レスチェンコの弾くバッハ編曲

ロシアの若手ピアニスト、ポリーナ・レスチェンコがバッハの編曲モノもいくつか録音しているため、紹介したいと思います。このピアニストは、かのアルゲリッチがお勧めの新鋭の一人で、過去にEMIからリリースされた「Bach/Brahms/Chopin: Piano Recital」というCDでこの人を知りました。リストとブラームスのパガニーニ変奏曲や、ショパンの華麗なるポロネーズなどの華やかな曲のなかで、落ち着いた佇まいのラルゴ(バッハ=フェインベルグ)が演奏されます。確か2003年の別府アルゲリッチ音楽祭でもこの曲が演奏され、さらに最近では2007年7月にすみだトリフォニーでも演奏されました。NHKの連載番組「ぴあのピア」でも放映されましたが、残念ながらこのラルゴは途中でカットされてしまっていました。このラルゴは私の最もお気に入りな曲の一つですが、しかし、レスチェンコのこの曲の演奏はあまり気に入りませんでした。独立した3声のメロディーのはずが、右手のメロディー+左手の伴奏みたいに聞こえてきてしまう演奏です。またいい気分で聴いている中で突然大音量の低音が鳴り響いたりするところもいただけません。
一方で、以前の記事、リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543として、この曲についてのいろいろな解釈のCDを紹介しましたが、このレスチェンコの「Liszt Recital」(このアルバムはハイブリッド・タイプのSACDです)に収録された同曲の演奏は、最も過激な解釈でかつピアノ独特の良さが出ていると思います。度を越した自由な溜めや、踏みっぱなしにしたダンパーペダル。はじめてこの録音を聴いたときは相当びっくりしました。原曲を敢えて思い出さないように聴くこと(これが大切!)で、自然なピアノ曲として聴こえてきます。こんなリストの曲がありそうです。このCDではリストのソナタやファウスト・ワルツなども驚異的なテクニックで魅せます。前述のラルゴはイマイチでしたが、前奏曲とフーガ イ短調の演奏は一聴の価値アリです。今後他のバッハの超絶技巧編曲もぜひ手がけて欲しいものです。
Liszt Recital収録曲目
バッハ=リスト/前奏曲とフーガ イ短調
バッハ=ブゾーニ/シャコンヌ
・グノー/リスト/歌劇『ファウスト』のワルツ
・リスト/ピアノ・ソナタ ロ短調
Bach/Brahms/Chopin: Piano Recital収録曲目
・リスト/スペイン狂詩曲
・クライスラー=ラフマニノフ/愛の悲しみ
・ショパン/ロンド 作品16
・ブラームス/パガニーニ変奏曲
バッハ=フェインベルグ/ラルゴ
・リスト/パガニーニ練習曲 第6番
・ショパン/アンダンテスピアナートと華麗なるポロネーズ
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ウィーン旅行での収穫

しばらく更新が滞ってしまいました。11/14~21まで、ザルツブルクとウィーンへ旅行に行ってきました。ウィーンでは、バッハというよりもモーツアルトやシュトラウスが中心でしたが、観光の合間に立ち寄った楽譜店にて、持っていなかったバッハ編曲モノの楽譜を3点ほど入手しました。小品を2曲、大曲を1曲。
まずは、アレクサンドル・タロー編曲の「シチリアーノ(ヴィヴァルディの協奏曲のオルガン編曲より)」と「アンダンテ(原作者不明の協奏曲のクラヴィーア編曲より)」です。両曲ともにアレクサンドル・タローのCD「Concertos italiens 」に収録されているものです。
Bach=Tharaud/ Sicilianne from Concerto nach Vivaldi d-moll  BWV 596
(Bach=Tharaud/ Sicilianne from Concerto nach Vivaldi d-moll BWV 596)
次に大曲の方は、ファジル・サイによる「パッサカリア ハ短調」の編曲。ただ分厚い和音だけでなく高音域をよく使ったピアニスティックな編曲になっています。
Bach=Say/ Passacaglia c-moll  BWV 582
(Bach=Say/ Passacaglia c-moll BWV 582)
こちらは音源は出ていないものの、来日演奏会でも何度か演奏されており、私も王子ホールで聴きました。終演後のサイン会で私は「楽譜を出版するつもりがあるか?」という質問をしましたが、「もちろんそのつもりだ」という答えをもらっていました。SCHOTT社の「The Virtuoso Piano Transcription Series」の第12巻として今年出版されたばかりのようです。帰国後検索してみたところ、楽譜オンラインショップ di-arezzoでも入手できるようです。
追記: SheetMusicPlusでのリンクはこちらです。

