ程の短い曲です。この楽譜はまだ見たことがないのですが、以前耳コピで採譜したものがあるので冒頭部分を紹介します。
(Busoni/ Widmung)
2) のPreludio, Fuga e Fuga figurata は、平均律 第1巻 第5番 二長調の前奏曲とフーガを組み合わせた曲です。詳しくは曲目データベースの紹介や以前紹介したCDの記事をご覧ください。
3) のFugue in G major for two pianos は、平均律 第2巻 第15番 ト長調のフーガ(ブゾーニ版では平均律第1巻と第2巻のト長調フーガは入れ替えられています!)を、曲の構成や響きを学ぶために、2台ピアノ用の練習曲として編曲されたものです。
2.ゴルトベルク変奏曲
ブゾーニ版のゴルトベルク変奏曲では、原曲通りアリアと30の変奏がすべて収録されていますが、演奏会用には本来この曲が持つ構成・意義を捨象し、演奏効果からのアプローチで3つのグループに分けて、全曲ではなく抜粋で弾くような提案が掲載されています。グループ分けは以下の通りで、グループ3はピアノ曲として演奏会用に大幅に手が加えられています。聞いていると驚きの連続です。最後のアリア反復は低い音域で演奏され、名残惜しむように終わります。
グループ1: アリア、第1、2、4、5、6、7、8、10、11、13変奏
グループ2: 第17(または14)、15、19、20、22、23、25変奏
グループ3: 第26、28変奏、Allegro finale, Quodlibet e Ripresa(第29、30変奏とアリア反復)
3.ピアノ協奏曲 第1番 二短調
ブゾーニ版のピアノ協奏曲 二短調もまた、当時のチェンバロ協奏曲をピアノで良く響くような改編を多く加えています。たとえば通奏低音パートとしてのピアノパートは排除し、ピアノの音域をフル活用するように低音から高音まで演奏音域を拡大しています。このブゾーニ版ピアノ協奏曲については、別途解説の記事を譜例付きで書きたいと思います。このCDではライブでの録音が収録されており、この曲の熱気が伝わってきます。
ブゾーニ版のバッハ曲集は、バッハの音楽を学ぶための様々な練習用の変奏が掲載されています。それらのいくつかは演奏会用の曲目として耐えうるものも含まれていますが、実際にこうしてCDで聴けるのは極めて稀です。このCDのタイトルにVol. 1 とあることから、Vol. 2 以降も続くことを願っています。
—-(ご参考)Amazonでの入手方法—-
BWV 1128のピアノ編曲完成
コラール・ファンタジー「主なる神、我らの側にいまさずして」 BWV 1128
Chorale Fantasia ‘Wo Gott der Herr nicht bei uns hält’ BWV 1128
先日入手した新発見曲のオルガン譜をもとに、全曲を通してピアノソロで演奏できるように2段譜にしてみました。ほとんどの箇所は左右の手にうまく振り分けることで、原曲の音を全く変えることなくすべての音を拾うことができました(10度の跳躍は1か所のみ)。
冒頭箇所は前回も紹介しましたが、以下のように始まります。(原コラールのメロディはこちらのサイトをご参照ください)
曲の中盤では、冒頭でも変形されて出てきたコラールのメロディーをテーマに、常に対旋律に支えられながらフーガ風に繰り広げられます。
そして終結部は、より自由にトッカータ風に演奏されます。サステインペダルを使って、ペダル声部を残したまま演奏すると良いと思います。
ペダル声部をオクターブしたり、和音を厚くしてピアノ曲として派手に編曲できそうな箇所もたくさんありますが、まずはおとなしく原曲に忠実に再現することに注力して編曲しました。
新発見のオルガン曲(BWV 1128)の楽譜