Passacaglia and Fugue in C MinorLook InsidePassacaglia and Fugue in C Minor (The Virtuoso Piano Transcription Series, Volume 12). By Johann Sebastian Bach (1685-1750). Arranged by Fazil Say. This edition: ED20137. Piano. 20 pages. Published by Schott Music (HL.49016112)
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バッハの主題によるオクターブ練習曲

バッハの音楽のピアノ編曲というと、たいていは「ピアノ演奏会」用の芸術作品を目指しているもの(成功しているかどうかは別として)が多いと思いますが、今日は思い切って「練習曲」としているもので、その中でも純粋なテクニック向上のためを目的とした曲を紹介します。
フランスの名ピアニストであり名教師として有名であるフィリップ(Isidor Philipp)は、大量のバッハの編曲を残していますが、その中でも一風変わったものとして、「バッハの主題によるオクターブ練習曲 作品53」(Etudes En Octaves d’apres J. S. Bach Op.53)があります。これは、バッハの2声の楽曲を左右ともオクターブで弾かせるというものです。全15曲あり、構成(原曲との対応)は以下の通りです。

Etudes Original Works No.
第1番 2声のインヴェンション 第2番 ハ短調 BWV 773
第2番 2声のインヴェンション 第5番 変ホ長調 BWV 776
第3番 2声のインヴェンション 第8番 ヘ長調 BWV 779
第4番 2声のインヴェンション 第9番 ヘ短調 BWV 780
第5番 2声のインヴェンション 第11番 ト短調 BWV 782
第6番 2声のインヴェンション 第13番 イ短調 BWV 784
第7番 2声のインヴェンション 第15番 ロ短調 BWV 786
第8番 フランス組曲 第2番 ハ短調 「メヌエット」 BWV 813/4
第9番 フランス組曲 第2番 ハ短調 「ジーグ」 BWV 813/7
第10番 フランス組曲 第3番 ロ短調 「前奏曲」 BWV 814/1
第11番 フランス組曲 第3番 ロ短調 「ジーグ」 BWV 814/7
第12番 イギリス組曲 第1番 イ長調 「ブーレ」 BWV 806/6
第13番 イギリス組曲 第2番 イ短調 「ジーグ」 BWV 807/7
第14番 パルティータ 第3番 イ短調 「幻想曲」 BWV 827/1
第15番 平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第10番
ホ短調 「フーガ」
BWV 855/2

いくつか実際に楽譜を見てみましょう。まずは1曲目、原曲はインヴェンション第2番です。
Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 1
(Philipp/ Etudes d’Octaves d’apres J. S. Bach No. 1)
2声のインヴェンションをもとにした曲が続いた後、組曲で2声で書かれた曲が対象になっています。たとえば第12番では、イギリス組曲第1番のブーレを元にしています。
Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 12
(Philipp/ Etudes d’Octaves d’apres J. S. Bach No. 12)
第14番では、パルティータ第3番のファンタジアです。
Philipp/ Etudes d'Octaves d'apres J. S. Bach No. 14
(Philipp/ Etudes d’Octaves d’apres J. S. Bach No. 14)
なおこの「Etudes En Octaves d’apres J. S. Bach Op.53」以外にも、同じアイデアの曲集があり、それは実際に私も持っています。Durandから出版されている、「Etudes d’Octaves」で、同じようにオクターブ練習曲ではありますが、クレメンティ、ショパンなどの曲を元にしています。その中に1曲バッハのインヴェンション 第14番 変ロ長調を元にした練習曲が収められており、この曲は「Etudes En Octaves d’apres J. S. Bach Op.53」には収録されていません。
Philipp/ Etudes d'Octaves No. 4 (d'apres J. S. Bach)
(Philipp/ Etudes d’Octaves No. 4 (d’apres J. S. Bach))
バッハオリジナルのインヴェンションは、技巧を習得するためだけの練習曲ではなく、作曲技法の手引きでもあり豊かな内容をもつものでしたが、ここでは純粋な技巧練習曲になってしまっています。一方でオクターブ奏法はバッハのピアノ編曲にチャレンジする上で避けて通れないものです。ピアノ編曲を演奏できるようになるためのメソッドがあるとすれば、この曲集もカリキュラムに含まれるのではないかと勝手に想像をふくらませて今回の記事は終わりにします。

トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565 (1)

トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565は、バッハの音楽のピアノ編曲を語る上で欠かすことはできません。あまりに有名すぎて、この曲を取り上げて記事を書くのは躊躇われます。明らかに1回の記事で想いのすべてを書ききることはできないと思いましたので、続編を思わせるタイトルにしました。
原曲はオルガン曲。タララ~と始まる激しい下降音形と、続く大量の音と早急なパッセージとで情熱的なトッカータ。間にフーガが演奏され、最後にまた激しく盛り上がるという、後世の音楽家たちにとっても、ピアノの腕自慢として弾くのにもってこいの楽想。オリジナルの冒頭はこうなっています。
Bach/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
(Bach/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)
さて、私が保有するこの曲のピアノ編曲版の楽譜は20種類を超えており、まだまだ他にもどんどん出てくる気がします。今日はその中から4つほど紹介します。まずは最も有名なブゾーニによる編曲。下の方でいろいろな編曲を紹介しますが、他の編曲はピアニスティックな派手な効果を狙おうと、色々な工夫(悪あがき?)をしているのに対して、ブゾーニ編がもっとも原曲の構成に忠実です。バッハの楽譜の通りのリズムで音を配置した上で、音を分厚くしたりペダル効果をめいいっぱい使った編曲です。
Bach=Busoni/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
(Bach=Busoni/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)
一方で、この曲のピアノ編曲としては草分け的な存在なのが、タウジッヒによる編曲。出だしのトリル(A-B-A-B-A)が、現代の感覚では違和感がありますが、ブゾーニ編よりも派手で、時には原曲の音の形を変えて、ピアノならではの演奏効果を狙っています。
Bach=Tausig/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
(Bach=Tausig/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)
なお、オーストラリアのピアニスト、グレインジャー(ブゾーニの弟子の一人)はブゾーニ編とタウジッヒ編の良いところを混ぜ合わせて演奏会で弾いていたようです。ハワードがその演奏をグレインジャー編として譜面に起こしており、数名のピアニストがCDに録音しています。私は、このグレインジャー編がピアノで弾いた際に最もバランスが良いと思っており、演奏会で何度か弾いたこともあります。
続けて紹介する2曲は、比較的マイナーなものになりますが、冒頭の編曲手法の違いが如実に出ていることから紹介したいと思います。まずは、ピアニストとしては有名なコルトーによる編曲。コルトー編の楽譜は何度も店頭で見かけたことがあり、日本でも手に入りやすいものだと思います。冒頭のトリルからして、右手はA-A-Aのオクターブ移動、左手はA-G-A。下降音形も、3連符の連続。ペダル低音の上に乗る和音進行も分散和音化。冒頭部分だけを見ても、いろいろな工夫をしようとしています。
Bach=Cortot/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
(Bach=Cortot/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)
次に、ストラーダルによる編曲。これまた重たい編曲で、すべてオクターブ和音で演奏されます。ペダル低音の上に乗る和音進行は、コルトー編よりもさらに派手に、広い音域のスケールで盛り上げています。続きもずっとこの調子で派手に展開されます。
Bach=Stradal/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565
(Bach=Stradal/ Toccata and Fugue in D minor BWV 565)
今日紹介したもののうち、ブゾーニ編、タウジッヒ編、グレインジャー編については以下に紹介するCDで聞くことができます。
続きは、また別の日に書きます。