2008年4月15日に新発見されたバッハのオルガン曲、コラール・ファンタジー「主なる神、我らの側にいまさずして」 BWV 1128の楽譜(オルガン譜)を、つい先週入手しました。下の画像は楽譜の表紙です。
(詳細は出版社のサイトをご参照ください。)
早速、このオルガン譜を見ながらピアノで通して弾いてみました。多少の工夫をすれば、二本の腕で演奏できそうです。以前、Web上にあった自筆譜の画像を元にして冒頭箇所をピアノ編曲してみましたが、ようやくこの曲の全体が見えたので、ぜひ全体を通してピアノ編曲してみようと思います。
2008.7.14 現在の進捗:19小節目まで(全85小節)
——
(2008.7.17追記)
アカデミアでも入手できるようです。Web上の案内はこちら。
BCJブランデンブルク全曲演奏会
今日はピアノでバッハを楽しむ観点からは離れて、オリジナルのバッハの話題を。バッハ・コレギウム・ジャパンによるブランデンブルク協奏曲の全曲演奏会に行ってきました。生演奏でブランデンブルク協奏曲の全6曲を聴ける機会はなかなか無いと思います。私も今回が初めてでした。冒頭に鈴木雅明氏が曲の説明と共に今回の「試み」について解説してくれました。
一つ目は、近年復元された「ヴィオロンチェロ・ダ・スパラ」という、ヴァイオリンやヴィオラのように肩に構えるチェロを使用すること。肩に構えるというのも、根拠はモーツアルトの父・レオポルトが何かに書き残した「最近ではチェロを足で抱えて演奏するようになった」という記述から、『ならば少し前までは肩に構えていた』と想像してみたことらしいです。チェロよりも若干音量が弱くなるようで、ヴァイオリンやヴィオラとのアンサンブルのバランスがよくなるとのことです。たとえば第3番でヴァイオリン、ヴィオラ、ヴィオロンチェロ・ダ・スパラがそれぞれ3人ずつ揃って繰り広げる合奏協奏曲でその真価を聴くことができました。
二つ目は、ブランデンブルク第3番のたった1小節・2和音しかない第2楽章についての補完。今まで私はあまり意識したことがなかったのですが、鈴木氏曰く三位一体を意識して、第3番であり3つの楽器がそれぞれ3人受け持ち、3楽章構成にするために、3という数字にこだわったとのことです。そこで3台チェンバロのための協奏曲ハ長調の第2楽章を、ト短調に移して演奏していました。もともとこの3台チェンバロのための協奏曲も原曲は消失した3台ヴァイオリンのための協奏曲であったと言われており、それも楽器編成にマッチしたとのことです。
今回の演奏会ではどの曲も素晴らしかったのですが、私は前半の最終曲である第3番が特に良かったと思いました。第3番の第1楽章は、CDで音だけを聴いているだけではなかなかわからない、各奏者の共同作業、同じ楽器であっても合奏と掛け合いがある様が視覚的にも楽しめました。第2楽章は先に書いたとおり、3台チェンバロのための協奏曲ハ長調 BWV1064 の第2楽章からの転用。私は先入観が強く、ブランデンブルクの一部として聴くことはできませんでしたが、プログラムにない曲を追加で聴けたような新鮮さがありました。第3楽章は1楽章以上に、各奏者がたたみかけるように矢継ぎ早にメロディーを掛け合い、それが興奮させ曲の中に巻き込んでいきました。
楽器編成が全部異なるこのブランデンブルク協奏曲を、一夜にして全曲聴けたというのはとても貴重な体験だと思います。大満足で帰途につきました。私が「ピアノでバッハを楽しむ」ことは、今回の演奏会のように「古楽器によるバッハの響きの復元の試み」とはほぼ対極に位置しますが、バッハを楽しむことには変わりはありません。ブランデンブルク協奏曲にもいくつかのピアノ編曲が残されていますので、今回の演奏会で刺激を受け、自分でもピアノでブランデンブルク協奏曲を弾いて楽しみたいと強く思いました。