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Busoni編
Tausig編
Grainger編

トリオソナタ 第4番 BWV 528 第2楽章 「アンダンテ」

先日の記事「Transcriptions by Ira Levin」で紹介したCDに収録されている、トリオソナタ 第4番 BWV 528 第2楽章 「アンダンテ」。この曲、とても渋い音楽ですが聴くうちに好きになってきました。以下の譜面はアンダンテの冒頭、オリジナルのオルガン譜です。ロ短調で、物憂げな4度進行の主題。そして次第に装飾されていきます。
Bach/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528
この曲、ピアノで弾いてもよく響きます。ストラーダルによるピアノ編曲の譜面があるので、見てみましょう。以下の楽譜は、ストラーダル編の中間部。ゆったり歩む低音の上に、二つの装飾された下降メロディが美しく絡み合います。何と切ないメロディなことでしょう。
Bach=Stradal/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528
(Bach=Stradal/ Andante from Trio Sonata No.4 BWV 528)
ストラーダルの他の編曲は非常に音の数が多く、弾きこなすのは容易ではないですが、このアンダンテはとても弾きやすく、美しいのでお勧めです。
この曲のピアノでの演奏は、以下のリンクのCDで聴けます。

リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543

リスト編曲の前奏曲とフーガ イ短調 BWV 543は、数あるバッハのピアノ編曲の中でも相当有名な部類に入ると思います。情熱的な前奏曲と、均整がとれながらも盛り上がって終わるフーガがセットになっており、さらに比較的コンパクトにまとまっているためでしょうか、大変人気があります。リストの編曲集「6つのオルガン前奏曲とフーガ」の中でも、この曲だけが唯一多くのピアニストに取り上げられます。以下の譜例は前奏曲の冒頭部分です。
Bach=Liszt/ Prelude and Fugue in A minor BWV 543
(Bach=Liszt/ Prelude and Fugue in A minor BWV 543)
リストの編曲は、楽譜上非常にシンプルで、ペダル指示はもとより表現記号はほとんど無いため、演奏者の解釈がとてもよく出ると思います。多くのCDが出ていますが、その中でもはっきりと性格付けがついているものを3点選んで紹介しようと思います。
まずは以前も取り上げたワイセンベルクのCD「バッハ:主よ、人の望みの喜びよ」を。こちらはピアノならではの硬質な音で、迷いが無く決然とした演奏が聴けます。煌びやかな高音部、荘厳な重低音、ここぞとばかりに表出され聴いていてドラマを感じられる演奏です。ロマン派スタイルの演奏と言えるでしょう。
次に紹介するケヴィン・オールドハム(Kevin Oldham)のCD「The Art Of Piano Transcription」では、うって変わってノンレガートを基本としており、あたかもクラヴィーア曲かのような端正な演奏が聴けます。原曲を知らなければ、元がオルガン曲とはわからないことでしょう。ダンパーペダルの使用も最小限にとどめているようです。
最後に、サイのCD「シャコンヌ!~サイ・プレイズ・バッハ」です。こちらは、ワイセンベルグの解釈よりもさらに表情豊かに演奏されます。全体的にゆったりしていますが、途中でもテンポが大きく揺れ、ロマン派的なバッハが聴けます。盛り上がるところではペダルを最大限に使い轟音を鳴らします。オールドハムの演奏と比較すると、とても同じ曲とは思えません。
ダイナミック&スピーディーなワイセンベルグの演奏、シンプル&端正なオールドハムの演奏、ゆったりとロマンチックなファジル・サイの演奏、聴き比べてみるとこんなに違う弾き方があるのかと、新たな発見があるのではないでしょうか。どのCDも比較的容易に入手可能です。

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F.Busoni nach Bach Piano Works

今回もCDの紹介です。パドヴァ(Andrea Padova)の演奏で、「F.Busoni nach Bach Piano Works」というCDです。このピアニストは、過去にもバッハのややマイナーな幻想曲や組曲を収録したCDをいくつか出していましたが、このCDはブゾーニの編曲モノが集められています。その選曲がまた、シャコンヌやオルガン前奏曲とフーガ、コラール等の一般的な編曲ではなく、やはりマイナーな編曲が集められている点が彼らしいです。
まず、「前奏曲、フーガとアレグロ」は本来リュートのための曲とみなされていますが、そのままピアノで演奏することも可能です。原曲は短い前奏曲、中規模のフーガ、短いアレグロがそれぞれ独立した3曲としてまとめられていますが、ブゾーニは曲集の注釈の中で、フーガとアレグロをまとめて演奏することを提案しています。
Bach=Busoni/ Prelude, Fugue and Allegro BWV 998
(Bach=Busoni/ Prelude, Fugue and Allegro BWV 998)
この譜例はフーガとアレグロの移行部分。フーガの後半部で切れ目無くアレグロに移行し、アレグロの最後にフーガが厚くなって回帰するという構成で、聞いていても自然な流れになっています。つまり、「前奏曲とアレグロ付フーガ」になっているわけです。この編曲での録音は、今まではブゾーニの弟子のエゴン・ペトリによる古い録音がひとつあっただけでしたが、これでクリアなサウンドで聞けるようになったわけです。
次の「幻想曲、アダージョとフーガ」も、面白い構成の編曲です。原曲である幻想曲とフーガ BWV 906は、フーガが未完成だったこともあり一般的には幻想曲のみがよく演奏されますが、ブゾーニは未完のフーガを補筆(というか自分流に展開)させて、間にアダージョ BWV 968を挿入しています。このアダージョは無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番の第1楽章を、バッハ自身(偽作説もありますが)がチェンバロ用に編曲したものです。
もうひとつ紹介しておきたいのが、「前奏曲とフーガ、フーガと装飾」(私の勝手な直訳。原題はPreludio, fuga e fuga figurata)です。原曲は平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第5番の前奏曲とフーガ ニ長調で、ほぼそのまま前奏曲とフーガが演奏された後に、前奏曲の走句とフーガが同時に演奏されます。以下の譜例を見てください。
Busoni/ Preludio, fuga e fuga figurata
(Busoni/ Preludio, fuga e fuga figurata)
なんとうまいことを思いついたことでしょう。ブゾーニ版の平均律曲集には様々な練習のための変奏が掲載されており、このアイデアも載っています。後に、ブゾーニの曲集「若者のために」(An die Jugend)の中に収められました。
他の収録曲については、またいつか紹介します。

  • Preludio, fuga e allegro
  • Fantasia, adagio e fuga
  • Fantasia, fuga, andante e scherzo
  • Fantasia nach Bach
  • Preludio, fuga e fuga figurata
  • Fantasia in modo antico Op.33b No.4
  • Drei Albumblatter
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    Transcriptions by Ira Levin

    今日は仕事関係の研修の帰り道で、久しぶりに秋葉原の石丸電気のクラシック売り場に立ち寄り、CDを買いました。やはり店頭では、Webで見つけられないいろいろなCDに出会えます。今日買ったCDでおもしろかったのは、「Piano Transcriptions by Ira Levin」です(帰ってきて調べたらAmazonでも売っていました)。
    AmazonではCDのジャケットイメージがなかったので、ここに貼り付けてみました。
    Piano Transcriptions by Ira Levin
    このCDには、すべて演奏者・Ira Levinによって編曲された曲が収録されています。そのうち5曲がバッハのピアノ編曲で、1曲目はトッカータ ヘ長調 BWV 540で始まります。バッハのオルガントッカータというと、まずニ短調 BWV565ハ長調 BWV564を思い浮かべますが、このヘ長調 BWV 540は規模も大きく、大胆な転調部分をメンデルスゾーンが「まるで教会が崩れ落ちようとするかのようだ」と評したそうです。
    Levinの編曲は楽譜を持っていないので、代わりにダルベール編曲の冒頭を譜例として掲載します。
    Bach=d'Albert/ Toccata and Fugue in F major BWV 540
    (Bach=d’Albert/ Toccata and Fugue in F major BWV 540)
    CDで聴けるLevinによる編曲・演奏は、素晴しいものでした。冒頭のバスFは、ソステヌート・ペダルで相当長い間鳴っており、オルガンの壮大さもよく表現されています。唯一、変だなと思うのが、原曲にない独自のアレンジが現れることです(約30小節分)。本来同じテーマが繰り返されるところですが、高音部で現代音楽風に展開され、その後また原曲に戻ります。オルガン原曲もきわめて壮麗な響きがありますが、ブゾーニによるオルガン曲の編曲のように和音は3度・6度・オクターブで増強され見事に再現されています。この曲については初めてピアノによる演奏を聴いて、あらためて良さがわかりました。この1曲のためだけにでも、このCDを買った価値があったと思っています。
    なお、それ以外の曲はまだしっかり聴いてません。以下に収録曲を掲載しておきます。

    <収録曲>

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    Transcendental Bach (2)

    前回に引き続きThomas LabeのCD「Transcendental Bach」の紹介です。
    ゴドフスキー編曲の無伴奏チェロ組曲 第2番。この曲はアンダンテ・カンタービレ、ピアニッシモでゆったりと始まります。前奏曲の冒頭には、本来の原曲に導入の2小節が追加されています。
    Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008
    (Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008)
    前奏曲、アルマンドとゆったりとした曲想が続いた後、嵐が吹き荒れるのがクーラントです。本来のクーラントの軽やかな舞曲とはかけ離れた、激しい音楽になっています。
    Bach=Godowsky/Courante from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008
    (Bach=Godowsky/Courante from Suite No.2 for violincello solo BWV 1008)
    無伴奏チェロ組曲の全楽章演奏に続くのは、今度は無伴奏ヴァイオリンソナタの方から一つの楽章の抜粋です。無伴奏ヴァイオリンソナタ 第1番より シチリアーノ。CDの中でも、重い音楽が続く中での小休止の趣があります。
    Bach=Godowsky/Siciliana from Sonata No.1 for violin solo BWV 1001
    (Bach=Godowsky/Siciliana from Sonata No.1 for violin solo BWV 1001)
    このCDにもうひと山ありました。無伴奏ヴァイオリン曲のピアノ版として最も有名なブゾーニ編「シャコンヌ」。 恐ろしいスピードで走り抜けるこの演奏にまず驚かされます。しみじみと味わうシャコンヌを期待すると卒倒します。(同じ高速演奏でもワイセンベルグのCDで聴ける演奏の方が味わいがあります)
    CDの最後は、無伴奏ヴァイオリンソナタ 第2番より アリアです。シャコンヌを弾き終え、拍手喝采の中で名残惜しくアンコールで演奏したかのような、心憎い配置です。
    Bach=Godowsky/Aria from Sonata No.3 for violin solo BWV 1003
    (Bach=Godowsky/Aria from Sonata No.3 for violin solo BWV 1003)

    <収録曲>

    Transcendental Bach (1)

    今回もCDの紹介です。私がバッハのピアノ編曲に興味を持つようになるきっかけのCDで、特別な存在です。本体のホームページでも既に紹介していますが、この素晴らしい録音についてはあらためてここで取り上げたいと思います(1曲ごとに紹介するので、何回かに分けて書いていきます)。「Transcendental Bach」、日本語で言うならば「超絶技巧バッハ」で、CDのタイトル通り、超絶技巧をもってして初めて達成し得るバッハのピアノ音楽がここにあります。演奏はThomas Labe。
    収録曲はすべてバッハの無伴奏弦楽器曲のピアノ編曲ですが、聴く前にはまず原曲の無伴奏曲のイメージは頭から捨て去る必要があります。原曲の(精神的に素晴らしい曲だという)先入観があると「こんな曲のはずがない」 というマイナスイメージを抱いてしまう可能性があるためです。
    CDを頭から聴いていきましょう。まずはゴドフスキー編曲の無伴奏チェロ組曲 第5番より 前奏曲とフーガです。楽譜を見ると、原曲の持続音の部分はほとんど対旋律で埋め尽くされ、執拗なまでのオクターブの低音の連続がありますが、演奏は決して重くなりすぎず、 原曲の持つ魅力とは全く別の新たな命が吹き込まれています。特にフーガでは、新たに追加された対旋律によって響きが艶やかに彩られ、大変魅力的な曲となっています。
    Bach=Godowsky/Prelude and Fugue from Suite No.5 for violincello solo BWV 1011
    (Bach=Godowsky/Prelude and Fugue from Suite No.5 for violincello solo BWV 1011)
    本来の組曲ではこの前奏曲のあとに舞曲が続きますが、前奏曲があまりに荘厳に編曲されているがゆえに、続く舞曲が(原曲は良い曲であっても)おとなしく尻つぼみと感じてしまいます。このCDでは前奏曲(とフーガ)だけが収録されていますが、そのバランスを考えてのことかもしれません。(単純に演奏時間の問題かもしれませんが)
    次にラフマニノフ編曲の無伴奏ヴァイオリンパルティータ 第3番より 前奏曲、ガヴォットとジーグ。荘重なゴドフスキー編の前曲とうって変わって、快速で軽妙な音楽が繰り広げられます。曲想そのものが爽やかですが、一般的なピアニストが採用するテンポよりもずいぶんと速い速度で一気に演奏されます。この曲でもまたゴドフスキー編と同じように、音の流れの中に見事に追加された対旋律は、 すべて冒頭の音型から紡ぎ出されています。
    Bach=Rachmaninoff/Prelude from Partita No.3 for violin solo BWV 1006
    (Bach=Rachmaninoff/Prelude from Partita No.3 for violin solo BWV 1006)
    その後、ゴドフスキー編曲に戻ります。無伴奏チェロ組曲 第3番も、基本は休符を音で埋め尽くした感じの編曲になります。
    シロティによる同曲の編曲(「無伴奏チェロ組曲による子供のための練習曲」に含まれています)と見比べてみましょう。どちらも前奏曲の冒頭部分です。
    Bach=Siloti/Prelude from Four Etude after Cello Suites
    (Bach=Siloti/Prelude from Four Etude after Cello Suites)
    Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.3 for violincello solo BWV 1009
    (Bach=Godowsky/Prelude from Suite No.3 for violincello solo BWV 1009)
    どうでしょうか?16分音符の本来の旋律をオクターブで厚く奏し、支えるバスと新たな旋律が合体され、全く新しい曲になっています。繰り返しますが、原曲を思い出さないで下さい。この曲を組曲を通して颯爽と演奏する様がこのCDに収録されているのです。
    収録曲紹介の続きは、また後日書きます。
    (to be continued…)


    <収録曲>